資産、家のモノ、そして家族や友人ーー。これまでの自分の人生を振り返りながら、身の回りを整理整頓していくと、やり残したこと、これからやりたいことが見えてくる。まずは一歩踏み出してみよう。
「亡くなればただの物体。葬式抜きで火葬するからお前は来なくていい」
10年前、母親の死を知らせた兄の電話に、宮田朋子さん(74歳・仮名)は衝撃を受けたという。
「昔から情緒が薄く冷たい人だった兄は、病衣のままの母をお棺に入れて直葬しようとしました。駆けつけた火葬場で『親をゴミみたいに焼くのか!』と大喧嘩。さらに兄は『うちの墓は骨壺の入るスペースが狭くて不経済。骨壺を小さくすれば倍の数が入るから、親の骨は喉ぼとけだけ入れて残りは捨てていいだろ?』と言い出して、再び凄絶なきょうだい喧嘩に。これで兄夫婦とは完全に絶縁状態になってしまいました」
たとえ家族や親族でも、葬儀や墓に関する考え方は十人十色。「こんなにお花を用意して、葬儀にカネをかけすぎだ」と言う人がいたかと思えば、「もっと盛大に送り出すべきだ」と文句をつけられることも。財産やモノを整理してどれだけ綺麗に旅立ったとしても、墓や葬儀について何の準備もなければ家族がトラブルに巻き込まれかねない。1ヵ月の生前整理の総仕上げに、葬儀と墓の準備に手をつけよう。
まずは何より自分が「どんな葬儀をやりたいか」を考えてみよう。
ここ5年で実施した葬儀についての「安心葬儀」によるアンケート調査では、「家族葬」が60・1%と最多となった。「一般葬」は26・3%で、今や家族だけでやる葬儀のほうが主流となっているのだ。さらに葬儀をやらず火葬する「直葬」も8・5%で、けっして珍しい選択ではなくなりつつある。結論は出なくとも、葬儀の規模感から考えてみるといいだろう。
だが、ここで終わってはいけない。白洲次郎のように「葬式無用、戒名不用」といった遺言を残すのは自由だが、家族の理解があって初めて実現できるのだ。葬儀と墓については、家族と一緒に考えるのが基本だ。
「最近増えているのは『宗教はいりません』という方。しかし短絡的にお坊さんなしで葬儀をやってしまい、納骨をする時に困ることも少なくないのです。葬儀だけでなく墓のことまで考えて、菩提寺の宗派や戒名も確認しておくべきです。
またエンディングノートに『お葬式はしなくていい』と書かれる方も増えています。そうなると火葬のみになりますが、残された家族は『これで本当に良かったのかな?』といった悩みに陥ってしまうことも。たとえば『お葬式をしない代わりに、思い出のお寿司屋さんに集まってほしい』などと伝えておくことで、家族がお別れをする機会を作ってあげるといいでしょう。
葬儀について家族と話す時には、自分らしさを考えるのも楽しいと思います。『お酒をみんなにふるまってほしい』『趣味の陶芸作品を並べてほしい』『食事は豪華にしてほしい』といった希望を伝えておいて家族も能動的に参加すると、見送った実感がもてる素敵な葬儀になります」(葬儀相談員の市川愛氏)
『「年賀状」を捨てずに取っておくだけで「役に立つ」…家族に迷惑をかけないための「葬儀」「墓」の準備一覧』に続く…
「週刊現代」2024年2月24日・3月2日合併号より
「年賀状」を捨てずに取っておくだけで「役に立つ」…家族に迷惑をかけないための「葬儀」「墓」の準備一覧