音楽の街・川崎で、路上ライブが「うるさい」「邪魔だ」という通報が相次いでいると話題だ。「路上ライブの聖地」と言われているJR川崎駅の東口駅前広場では連日、多くのアーティストが路上ライブを行なっている。そこで今回、川崎駅前で100人を対象に取材を実施し、リアルな意見を聞いてみた。また、この広場で路上ライブをするアーティストに本音を聞いてみた。
〈画像・川崎路上ライブ〉100人近くの観客を集めていたイケメンソロシンガー、アイドル、バンドマンたちと、路上ライブに対する注意書き
「優里(ゆうり)」や「マカロニえんぴつ」といった人気アーティストを輩出した路上ライブの聖地・JR川崎駅の東口駅前広場。連日、さまざまなジャンルのアーティストが夢を追ってライブ活動に勤しんでいる。しかし最近、騒音などによる通報が増えているそうだ。
SNSでは、川崎駅前の路上ライブに対して「街の特色だから規制しないでほしい」「路上で寝る人が増えるよりマシ」「ちゃんと許可は取るべきだ」などと賛否両論、さまざまな意見が飛び交っている。
川崎市役所の市民文化局市民文化振興室の担当者は、次のように語る。「市に寄せられる路上ライブに対するご意見は、賛否合わせて月に数件です。『音がうるさい』という苦情もきますが、逆に『応援している』という意見もあります。
条例で規制を設けていないので、関係するのは『道路交通法』になります。具体的には、大音量で通行人に迷惑をかけたり、点字ブロックを塞いでいたりする場合は、お声がけすることがあります。アンプやドラムセットの使用など、大音量を出す行為はお控えいただくようご案内していますが、禁止というわけではないです。機材を使っていなくても大音量であれば、お声がけすることもあります。
警察は通報が入ると必ず現地に向かい、お声がけをしていると聞いています。私たちも路上ライブをしている方にホームページに書いてあることを印刷したようなチラシを渡して、『ここに書かれているような行為はご遠慮ください』とお伝えすることがあります」
川崎駅の利用者は、路上ライブに対してどう思っているのだろうか? そこで今回、川崎駅前で100人を対象に街頭アンケートしてみた。まずは、「路上ライブ賛成派」の意見を紹介しよう。
「川崎では昔から路上ライブが行なわれていたから、今さら反対するのはおかしいと思います。仕事帰りで疲れているときに、夢に向かって一生懸命がんばっている人たちを見ると元気になります」(40代・男性・会社員・川崎市在住)「むしろ路上ライブやっているところに遭遇できたらうれしいです。まったく知らないアーティストでも、思わず足を止めて聴き入ってしまいますね。表現の自由だと思うので、それを規制するのはよくないと思います」(20代・女性・会社員・横浜市在住)
「反対していたり、わざわざ通報したりする人ってごく少数派だと思います。何に対してもいちいちケチつける人がいるんですよ。そういう少数派に配慮して文化を排除していく必要はないと思います。路上ライブを楽しみにしている人はたくさんいるので」(40代・男性・会社員・川崎市在住)
アンケートを進めていくと、そもそも「路上ライブに関心がない」と答える人も多かった。次に「賛成も反対もしない派」の意見を紹介する。「私は川崎が地元なので、駅前での路上ライブはごく普通の光景です。昔からそういう環境で育ってきたから、別に何とも思わないです。楽しみたい人だけ楽しめばいいと思います」(20代・男性・会社員・川崎市在住)
「友だちとの会話中、路上ライブの音で相手の声が聞こえないときがありますが、それ以外では気にしたことないです。それよりも、ヘイトスピーチのほうがうるさいです。よく駅前で演説している団体がいるんですよ」(20代・男性・会社員・横浜市在住)
続いて、「路上ライブ反対派」の意見を紹介する。「駅を出て路上ライブしていると不愉快ですね。仕事帰りは好きな曲を聴きながら自分を癒したいのに、イヤフォンを突き抜けて聴きたくもない歌が聴こえてくるから、舌打ちしたくなります。うるさいのに上手くもないし、『よくそんな腕前で人前立てるな』って人もめちゃくちゃ多いです」(20代・男性・会社員・東京都在住)「週末は路上ライブをしている人たちがすごく多くて、6組くらい同時にライブしている日もあります。そのぶん観客も増えるので、人が多くて歩きづらいから正直うざいなぁと感じます。それに何組も同時にライブしていると、音が混ざって聴こえてうるさいんですよ」(30代 男性・会社員・川崎市在住)
「いろいろと厳しくなっている今の時代、消えるのもしょうがないのかなって思います。わざわざ路上でライブしなくても、SNSでいくらでも発信できますし」(40代・男性・会社員・横浜市在住)
路上ライブを行なっているアーティストの中には、観客をたくさん集めている人もいるとのことだ。また、最近は男性アイドルグループが特に人気で、観客は20代~30代の女性が多いという。アンケートの結果、路上ライブに賛成派が43人、賛成も反対もしない派が36人、反対派が21人という結果になった。路上ライブに賛成派は反対派の2倍以上いることがわかった。
では、川崎駅前で路上ライブをするアーティストたちは、このような声があがっていること対して、どう思っているのだろうか? 本音を聞いてみた。
まず、路上ライブで100人近く観客を集めるソロシンガー・橋一輝さん(29)は次のように語る。「直接人の目に触れないと活動が広がらないので、『生の歌声を届けたい』という一心でやっています。僕も通報されたことは何度もありますが、みんな夢があってやっているので、嫌ならわざわざ通報せずにすっと帰ってほしいと思います。駅周辺にいる人は、帰るだけの人が大半だと思うので」
次に、3ピースバンド「Vivanz Eden」のリーダー・KAORUさん(25)はこう語った。「これまで2回程、通報されて警察に声をかけられたことがあります。そのときは、その場で演奏を止めて、すぐに撤収しました。でも、僕らが勝手にやっていることなので、不快に思う方もいるだろうし、『通報するなよ』とは思いません。アンプとドラムを使っていますが、音量には気を遣いながら演奏しています」
川崎駅前は、ほかの地域に比べると路上ライブに対して寛容な人が多く、街ゆく人から嫌な顔をされることも少ないようだ。路上ライブするアーティストも、それを楽しむ観客も、マナーを守り、駅の利用者には配慮してほしいところだ。取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班