近年、小中学校で、保護者と教職員が組織する社会教育関連団体「PTA/ Parent-Teacher Association」の存在意義が問われている。対面での会議、登下校や校庭の見守り、広報誌作成に加え、会費など保護者の負担が大きい。会費をめぐり不祥事も少なくない。今年の7月12日には、奈良県生駒市の小学校のPTA会長だった女性が、PTAの銀行口座から55万円を不正に引き出した疑いで逮捕された。さらに、朝日新聞が2024年8月に報じた記事では、自社のデータベースの検索で「PTA、会計、不祥事」といれた大型なものでは、2016年には熊本県立高校で約2850万円、2008年に京都市立高校で2600万円の横領が起こっていたと報じている。
また、PTAの全国組織である「日本PTA全国協議会」では、7月12日、事務局幹部2人が懲戒解雇になったとも報じられた。理由は不正な会計処理が疑われ、出入り禁止になっていたはずの元幹部を事務局内に立ち入らせていたことだという。この元幹部は、その5日後に埼玉県警が背任容疑で逮捕。その後、背任罪で起訴されている。
他にも、新学期が始まった9月2日、岡山県内のPTAでつくる県のPTA連合会が2024年度末で解散することが報道された。都道府県規模の連合会が解散するのは全国初の事例だと注目されている。 PTAのあり方が問われていることは間違いない。
キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんは「PTA活動で出会った保護者同士、保護者と先生が、恋愛関係になる事例も多いです」と言う。
山村さんに依頼がくる相談の多くは「時代」を反映している。同じような悩みを抱える方々への問題解決のヒントも多くあるはずだ。個人が特定されないように配慮をしながら、家族の問題を浮き上がらせる連載が「探偵が見た家族の連載」だ。
今回山村さんのところに相談に来たのは、43歳の竜也さん。「40歳の妻が夜中に家を出て行ったり、セクシーな下着を購入したりして、様子がおかしいんです。妻はむしろそんなことを嫌うほうだったのに……」と山村さんに連絡をしてきたのだ。
山村佳子(やまむら・よしこ)リッツ横浜探偵社の私立探偵、夫婦カウンセラー。JADP認定 メンタル心理アドバイザー JADP認定 夫婦カウンセラー。神奈川県横浜市で生まれ育つ。フェリス女学院大学在学中から、探偵の仕事を開始。卒業後は化粧品メーカーなどに勤務。2013年に5年間の修行を経て、リッツ横浜探偵社を設立。豊富な調査とカウンセリング経験を持つ探偵として注目を集める。テレビやWEB連載など様々なメディアで活躍している。
今回の依頼者・竜也さんは、調査会社に勤務しているエンジニアです。カウンセリングの打ち合わせ時間の5分前に、「3分遅れます」と連絡がありました。そして、「ごめんなさい、2分遅れてしまいました。申し訳ございません」と扉を開けて、入ってきます。
走ってきたのか、額から汗が出ています。私が汗に気づくと、「急いだこともありますが、僕、緊張すると汗が出てしまって、申し訳ないです」と言っています。目が大きく、顔が小さく、ふさふさの髪にはパーマとカラーリングをしていました。オーバーサイズのダンガーリーシャツにチノパンを合わせており、小柄でほっそりとしているので、女性のようにも見えます。手がふるえているので、まずは深呼吸していただき、落ち着いてからお話しいただくことにしました。
その後、通勤に使っている高級アウトドアブランドの黒いリュック中から、パワポでまとめた10枚程度の資料を出してきます。
「今日、2分遅れてしまったのは、この資料をコンビニでプリントしていたからです。会社で出力しちゃいけないと思いまして」と話していました。真面目な人柄のようです。
資料には妻の名前を記し、「6月10日からの生活態度について」とありました。
「資料に従って説明します。僕と妻は、小学校の吹奏楽部で出会いました」
竜也さんは当時6年生、3年生の妻を「可愛い子だ」と思い、ほのかな恋心を抱いていたそうです。その後、竜也さんは私立中学校に進学し、地元とは疎遠に。妻のことを忘れていた大学時代、サークル活動で妻と再会します。
「地球温暖化を生活から考えるという趣旨のサークルで、里山保全の手伝いをしていました。ある地区に行き、地元の方の指示に従って、ゴミ拾いをしたり、枝払いをしたり……僕はこの活動にのめり込んでおり、4年生の時も参加していたんです。活動が終わった後の飲み会で新入生の女子から“もしかして、〇〇小学校の吹奏楽部にいた人ですか?”と言われたのです。それが、初恋の女の子であり、後に妻となる人との再会でした」
