連日、猛暑が続き、熱中症対策でこまめな水分補給が呼びかけられているなか、7月18日に「CHANTO WEB」が報じた「水が飲めない子どもが増えている衝撃」という記事が話題になっている。専門家によると小学校の1クラスに2~3人は“水が飲めない子ども”がいるという。そこで今回、現役教師たちに子どもたちのリアルな“飲み水”事情を聞いてみた。また、20代~40代の各世代に小学生時代を振り返ってもらい、当時の学校での水分補給事情を語ってもらった。
〈今ではなかなか見ない〉昭和女子たちのあいだで小学生の頃に多かった、口をつけない水の飲み方…と、蛇口から水を飲むペットたち
全国的に広い範囲で熱中症警戒アラートが発表され、対策が呼びかけられるなか、「水の味が苦手で飲めない子ども」が増えていることが懸念されている。なぜこうした現象が起きているのか?現役の小学校教諭たちは悩ましそうにこう語る。
「水の味が苦手な子どもは年々増えてきているように感じます。中には、家庭で常にジュースやスポーツドリンクを飲んでいる影響で『水は味がしないから嫌だ』という子どももいます。ミネラルウォーターや冷水機の水であれば飲めるけど、冷えていない常温の水や水道水が飲めないという子どもも多いですね。最近は暑さが厳しく、登下校中に体調不良を起こす児童もいることから、毎日必ずお茶か水を入れた水筒を忘れずに持参するよう保護者や子どもたちに呼びかけています。スポーツドリンクの持参を許可している学校もあると聞きますが、私が勤務する学校では、禁止されています」(30代女性 東京都小学校教諭)
理由は、小学生児童が500ミリのスポーツドリンクを1本飲むと「1日の目安となる糖分の摂取量を超えてしまうから」だという。さらにこんな理由もあるという。「スポーツドリンクを常飲すると、虫歯になるリスクが高くなります。それに、スポーツドリンクは酸性のため、金属製の水筒の内側に傷がついていたり、長時間入れっぱなしにしていたりすると、金属成分が溶け出し、中毒症状を引き起こす危険もあると聞きました。水筒の中の水が足りなくなった子どもや水筒を忘れてきた子どもには、冷水機の水を飲むようにすすめています。『喉がカラカラだけど、水は味が嫌いだから飲みたくない』という児童でも、熱中症の危険性を説明すると、ほとんどの子は冷水機の水を飲んでくれます。熱中症は命に関わることなので、水が苦手な児童にはとくに、水筒のお茶をできるだけ多めに持参させてほしいです」
別の都内小学校に勤める女性教諭は「コロナの影響もあるでしょう」と語る。「最近は1クラス2~3人くらいの子どもが『水の味が苦手で飲めない』と言います。コロナ禍では、感染防止のため、ほとんどの学校で冷水器の水や水道水を飲むことが禁止されていました。そのため、私が勤務する学校では、夏場だけでなく、年中水筒を持参することが義務づけられていました。コロナ禍以降、水筒持参が当たり前の状態が続いていることも、水が飲めなくなった子どもが増えた理由の一つかと思います。
熱中症がとくに心配なこの時期は、登下校時や休み時間にこまめな水分補給を心がけるように子どもたちにいつも呼びかけています。私が勤務する学校では、スポーツドリンクの持参は禁止されていません。ただ、スポーツドリンクには、糖分を多く含むものがあり、飲み過ぎると吐き気や腹痛、意識がもうろうとするなど、さまざまな症状が引き起こされることもあるため、とくに低学年の児童には、一気飲みはしないように呼びかけています。また、熱中症の疑いで保健室を利用した児童のために、保健室にスポーツドリンクと経口補水液を常備しています。養護教諭が必要に応じて、それを飲ませることもあります」
「日頃から水を飲む習慣をつけてほしい」と教師たちは語っていた。親たちはどう思うか、毎年「住みたい街」で上位にランクインする吉祥寺駅周辺で小学生のママたちを対象に街頭アンケートしてみた。「うちの娘は、『水は味がないから嫌だ』と言って、家のウォーターサーバーの水を一切飲んでくれません。レストランへ食事をしに行ったときも毎回ジュースをせがまれます。学校に行くときはいつも水筒に麦茶を入れて持たせています。この時期は水筒1本だと心配なので、毎日2本持たせています」(40代専業主婦 小4女子のママ)
