″主戦場″が非常事態の現場である陸上自衛隊は、どんな過酷な環境でも乗り越えられるよう定期的に野外訓練を実施している。OBが明かす。
「有事に野外での活動が主な任務になる部隊は頻繁に『野外訓練』をします。天幕(テント)や仮眠覆いのみ、または廠舎(しょうしゃ)泊等、様々な宿営を行います。能登半島地震の災害派遣部隊は、天幕で寝泊まりしていると思われます」
部隊の任務や練度により日程や周期は異なる。2泊3日からはじまり、半月の野営が毎月入る部隊もある。
ハードな現場には慣れている自衛隊員だが――一部の訓練施設が「いくらなんでも不潔すぎる」と問題になっていることをご存じだろうか。
上の写真は中部地方にある施設の内部だ。昭和中期から使われており、ベニヤ板でできた壁の下部から雨水が漏れている。ベッドの毛布は’76年に支給されたものがまじっているという。この宿舎で訓練した経験のある隊員がうなだれる。
「ベッドマットはカビだらけ。枕も汚くて、寝ると痒くてたまらなくなる。埃が凄いので喉も痛くなります。二段ベッドが古すぎて、上で寝ている隊員が少し動くだけでギシギシと揺れるので、夜中に何回も目が覚める。少しも休めませんでした」
トイレも不衛生極まりない。この隊員が続ける。
「汲み取り式のボットントイレで臭いがキツくて、消臭剤をかけても焼け石に水。掃除が大変なので『トイレは使うな』と言う上官もいました」
ならば免疫を高めて自衛したいところだが、食事も粗末だ。大抵はレトルト食料で済ませることになるのだが、下の写真のようにご飯に主菜の焼き鳥やカツオを猫まんまのようにぶっかけて食べるという。
昨年、防衛省が公表した「自衛官等の入隊・退職状況」によると、’21年度は退職者数が入隊者数を上回っていた。特筆すべきは、中途退職者(5742人)が定年退職と任期満了を上回ったことだ。昨年11月に開かれた「自衛隊員の待遇改善を考える会」に出席した衆議院議員の黄川田仁志氏はこう明かす。
「一昨年12月、岸田政権は防衛費を5年後までにGDP比2%に増やすことを閣議決定しましたが、艦船や兵器といった実力だけでなく、(自衛隊員の)処遇改善にもしっかりとあてなければならないと思っています。先の大戦の反省を踏まえますと、戦闘で亡くなった方より、餓死等で亡くなった方のほうが圧倒的に多い。やはり人が大切にされないと、自衛隊の実力は発揮できないと思っております」
総額43兆円に上る防衛費は長距離巡航ミサイル・トマホーク400発やステルス戦闘機などの購入に使われる予定だが、かねてより指摘されている、スマホより性能が悪い無線やサイズの種類が少なすぎる防弾チョッキなど、隊員の命に直結するミクロの視点はそこにない。
過去の野営訓練では、男女同じ部屋で寝泊まりすることもあったという。過酷な状況に耐える能力はたしかに必要だが、健康に悪影響を及ぼすほど不衛生な環境に隊員をあえて曝(さら)す必要はどこにもない。中途退職者がこれだけ増えているという現実を、防衛省はかみしめるべきだろう。能登半島でひたむきに活動する陸上自衛隊員たちに被災地からたくさんの感謝の声があがっている。無名のヒーローたちの士気を上げるためにも、職場環境の改善は急務だ。
『FRIDAY』2024年3月1・8日号より
取材・文:小笠原理恵(ジャーナリスト)