病院、ホテル、コンビニなどで交代制の勤務をしていたり、育児や介護などで家族のお世話をしていたり、自分ではコントロールできない状況によって体内リズムが乱れ、寝たい時間に寝れなかったり、起床時に体がだるかったり、睡眠にも影響が出ている人も多いと思います。そんな状況下での対策はあるのでしょうか? 睡眠の専門家として、快眠メソッドをメディア連載や自身の著書で提案している睡眠コンサルタントの友野なおさんに教えていただきました。
ホテルや工場、病院、コンビニエンスストア、運搬、警備など、1日24時間をいくつかの時間帯に区切って交代で働く「交代制勤務」、24時間営業の店舗、年末年始やお盆などの大型連休、妊娠、子育て、介護など、生活リズムを乱す原因は至る所にあります。
私たち人間は昼行性の生き物なので、昼間に活動し、夜になると眠る。これが自然なリズムなのですが、このリズムが乱れてしまうと本来の生理学の法則に反することとなり、睡眠障害や胃腸障害、肥満、高血圧、糖尿病、癌、月経の乱れ、不妊、流産、心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患、うつ病などのメンタル疾患などのリスクの上昇が指摘されています。
実際に、夜間を含む交代勤務を月に3日以上行ってきた女性は、日勤の女性と比較して乳がんのリスクは1.36倍(※1)、子宮内膜がんのリスクは1.47倍(※2)、直腸がんのリスクは1.35倍(※3)高いという研究報告があります。
「夜更かししてもその分昼間に眠ればよい」と考える方もいるでしょうが、本来活動モードである昼間の時間帯は睡眠には適していないため、まとまった時間の睡眠確保が難しく、質的にも量的にも夜間より劣った眠りになってしまいます。
では、「夜更かしした分は休日や翌日の寝だめで解消すれば良い」と考えたことはありませんか?
実はこれ、NGなのです。人間は「寝だめ」ができないため、お金のように「ボーナスが入ったからまとめて返済」なんて都合のいいようにはいかないのです。「たっぷり眠ったはずなのに身体がだるい」「週末思い切り眠ったのに月曜日が辛い」なんていう経験をしたことのある人も多いのではないでしょうか。
寝だめをすると、疲労回復したかと思いきや、体内時計が乱れて逆に疲れを溜め込んでしまい、心身の不調を感じる結果になってしまいます。また、人間は起床後、目の中に光が入ってから約15時間後に眠気が訪れるメカニズムが働くため、寝だめによって起床時刻が遅くなると、夜に眠気が訪れるタイミングがどんどん後ろ倒しになるため、自然とその後も夜更かしリズムが続いてしまうのです。
しかも、どんなに前日夜の就寝時刻が遅くなったとしても、仕事がある日の起床時刻は決まっているので、必然的に究極の睡眠不足状態が作り上げられてしまう、これがブルーマンデーと呼ばれる心身不調の原因になります。
週末にこのような過ごし方をした場合、心身の不調は翌週の水曜日まで続く可能性があることが指摘されています(※4)。
しかし、生活リズムを整えるために仕事を変えるなんてことはできないですよね。実際、交代勤務で働いている方々がいるおかげで安心、安全な社会が成立しています。では、どのような対策があるのでしょうか。
まず、交代制で勤務されている方の睡眠改善策として有効なのが、夜勤中の仮眠です。夜間は深部体温が低下するため眠気が強まり、集中力や判断力を含むパフォーマンスが低下します。夜勤の途中で仮眠をとっておくことで眠気の解消や疲労の回復につながり、事故の防止などにもつながります。
1年間にわたって、夜勤従事者に23:30~3:30の間に平均31分の仮眠をとってもらった研究によれば、8ヵ月後には88%の人が短時間仮眠の効果を認め、「眠気や疲労が少なくなった」「活力が増えた」と報告しています(※5)。
また、夜勤される方のほどんどが出勤前に自宅で仮眠をとられていると思いますが、この時間帯は19時前後が多いのではないでしょうか。この時間帯は「睡眠禁止帯」と呼ばれ、覚醒度が高く、眠りにくいという特徴があるのです。実際、この時間帯の仮眠には十分な予防的仮眠効果が得られず、夜勤の間にとる仮眠より時間が長くても勤務後の疲労回復効果は低いということが明らかになっています(※6)。
夜勤に備えて仮眠をとる場合は、17時までにとることをおすすめします。実際、長距離ドライバーに14時~17時の3時間仮眠をとってもらった研究によると、実質2時間17分の睡眠がとれ、夜間の覚醒レベルや作業成績は翌朝の7時30分まで維持されたという結果が出ました(※7)。
企業側が夜勤に従事される方々の健康状態が十分保てるよう、仮眠の時間をしっかりと確保するなどサポート体制を強化することは急務ですが、すぐに改善されることが難しいのが現状。そんな状況下で、自分でできる夜勤対策があります。