「小1の娘は麦茶やミネラルウォーターは飲みますが、まったく『水道水』に手をつけませんね。公園で遊んでいて喉が渇くと水飲み場をスルーして『お水買って~』ですからね(笑)。でも東京住んで20年以上になりますけど、自分も水道水なんてほとんど飲んでないし、飲まないことが“当たり前”なのでそれほど気になりません」(40代・自営業・小1女子のママ)
「小2の息子は基本、麦茶ばかりでふだんから水道水は飲まないです。ただ水筒がカラになると学校の冷水器で水を足しています。冷たいと飲めるらしく、水筒は氷でいっぱいにしています。この前、家で麦茶とミネラルウォーターが切れていて、水道水に氷を入れて渡したら風呂上りにおいしそうにガブガブ飲んでました」(40代パート。小2男子のママ)
「うちの息子は公園に連れて行くと、少し目を離した隙に水道水をガブガブ飲むから困っています。水筒にお茶を入れて持って行っても、水道水のほうが好きだと言うんです。公園の水道って誰がどういう風に使っているかわからないから衛生面が不安です。今のところ、お腹を壊したことはないので問題ないとは思うのですが、学校で同じことをして、友達に引かれないかが心配です」(30代パート・小1男子のママ)
一方で、昭和、平成の学校ではどのように水分補給がされていたのだろうか? それぞれの世代に訊いてみた。「私は小学校の頃、バレー部に入っていて、放課後の体育館で毎日ハードな練習に励んでいました。私たちの世代は『ブラック部活』がまだ当たり前の時代で、決められた休憩時間にしか水分補給をすることが許されませんでした。夏場の蒸し暑い体育館で練習をしていて、喉がカラカラの状態でも監督に『休憩時間になるまで我慢しろ!』と言われていました。限界を感じ、トイレに行くふりをして、監督に隠れてトイレの水道の水を飲む部員も多かったです。私は物心ついた頃から水道水を飲むことに抵抗があったので、ふだんであれば絶対に飲まないのですが、そのときばかりは熱中症で倒れるよりはマシだと言う気持ちで、トイレの水道の水をガブ飲みしました。今思い出しても辛い思い出です」(20代後半女性 サービス業)
「僕が小学生の頃は、今のように熱中症対策をするのが当たり前の時代ではなかったので、学校に水筒を持って行かない日も普通にありました。小学校には冷水機が設置されていましたが、クラスメイトが水の出口に口を直接つけて飲んでいるところを見てしまって以来、飲めなくなりました。当時は水を買うなんて概念がなかったので、みんな学校でも当たり前のように水道水を飲んでいました。中学生くらいまでは、水分補給ができれば何でもよかったので、水道水がまずいとかおいしいとか考えたこともなかったですね」(30代・男性 営業)
「冷水器なんかありません。学校の水道水で水分補給をしていました。だから、体育の授業終わりや夏場は水道に長蛇の列ができていました。蛇口に口を直接つけて水を飲んでいる子がいるとみんな『汚い』と言って、その子の後ろには並ばないようにしていました。あと、僕が通っていた小学校には、『右から2番目の蛇口から出る水が冷たくておいしい』という噂が流れていました。水を飲んでいる途中で後ろからくすぐられて、口に含んだ水を思いっきり噴き出しちゃう子もいましたね。それに男子は蛇口を上にして“じか飲み”。女子は蛇口を下にして“手をかざしながら口に飲む”なんて謎ルールがありました。懐かしいですね」(40代半ば男性 自営業)
総務省消防庁によると、昨年5月~9月の全国での熱中症による救急搬送人員の累計は9万1467人である。こまめな水分補給を心がけ、くれぐれも熱中症対策は万全に。取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班