その時に、竜也さんは運命を感じ、一生に一度の恋に落ちたといいます。
「声をかけられる前からも、容姿も性格も全て好感を持っていました。大学に入ってから、女の子から告白されたことがあったのですが、僕が信号を必ず守ったり、横断歩道しか渡らないところや、文房具を含めた備品を私的に使わないところを“ウザ”と言われて、嫌われていたので」
他の女性とは、初デートの段階で「なんか違う」とフラれていたといいます。
「そんな経験を重ねて、自分から女性を好きになりたいと思っていたのです。でも全然出会えなかった。そんなとき、妻が声をかけてきてくれて、途方もなく好きになってしまい、猛烈にプッシュして付き合ってもらったのです」
妻は困惑しつつも竜也さんの告白を受け入れます。順調に交際を重ね、6年目に結婚。竜也さん28歳、妻25歳のときでした。
「妻の母は頻繁に浮気をし、相手と駆け落ちして再び家に戻ることもあったそう。妻はそれを黙認している父親と、男好きな母親を憎んでいました。“私はあの女の性依存の血が流れている”と言っており、性交渉を忌避するようなところがあったのです。だから、妻と男女の関係になったのは、交際3年目でした。そうなると、本当に離れられない仲になり、毎日プロポーズして、交際6年目にやっと結婚を受けていただいたのです」
妻は両親の問題があり結婚への忌避感が強かったので、しぶしぶ応じてくれたとのこと。加えて、性へのタブー感も強く、結婚してからも、部屋を真っ暗にしており、ほぼ無反応な状態で交渉をしていたそうです。
「僕はそれほど性欲が強くないですし、妻との心の密度が濃いので、そんなことは問題になりませんでした。妻の心の問題もあり、子供は作らない予定だったのですが、7年前、バリ島に旅行したときに、開放的な気分になり体を重ねたところ、息子を授かりました」
妻は妊娠してから、それまで勤務していた会社を辞めて、子育てに専念するために専業主婦になります。
「妻は親との関係が悪い。だから、子供にはたっぷりの愛情を注ぎたいと語っていました。庭付きの一戸建てが欲しいというので家も買い、息子はすくすくと成長。息子は今年、小学校に入り、幼稚園の頃からPTAに熱心な妻は小学校でもPTA活動に立候補します。それからですよ。おかしくなったのは」
息子が入学した小学校は、専業主婦が多いこともあり、学校行事のPTA役員の負担が大きい。運動会、バザー、PTA主催のバスツアー、ビオトープの清掃、学校の花壇の水やりなど、有志の保護者が率先して活動していたそうです。
「妻はもともと、そういう誰かの役に立てる活動が好きですから、息子が幼稚園時代からPTAの役員になっていました。小学校入学時もPTAに入り、すぐ重要な地位に就いたことは、妻との会話でわかりました」
竜也さんも会社で順調に出世して、国内外の出張に出かけることも増えたと言います。
「息子が生まれて6年間、僕は仕事、妻は子育てに集中し、これ以上の幸せはないと思うくらい、楽しい毎日を過ごしていたのです」
ところが6月、夏に竜也さんが1週間の海外出張に出かけることになりました。それを息子に伝えると「パパ、行かないで。ママが夜、出かけると怖いんだ」と泣き出したそう。それを妻に伝えると「PTAの活動があるの。仕方ないでしょ。小学生なんだから、留守番くらいできなくてどうするの?」と強い言葉で反論されます。
「あれほど、息子にべったりだったのにおかしいと思いました。それから妻の行動を記録したのが、お渡しした資料です。そこにあるように、妻は僕や息子が眠った後に家を出て、1時間ほど外出することが、1~2回ある。僕の眠りは深いですが、息子は過敏なので気づくのでしょう。さらに、下着が変わっています。妻はかつてスポーツブラとトランクスを愛用していましたが、資料にあるようにレースのものに変わっています」
さらに、息子も使う家族共用のタブレットの検索履歴には、男性を性的に喜ばせるためのテクニック調べたであろう単語がずらり。これは、完全に浮気をしています。
「相手の男性を特定していただき、妻と別れていただきたい。場合によっては引越しも考えています」と竜也さんは目に涙を浮かべながら話していました。
◇PTA活動が深夜に行われることはないはずだ。真面目で、母親のトラウマから性的喜びに嫌悪感を抱いていたような妻の変化はどう考えても怪しい。専業主婦の妻が社会との接点を持っているのはPTAしかない……。それでは真面目な妻にいったい何が起きたのだろうか。
調査の結果とその後は後編「小1の息子の涙で浮上した40歳妻の浮気疑惑。PTAを舞台にした現実と夫の決断」にて詳しくお伝えする。
小1の息子の涙で浮上した40歳妻の浮気疑惑。PTAを舞台にした現実と夫の決断