横浜中華街からほど近い場所にある人気中華料理店『生香園 本館』。昭和46年創業で、広東料理の名店として知られる同店は、テレビでおなじみのオーナーシェフ・周富輝氏(73)が経営している。店の入り口には“炎の料理人”と呼ばれた兄・周富徳さん(享年71)とうつる写真が掲げられ、昨年には『出没!アド街ック天国』(テレビ東京)でも紹介され、店は連日、有名料理人の味を求めて多くの客で賑わっている。だが、NEWSポストセブンは調理場で食品偽装を行う瞬間の動画を入手。偽装行為は10年以上も前から行われていたという──。【前後編の前編。後編を読む】
【写真】食品偽装を行う料理人らの姿、なれた手つきで「食紅」を入れる瞬間、実際のメニュー表と提供されている「偽装料理」など
「富輝社長はメニューと違う食材を偽装し、いつまでお客さんを欺き続けるのか。今のご時世でこんな行為は許されません。『生香園』でまかり通っている偽装について、この10年以上の間、私が見てきたことをすべてお話します」──NEWSポストセブンの取材に、長年、同店の調理場に立ち続けた元従業員のAさんが重い口を開いた。取材をすすめると、人気料理店の調理場で行われていた偽装の実態が浮かび上がってきた。
周富輝氏は、生まれも育ちも横浜で19歳から父の経営する『生香園』で修業を始めた。彼の名を一躍有名にしたのは、1990年代に放送されていたバラエティー番組『浅草橋ヤング洋品店』(テレビ東京)。富徳さんのブレイクがきっかけで同番組に出演するようになった富輝氏は、その話術で兄と肩を並べるほどの人気ぶりだった。
「全盛期には『料理の鉄人』にも出演し、お店も大繁盛。1993年からは長者番付の常連になり、本館に続いて新館もオープンさせました。店内には松本人志さんや安室奈美恵さんらとの記念写真なども飾ってあります。しかし、2001年に法人税約4700万円を脱税したとして、有罪判決を受けています。1997年からの3年間に、伝票を調理場で燃やすなどして、売り上げの一部を除外していたそうです。富輝さんは判決を受けて、『将来が不安になり、やってしまった』『これからは一生懸命、料理の腕を磨きたい』と誓っていたのですが……」(テレビ局関係者)
脱税事件後、悔い改めたかに思われたが、『生香園』の調理場では驚きの光景が広がっていたという。元従業員のAさんが語る。
「調理場は数名の日本人と中国人で回していて、他の店で働いた経験者は少なく、『生香園』“生え抜き”の料理人がほとんどでした。私が働きだしたときに驚いたのが、料理人たちの行動でした。注文の入ったメニューとは別の食材を使って黙々と料理をしていたのです。思わず『何をやってるんですか?』と尋ねたら、古株の料理人は『ウチはこれでやってきてるから』と言っていたので、自分が働く前から偽装は横行していたんだと思います。富輝社長は従業員を怒鳴り散らすこともあり、ワンマン経営だったので誰も逆らえず文句も言えない状況でした」
実際に厨房で偽装が行われていた料理について、Aさんが詳細をこう証言した。
「偽装している代表的なメニューに『ふかのひれ、かにの玉子入りスープ』があります。中盆4830円(小盆3580円)と高額ですが、実際には蟹の卵は使用していませんでした。上海蟹の卵は赤みがかった独特の色合いがあるので、鶏の卵黄に食紅を混ぜて蟹の卵のように見せかけて調理し、提供しているのです。
“色粉”と呼んでいる食紅8グラムを400ccのお湯で薄めます。ただ加減が難しく、スープを沸かした状態で入れると分離してしまうので、1度火を止めるなどの工夫が必要です。色が赤く鮮やかに仕上がり過ぎると、富輝社長から『バレるからやり直せ!』と指摘されることもありました」
Aさんが厨房で撮影した動画には、『かにの玉子入りスープ』の注文を受けた料理人が慣れた手つきで鶏の卵黄に液状の食紅を数滴加える様子が映っていた。偽装されているメニューはこれだけではない。『うづら挽肉の炒め、レタス添え』中盆2750円(小盆1880円)もそのひとつだ。(「づ」は、メニュー上の表記を使用)
「これも実際にはうずらの挽肉は使用せず、豚の挽肉に甜面醤、豆板醤、ニンニク、ショウガを混ぜて炒めています。そこに腸詰とタケノコとしいたけを細かく切って、合わせて炒め、仕上げます。
人気メニューのひとつですが、うずらを食べたことがある人は少ないので、誰も豚肉を使用しているとは気づきません。何も知らないお客さんが『周さん、これ、おいいしいわね!』と喜んでいる姿を何度も見てきましたが、お客さんのことを馬鹿にしていますし、こんなことをさせられている自分自身もやりきれない思いでした」
Aさんが続ける。
「ほかにも高級食材の『花椎茸』も使用しているのは一般に売られている『干ししいたけ』で、偽装メニューは数えきれません。中華料理は高温の油でカリっと揚げたり、あんかけを使うなかで、鍋使いの技術が多く用いられているので、うまくごまかせてしまうんです」
なぜ、富輝氏はメニュー偽装を行っているのか。
「高価なメニューほど安価な代替の材料を使用すると、利幅が大きくなります。多くの不動産を所有する富輝社長は、お客様を欺いて私腹を肥やしていたと思われても仕方ありません。お客様はもちろん、従業員たちも被害者です。少なくとも私は胸を張って自分のことを『料理人』とは言えませんでした」
富輝氏の資産を調べると、5階建ての新館は自社ビル。ほかに自宅を含めて神奈川県内に同氏名義で、少なとも4つの不動産を所有していることが確認できた。今回の食品偽装について、法律事務所Z代表の伊藤建弁護士は景品表示法に抵触する可能性があると指摘する。
「『蟹の卵』と鶏の卵も、『うずら』と豚も全くの別物です。『花椎茸』も一般に高級食材とされているものですから、単なる干し椎茸とは全くの別物です。
こうした行為は、景品表示法の優良誤認表示に当たり、不当表示の1つとされています。不当表示をした場合、消費者庁から差止め等を求める措置命令がなされます。また、措置命令に従わない場合、事業者の代表者等は2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金。そして、当該事業者は3億円以下の罰金が科されます」
しかし、2013年にホテルによる食品偽装問題を受け、悪質な事案に対する措置が不十分であるとして法律が改正された。
「2016年より課徴金制度が導入されました。課徴金は、不当表示行為をした期間等につき、政府が算定した売上額の3%の課徴金が課されます。ただし、被害回復を促進するため、事業者が所定の手続により返金した場合は、その分が考慮されます」(同前)
食品をめぐる偽装は、これまでにも繰り返されてきた。2000年代には、BSE問題に関連して輸入牛肉を国産牛肉と偽って国に買い取られせていた牛肉偽装事件や、北海道の食品加工会社「ミートホープ」による牛肉ミンチ偽装事件、料亭「船場吉兆」の産地偽装や賞味期限偽装事件。2010年代には、外食チェーンの「木曽路」で、他県産の牛肉を「松阪牛」とメニューに表示して販売していたことが明らかになっている。特に「ミートホープ」事件では内部告発が問題発覚の端緒となっており、一般消費者からはわかりにくい食品偽装では関係者による告発は真実を明らかにする重要な鍵となる。
飲食店には扱う食品の安心、安全が求められる。元従業員によって告発された偽装について、富輝氏はどう答えるのか。後編では、取材班の直撃に富輝氏が語った反論を続報する。
(後編に続く)