高知県宿毛市と愛媛県愛南町で最大震度6弱を観測した地震の瞬間を捉えた映像には、「ゴゴゴゴゴゴ…」という不気味な音とともに車が跳ねる様子などが映し出されていた。
坂田知久さん(高知・宿毛市):これはやばいやつやと思って、南海トラフやと思いましたね。
女子児童(愛媛・愛南町):こんなに大きい地震初めて、南海トラフ巨大地震かと。
小栗民子さん(愛媛・愛南町):これはあの南海トラフだと思ったんです。バクバクでした、心臓が。
人々が、揺れのさなかに覚悟した南海トラフ地震だが、気象庁は「発生メカニズムからして違うものだ」と説明した。
一方、18日行われた政府の地震調査委員会の臨時会合では…
地震調査委員会・平田 直委員長:そもそも南海トラフでは、いつ巨大な地震が起きても不思議はない状態であるということを、四国の西部の皆さんだけではなくて十分に注意をしていただきたい
誰にとっても他人事ではない、その時のためにMr.サンデーは、地震発生直後「南海トラフ地震がきた」と覚悟した人たちの行動を取材した。
すると、切迫した状況の中で取った実際の行動から避難の教訓と課題が見えてきた。
1946年に起きた昭和南海地震の記録映像がある。
南海トラフで1946年12月21日、マグニチュード8の大地震が発生。震源は和歌山県の潮岬南方沖約100km。死者・行方不明者は1443人に上った。
記録映像ナレーション:被害は西南の日本全地域にわたり、さらに地震直後襲来した津波は沿海各地を襲い、被害を一層大きくしました。
それから78年が経つ今…
南海トラフ地震は100年から150年間隔で繰り返し発生しており、今後30年以内に70%から80%の確率で起こると予想されている。
政府による想定では最大震度7、九州から東海の広範囲に津波が到達し、高さは最大で34メートルに達する。最悪の場合、死者数の合計は32万3000人と想定され、東日本大震災の約17倍に上るという。
その南海トラフ地震の想定震源域で発生した今回の地震。
最大震度6弱を観測した愛媛県愛南町では、午後11時14分の地震発生直後、人はどのように行動したのか取材した。
祖母60代(愛媛・愛南町):まあ寝ようかなと思ったら(揺れが)来て、結構揺れました。もう動けん感じで…
その時、背中を押したのは小学6年生の孫・潤之介くんだった。
祖母60代(愛媛・愛南町):(孫が)「ばあちゃん逃げるよ」って言って。「まだいいんじゃないの?」とお母さんは言ってて、「ちょっと忘れ物」とかって言ってたけど、(孫は)「お母さん、ダメだ、ダメだ、行かなきゃいけない」と。
Mr.サンデー取材班:なんで避難しようと思ったの?
孫・潤之介くん:津波来たら怖いもん。
小学6年生の潤之介くんが、率先して家族を引っ張り、避難所へ向かったという。
孫・潤之介くん:あっちは海が近いから危なかったし、こっちは石垣があって危ないし
政府の防災情報によると、南海トラフ地震で愛南町に1メートルの津波が到達するまでの予想時間は20分とされている。一方、潤之介くんらが避難所にたどり着くまでにかかった時間は10分足らずだったという。
なぜ、ここまで素早い行動をとれたのか?
取材班が潤之介くんが通う愛南町立柏小学校を訪ねると、廊下には、児童全員分のヘルメットに、ライフジャケットがずらりと並んでいた。
柏小学校では南海トラフ地震を想定して、防災の対策や教育に力を入れてきたという。
愛南町立柏小学校・前田和美校長:(毎週)木曜日は防災ミニ学習会というのがあって、防災について学習しています
愛南町では学校だけでなく、地域一体となって防災訓練なども実施してきた。
町の危機管理を担う専門官は…
愛南町 危機管理専門官・二場健児さん:危機管理の原則っていうのは「最悪」を考えたんじゃダメなんです。「ど最悪」を考えないといけない。
その信念の現れは、停電した場合の夜間の避難対策にも…
Mr.サンデー取材班:こちら津波一時避難場所と書いてあるところ、ちょっと登ってみたいと思います。(真っ暗→光る)あ、灯りがつきました。人が通るとつくような人感センサーのシステムになっているようです。
避難場所への導線には、一定間隔でソーラーパネル充電式のライトを設置。
愛南町 危機管理専門官・二場健児さん:ソーラー型でないと、停電だったら使えませんから。ライフラインは止まるかもしれないじゃなくて、必ず止まるって。そこから入っていかないとダメなんです
一方、愛南町とともに震度6弱を観測した高知県宿毛市では避難行動をめぐる切実な課題も…
小栗民子さん(高知・宿毛市):(揺れが)ずずっときた瞬間。私もこれはあの南海トラフだと思ったんです。それでもう寝間着のまま裸足で向こう側の庭に飛び出ました。
地震発生時の午後11時14分、77歳の小栗さんが布団でテレビを見ていた時に地震が発生。経験したことのない揺れに、裸足のまま家を飛び出した。
そこにはトゲトゲの猫よけシートが敷かれてていたが…
小栗民子さん(高知・宿毛市):それ(猫よけシート)を踏んだままここへ出てきて、ここからずっと走ってて(家で寝ている夫に)お父さん、お父さんって言いながら…
Mr.サンデー取材班:これ踏んだんですか?
