「頭の回転が早く、“優秀”な人で、何事も自分に有利に進めようとする、高圧的な人、モラハラ、パワハラ、セクハラの要素を含む人は、夫婦間でも問題を抱えるケースが多々あります」と言うのは、キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんだ。彼女は浮気調査に定評がある「リッツ横浜探偵社」の代表だ。
法務省が令和3年に発表した30代~40代の協議離婚をしたこどものいる男女1000人(男性500人、女性500人)アンケート調査結果によると、離婚したときの第1子の年齢は0歳~12歳までが5%前後、13歳~17歳までが3%前後。そして複数選択してもよい離婚の原因は「精神的暴力」が210人、経済的暴力が135人、身体的暴力が79人もいる。
これは理解力のあるこどもたちが面前DVに遭っている可能性の高さも示している。しかもDVの多くは「暴力を受けるのは自分が悪いからだ」と思ってしまう洗脳状態になっていることも多く、DVに遭っていることから逃げられない人もいる。
今回山村さんのところに相談にきた45歳の由香里さんは、結婚15年になる同じ年の夫からのモラハラを、14歳の娘から指摘され、気づくことができたのだという。夫との間には10歳の息子もいる。
夫は高学歴で大手商社勤務経験もあるエリート。見た目も素敵で、女性にモテるタイプだ。由香里さんは彼が講師を務める勉強会に通うようになり、一目ぼれのような状態だった。
夫は、距離を縮めようとする由香里さんを邪険に「頭が悪い」「容姿偏差値が低い」と追い払うも、由香里さんは部活で鍛えた根性で、彼女の地位を獲得。交際1年で結婚し、その後娘と息子を授かった。
ただ、夫が由香里さんを妻にしたのは、おそらく財産目当てだと由香里さんは感じるようになっていた。彼女は地主の娘で、自分名義の不動産があるのだ。夫は肩書きこそ高学歴のエリートだが、自分の思い通りに行かないと腹を立てて放り出してしまう性格で、現在はほぼ無職に等しい。それでも由香里さんは夫のモラハラを受け入れながらも、生活を続けていた。
ところがある日、娘とたまたまテレビを見ていた時に、モラハラ夫の再現映像が流れる。娘は「パパとママみたいだね」と指摘して、由香里さんはハッとする。さらにその数日後、池袋に遊びに行った娘が、夫は見知らぬ女性と腕を組みながらラブホテルを歩いているのを見てしまった。夫と娘が衝突し、娘は由香里さんの実家に行く。その様子を見ていた10歳の息子は学校に行けなくなり、そのことを夫に怒鳴られると「死にたい」と言い出した。事態を重くみた由香里さんは息子も実家に預けることに。
その帰り道、由香里さんは同級生が経営する中華料理店に入る。思わず夫のことを相談すると、「それはモラハラ、速攻別れたほうがいい」とアドバイスを受ける。夫は由香里さん名義の不動産を自分のものに書き換えや財産の管理を申し出ていたのだ。しかし夫は本当に浮気をしているのだろうか。そして調査結果を受けて由香里さんは何を決断するのか。
夫が実家のお金関係を把握しようとしていることを知り、由香里さんに現在、どこから収入を得ているのか聞くと、彼女の財産は父親が代表を務める会社が管理しており、毎月50万円ほどを給料として渡されているそう。夫も名義上の役員になっており、20万円程度の役員報酬を受け取っているとか。
「夫は結婚してからも、何かのビジネスの会社を立ち上げたのですが、自分で営業に行かないんです。誰かに代行させて、その人が結果を出さないとキレる。“そんな奴に給料は払わない”と怒って、相手の人に訴訟を起こされたこともありました」
夫はモラハラというより、もしかするとサイコパスと言われるものではないかとも感じさせられます。初対面や付き合いが浅いうちの印象はとても良く、近所や親戚から「聡明できちんとしたイケメン」と評価が高いのです。
由香里さんは夫にマインドコントロールのようなことをされていて、私が調査日の割り出しのために事前情報を得ようとすると、「夫に家のことは外で話すなと言われていて、言っていいのかな。怖いな」などと言っています。
そこで私は「息子さんに死にたいとまで言わせています。夫の調査は急務だと思いますよ」とお話しすると、「そうですよね」と教えてくれました。それによると、夫が出かけるのは、金曜日の夜であり、土曜は丸一日家にいないこともあるのだとか。
そこで、金曜日の19時前に、都内の高級住宅地で張り込みスタート。豪邸が立ち並んでいるのですが、よく見ると空き家が多い。警察の巡回も多いエリアです。
19時45分に出て来た夫は、門の外でタバコを吸い、終わると地面に投げつけて靴で潰していました。後で知ったのですが、これは夫の習慣で、由香里さんが外に出て吸い殻を回収しているとのこと。
アプリで呼んだタクシーに乗り、渋谷で下車。歓楽街の中にある客単価7000円くらいのダイニングバーに入っていきます。夫は一番乗りでした。通された席が4人がけなので合コンだと思ったらその通りで、後から40歳くらいの女性2人と、ガッチリした体型で、自信にあふれている男性が連れ立って来て飲み始めます。
夫は酒が強く、皆が酔っていても顔色一つ変えません。話題も豊富で、フランスや英国の総選挙について、大統領選が世界の潮流にどう影響を与えるか、環境問題についてなど、相手に教えるようにペラペラと話している。
男性は夫とゴルフ仲間で親しいとのこと。「こいつ、頭いいんだよ。元商社マンで、今は経営者。離婚したばかりのバツイチ。ガキもいないし、狙い目だよ」などと女性たちに話している。
