ファミリーもたくさん訪れる緑地公園でセクシービデオの撮影が行われていた――。そのことがXの投稿から明るみとなって、ネットで炎上のさなか、杉並区議会にもとりあげられた。公園利用者たちは都会のオアシスを汚されてどう思っているのか。また、事の経緯と問題点を関係者に聞いた。
炎上の舞台となったのは東京都の「杉並区立蚕糸(さんし)の森公園」。戦前から稼働していた蚕糸試験場の跡地を利用して1986年に開園した緑地公園で、敷地内では隣接した区立杉並第十小学校の校庭が共用化されており、園内には人口の川が流れる。東高円寺駅の目の前という立地のよさからも、区内外から多くの利用者が集う憩いの場だ。
そんな都会のオアシスでセクシービデオ撮影疑惑が浮上したのは3月15日。この件を強く問題視する杉並区のある区議会議員が経緯をこう説明する。「Xで流れてきたセクシービデオのパッケージを見た妻が『え これ蚕糸の森公園で撮影してません?』と投稿しました。私もこのような場所で公序良俗に反する作品が撮られること自体おかしいと思ったため、3月15日に行なわれた特別予算委員会で『蚕糸の森公園にてセクシービデオの撮影が行なわれていたことが判明しました』と報告しました」問題となっているのはセクシービデオメーカー「ソフト・オン・デマンド」(SOD)より、昨年11月に配信開始された作品。ただし、さすがに公園内で卑猥なシーンの撮影が行なわれたわけではない。実話誌ライターが語る。「本作品のパッケージやドラマパート部分に蚕糸の森公園の正門が映り込んだことから場所が特定され、Xでの炎上へとつながったようです。公園より徒歩3分ほどの場所には他スタジオよりも安価に借りられることから“セクシービデオのメッカ”と呼ばれるハウススタジオがあります。同作内でも出演者がそのスタジオ方面へと向かうシーンもありますし、SOD本社もここからほど近いところにある。そういった立地からこの公園を撮影場所に選んだのでしょう」
さらに、作品の主演を務める女優の身長が136cmで、中学受験を控えた女子生徒が父親に洗脳されて肉体関係を持つという設定。いわゆる小児性愛をテーマにしたことも火に油を注いでいるようだ。前出の杉並区議会議員にも区民から不安の声が寄せられているという。「お子さんが杉十(公園に隣接された杉並第十小学校)に通っているある親御さんは、『子どもの小学校の敷地内でセクシービデオが撮影されたことは恥ずかしい』と話していましたし、別の区民の方からは『あのような趣味の持ち主が聖地巡礼と称して公園にやってきて、自分の子どもたちもそういう目で見られると思うと心配』といった意見も寄せられました」
杉並区立の公園でこのような撮影を行なう場合、事前に区への申請が必要だ。もし区が撮影を認めていたのならば、メーカー側も誹りを受ける筋合いはない。だが、杉並区都市整備部みどり公園課の担当者に問い合わせると「今回の件については、制作元から撮影の申請自体がきていない」と困惑する。「本来であれば、申請の際に企画書の提出をしていただき、公序良俗に反するものや、暴力シーンがある撮影などはお断りしています。ですが、今回の件については撮影申請自体がなかったので、いずれも無許可で撮影されたことになります。そこで私から制作元に問い合わせて事実確認したところ、『撮影をしました』と認めてきたので、3月中旬ごろに電話で抗議の意を伝えて、制作元の責任者に謝罪してもらいました」
しかし、これで事態はおさまらない。このような撮影を行なう場合、1時間あたり1万6857円の占有料金がかかると記載されている。前述の区議会議員は「現在、SODは公園の使用料を踏み倒しており杉並区に損害を与えている」と主張。このことについて担当者はこう頭を抱える。「区立公園の使用料は撮影申請を許可した場合のみ徴収しており、手続きそのものがない今回のケースは当てはまりません。むしろ、使用料をもらうと撮影を許可したことになってしまうため、区としてはお金を取るわけにはいかないのです」一方、公園利用者たちはこの問題をどう思っているのか。芝生エリアの桜が咲き始め、春の訪れを喜ぶように無邪気に子どもたちが遊ぶ3月下旬に同公園に出向き、利用者たちに話を聞いてみた。
「ここは杉並区でもかなり大きい公園だし、息子と同じくらいの年齢の子も多いので安心して遊ばせられるんです。それなのにああいう作品の撮影がされてたかと思うとちょっと複雑な思いはあります」(30代・男性)「ここは川遊びもできるし、ワンちゃんの散歩に訪れる人もいて、みんなの憩いの場として知られている場所です。まだ繁華街やホテル街にある公園で撮影するなら百歩譲ってわかるのですが…」(40代・男性)このように不安を口にする人が多いなか、蚕糸の森公園の近くで屋台を営業する男性によると、この公園はたびたびドラマの撮影にも使用されるという。
今回の件についてAV業界関係者たちは何を思うのか? 過去にSODから撮影を委託された経験のあるセクシービデオ監督は、「今回は明らかにSODのミス。よくぞこんなに堂々と外で撮影し、モザイクも入れずに出したもんです」と語る。「仮に撮影申請をしても許可されるはずがないので、このような公園での撮影は、セクシービデオの現場としては無許可でやるしかない。それでも、『ここはまわりから目立つから止めておこう』『敷地内には極力入らないでおこう』など、最低限のリスクヘッジはしています。今回は公園の雰囲気が作品にマッチしたからここで撮ろうとなったのだと思いますが、公園内に薄いモザイクを入れるとか、もう少し対策しておくべきでしたね」別のセクシービデオ監督も「昔と比べて、今は外で撮影すること自体がリスキーになっている」と語る。
「2000年代前半までのセクシービデオ業界は『いいもの撮れたら何をしてもいい』という風潮があって、私も野外で“絡み”を撮影して、背景のモザイクなしで発売したりと、やりたい放題でした。でも今はそんなことしたらSNSで晒されて社会問題になりかねない。だから、背景には必ずモザイクを入れて、場所を特定できないようにしているのです」本作品の制作元のSODにも電話で取材を試みたが、「担当部署に確認します」という回答のみにとどまった。杉並区都市整備部みどり公園課によると、今後は園内の見回りパトロールを強化し、無許可で商業撮影をしている可能性がある場合には積極的に声をかけていくようにするという。取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班