小栗民子さん(高知・宿毛市):そう、裸足で。痛かったんですけど痛さは感じんかった、その時は。生きることに必死になる。
一目散に始めた避難だが、あるものを忘れていたという。
小栗民子さん(高知・宿毛市):(タオルや歯ブラシなど)日常にいるものを防災用の袋に詰めて置いていますけど、お風呂場の脱衣所に置いていました
家の奥にしまってあった防災バッグをとっさには持ち出せなかった反省で、地震後は玄関に置くことにしたという。
今回小栗さんは、地震の直後気象庁による「津波の心配なし」との発表を見て、自宅にとどまったが…
南海トラフ地震を想定したこの地域のハザードマップを見ると、人が動けなくなる30センチの津波が到達するまで約39分。47分後には、5メートル以上の津波が押し寄せると想定されている。
しかし、避難場所に向かおうとすると急な階段が現れる…
小栗民子さん(高知・宿毛市):普段あんまりね、動いてない人はなかなかここ上がれませんもんね。
避難場所へのルートとなっている急な階段は100段。小栗さんは普段から歩いているので自信あると言っていたが…
小栗民子さん(高知・宿毛市):大変です(息が上がる)上がった後にコメントはつらい(笑顔)。ご近所の方で上がれそうもない人を置いて自分たちだけが上がるかっちゅうたら、なかなかそれはできませんよね。どうやってそういった方を避難させるかいうことは、今後の課題ですね。
求められる、誰もが迅速に避難できる環境。
東京大学名誉教授の笠原順三氏は、南海トラフ地震の脅威をこう語る。
東京大学・笠原順三名誉教授:震源域を見ますと、これは陸地ぐらいのところまで近寄ってるんですね。そういうところから津波が出るから2、3分で到達する可能性があると。
南海トラフ地震は震源域が陸に近いため、高知県の一部では最短3分で津波が到達。和歌山県や静岡県の一部ではわずか2分で来るという想定だ。
しかも…
東京大学・笠原順三名誉教授:震度7に到達する所もありますけど、それが3分ぐらい続いて、もっと揺れてるっていう可能性がありますね
最悪の場合、震度7の揺れが3分ほど続く恐れもあるというのだ。そんな揺れが続く状況下で避難は可能なのだろうか?
東京消防庁の池袋防災館で震度7の揺れを体験してみた。
Mr.サンデー取材班:震度7を体験します。お願いします。
南海トラフ地震では最大震度7の揺れが3分ほども続くと予想されているが、地域によっては津波到達までわずか2、3分しかない
Mr.サンデー取材班:かなり(揺れが)強いですね。机をつかんでいないと体が持って行かれそうです。とてもじゃないですけどこれで立って逃げるとかそういったことは…(困難)現状耐えるしかないという状況です。
検証のため特別な許可を得て1分30秒の震度7体験だったが、揺れが続く中で避難するのはかなり困難だと感じた。
もし「3分続く震度7の揺れ」と「2分で来る津波」が同じ地域を襲った場合、私たちに身を守る術はあるのだろうか…
愛媛県では、津波による浸水を遅らせることで、避難する時間を稼ごうと、堤防を高くする整備を進めているという。
また、最大34.4mの津波が想定されている高知県黒潮町では、6か所に津波避難タワーが建てられた。
黒潮町役場 情報防災課・村越淳課長:この辺の方が自然高台までの避難が津波が来るまでに間に合わないということで、この場所に避難タワーを作って、近くの方がタワーに行っていただくということで建設しています
各地で懸命な対策が進められているが、南海トラフ地震の危機は今、どれほど差し迫っているのだろうか。
(Mr.サンデー 4月21日放送より)