一人の女性が「え~バツイチって、離婚原因を知るまでは安心できない。借金とかモラハラとかDVとかだったら、絶対にやだ~」と言うと、夫はあからさまに嫌悪感ある表情を一瞬浮かべつつ、「は?」と言い、場が凍りつく。男性が夫の脇腹を「おい」と突くと、再び笑顔になって話し始めました。
もう一人の女性が「まあまあまあ、いいじゃないの。離婚したばかりの時って、心の傷があるからさ~。私もそうだったよ。楽しく飲も!」と場をとりなすと、夫は「君は見どころがあるね」と発言。その後、なんとなく場がしらけてしまい、21時30分ごろに解散。
夫と男性は2軒目に行き、男性は「まじで、ああいう態度は、やめろ」と夫に話しています。夫は「ああ、気を付ける」と言いながら、なぜ注意されるのかわからず不服な様子。2人から濃厚に性欲の雰囲気が立ち込めてきたので、マッチングアプリなどで女性を物色するのかと思っていたら、2人連れ立って高級な性産業の店に入って行きました。
2人は2時間後に出てきて渋谷駅で「またな」と別れます。長年からの仲間といった雰囲気です。男性は終電に間に合うように、地下鉄の改札に向かい、急ぎ足で降りて行きました。
夫も家に帰るのかと思っていたら、そのまま渋谷駅で誰かを待っています。すると、50代半ばくらいに見える地味な女性がやってきました。その女性と無言で合流し、再び道玄坂をあがり、ラブホテルに慣れた様子で入って行きます。後で分かったことですが、この女性は、かつて夫の講座に通っていた現在50代の生徒で、いわゆる「○○ガールズ」と夫の名字で呼ばれていた親衛隊の一人でした。
夫は終始無言で顔を隠すようにしている。性産業のお店に入るときは、意気揚々とした陽キャだったのに、ラブホテルでは、目立たないように振る舞うクラスの陰キャという様子。女性の方がリードして、夫を引っ張り込んでいくような雰囲気でした。
2人は4時に出てくると、夫と女性はそれぞれタクシーで帰宅。女性も高級住宅街の中にある豪邸に入って行きました。家族が寝静まった後でてきて、夫とデートをし、起きる前に帰宅したのでしょう。
半日で浮気の証拠を押さえてしまい、由香里さんに提出すると「あーー」と叫んでテーブルに突っ伏してしまいました。
「いや、私、これでも夫のことを信じていたんですよ」と泣いている。この証拠を両親に見せて相談したところ「別れなさい」と言われたそうです。由香里さんの兄と弁護士が間に入り、嫌がる夫を説き伏せて離婚が成立。夫はあらゆる理屈を述べましたが、弁護士には敵いません。調査から1週間という超スピードで離婚が成立。
「私だけだったら、迷っていたと思います。夫がいい大学を出て元商社マンで、そして見た目もいいということで惹かれていたんですよね。でもやはり子供達のためにも離婚する決意をしました。息子が“パパがいるなら、家に帰らない”と泣いたんです。あんなに優しくて、思いやりがある子が、嫌だというなんて……」
由香里さんが実家でテレビを見ていた時に、別のモラハラの再現ドラマが流れてきたそうです。娘は冷笑しましたが、息子はそれを見て「嫌だ」と泣き出し、嘔吐したとか。夫が自分に対してしてきたことがこどもにこれだけ深き傷を作っていることを認識し、そこで由香里さんは未練を断ち切ったそうです。
そもそも、彼女にも円形脱毛症、謎の湿疹などストレス性の不調が出ていました。さらに娘は摂食障害を患っていました。夫から「そんなに食べたら糖尿になる」とか「ママみたいなデブになったら俺の娘じゃない」と怒られていたことが原因ではないかと推測しています。ちなみに、由香里さんは健康的な体型で、医師に減量を指示されたことも一切ありません。まるでモデルのような体型でなければ妻として認めないということなのでしょうか。
夫は講演会の仕事もなくなり、実質無職でした。由香里さんの実家から受け取る20万円が彼の小遣いで、生活費も入れてなかったのです。しかしそれでは足らず、消費者金融から200万円の借金もしていました。さらに、マッチングアプリで知り合った女性と性交渉をしようとした際に、美人局の被害に遭い50万円を自分の親から借りていたのです。由香里さんはその証拠を見たことで目が覚めたと言っていました。今後、夫も一緒に住んでいた家は賃貸に出し、しばらく実家で生活するそう。夫は友達の家にいき、再びなんらかの事業を行うと見栄を切って出ていったそうです。
一連の顛末を知り、最も喜んだのは由香里さんの父親だったそうです。父は夫のことを危ういと感じていました。モラハラのことは知らなかったけれど、役員報酬を渡してはいるものの何も手伝おうともしないし、事業も続いてないわりにプライドが高い。こちらの財産管理などには関わらせまいとは思っていたようです。それでも「娘の決めたことに反対はできない」と、離婚の日を虎視眈々と待っていたのだそう。
由香里さんは父から「あなたの離婚が最高の親孝行だ」と言われて、胸を打つものがあったそうです。それまで夫から「お前には無理だ」と言われていた宅地建物取引士の資格取得への挑戦も始め、兄と共に家業の一員になるために、行動を始めたと報告してくれました。
未来に向かって進むは母の姿を見ていると、息子も学校に通い出したそう。「離婚で家族の未来は明るくなりました。夫はあんな人ですが、私に子供を授けてくれたことには変わりはありません。夫との間にできた娘がしっかりして私に現実を伝えてくれたから、実家も蝕まれずに済んだし、私も目が覚めたんです。夫が私たちにしてきたことには悲しみを感じますが、これもまた運命だと思って引きずらずに生きていこうと思います」と晴々とした声で話していました。
調査料金は14万円(経費別)です。
「パパとママみたい」娘に指摘された「夫のモラハラ」夫が45歳妻を選んだ”理由”の戦慄