まず、夜勤明けは睡眠ホルモンである「メラトニン」の分泌を抑制する朝日を目の中に入れないこと。サングラスをする、帽子をかぶる、日傘をさすなど、なんでも構いません。コンビニなどに立ち寄らず、真っ直ぐに帰宅をしましょう。
続いて、食事の摂り方です。バナナやヨーグルトなど、胃腸に負担がかからず消化に良い食べ物を少量食べるようにします。このとき、菓子パンやお菓子などは消化器官に負担がかかってしまうのでNGです。
さらに、空間のつくり方も重要で、夜勤がある方の場合は、寝室のカーテンは遮光タイプであることがマスト。真っ暗な空間をつくり、脳を夜だと勘違いさせてあげることで睡眠の質が上がります。また、45デシベル以上の音は快眠を妨げるため、耳栓をするなどの防音対策もできたらぜひ試してみてください。
午前中いっぱいはゆっくり眠り、明るい環境のもとでランチをとる。そして、もしも夜勤が続く場合は17時までに仮眠をとり、軽く食事をとったら準備して出勤。夜勤明けで翌日がお休みの場合は、ランチ後にショッピングするなど活動的に過ごし、午後の仮眠はとったとしても15時までに20分程度に留めましょう。
すると、この日は睡眠圧が高くなり、早めに眠気が訪れると思います。夕飯は18時~19時頃に済ませ、早めにおやすみ支度にとりかかり、眠くなったらベッドに入ってゆっくり眠るようにしてください。
光と食事のタイミングの2点を上手くコントロールすることで、体内リズムの乱れを最小限に留めることができます。身体と心の健康を守りながら仕事を続けるためにも、睡眠改善習慣を生活に取り入れてみてください。
[参考文献]
※1 Hansen J. Light at night, shiftwork, and breast cancer risk. J Natl Cancer Inst. 2001 Oct 17;93(20):1513-5.
※2 Viswanathan AN, Hankinson SE, Schernhammer ES. Night shift work and the risk of endometrial cancer. Cancer Res. 2007 Nov 1;67(21):10618-22.
※3 Schernhammer ES, Laden F, Speizer FE, Willett WC, Hunter DJ, Kawachi I, Fuchs CS, Colditz GA. Night-shift work and risk of colorectal cancer in the nurses’ health study. J Natl Cancer Inst. 2003 Jun 4;95(11):825-8.
※4 Taylor A, Wright HR, Lack LC. Sleeping-in on the weekend delays circadian phase and increases sleepiness the following week. Sleep Biol. Rhythms.2008; 6: 172-179.
※5 Bonnefond A, Muzet A, Winter-Dill AS, Bailloeuil C, Bitouze F, Bonneau A. Innovative working schedule: introducing one short nap during the night shift. Ergonomics. 2001 Aug 15;44(10):937-45.
※6 Saito Y, Sasaki T. How Japanese hospital nurses take naps between a day shift and a night shift when they work the two shifts consecutively. Sangyo Eiseigaku Zasshi. 1998 May;40(3):67-74.
※7 Macchi MM, Boulos Z, Ranney T, Simmons L, Campbell SS. Effects of an afternoon nap on nighttime alertness and performance in long-haul drivers. Accid Anal Prev. 2002 Nov;34(6):825-34.
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