〈水道水とミネラルウォーターの“違い”とは…? 専門家が教える「正しい水分のとり方」〉から続く
近年、様々な研究でわかった「食べ物」と「見た目の加齢」の関係性。何をどう食べたら老けないのか……ジャーナリスト・笹井恵里子氏の著書『老けない最強食』(文春新書)は、各食品のスペシャリストに徹底取材している。
【写真】この記事の写真を見る(2枚)
ここでは、本書から一部抜粋して紹介。発酵食品の代表格・納豆を食べるときの「意外な落とし穴」とは?(全2回の2回目/最初から読む)
※写真はイメージ DESIGN_IMAGE/イメーシマート
◆◆◆
もし毎日コツコツ食べたほうがいいものを一品だけ挙げるとするなら?
それは納豆だ。どの専門家も「一押し食品」と断言する。原材料の大豆は五大栄養素(タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル)のすべてを備え、体内で生成されない9種類の必須アミノ酸も含む。さらに食物繊維が豊富で、発酵食品でもあるから腸内環境を整える。
納豆を食べる習慣がある人は脳卒中の死亡リスクやがん発症リスクが低下するという報告がある。健康食品というイメージが強いが、実はアンチエイジングにも十分役立つのだ。納豆の「老けない作用」を解説しつつ、「意外な落とし穴」についても紹介しよう。
本書全編を通して、老化を促進する悪玉物質「AGE」の危険性についてたびたび指摘している。AGEは、タンパク質と糖がくっついて劣化する現象(糖化)が進むことで発生する。高温加熱調理によって食品中でも発生するし、体内で血糖値が急上昇して糖化が進むことでも発生して蓄積される。そうしてAGEがたまると、シミやシワなどが増えて老け顔になったり、動脈硬化が起きたり、骨がもろくなったり、変形性関節症を発症したりするなどさまざまな機能障害が起きる。
納豆にはこのAGE蓄積を防ぐ成分が含まれているのだ。管理栄養士の望月理恵子氏がこう説明する。
「大豆に含まれる大豆イソフラボン、食物繊維、ビタミンB1、大豆レシチン(脂質の一つ)は、いずれも糖化を防ぐ働きがあります。抗糖化作用に加えてポリフェノールの一種である大豆イソフラボンや大豆レシチンは、高い抗酸化作用があります」
納豆に含まれる食物繊維も糖質の吸収を抑え、血糖値急上昇を抑える面から糖化を防ぐ。食物繊維が豊富な食品というだけなら、ゴボウや押し麦など他にもいろいろあるが、納豆の場合、それ以外の栄養素が充実しているのが特徴だ。
納豆に含まれるコリンと大豆レシチンには、細胞や脳を若く保つ働きがある。自身も納豆を毎日食するという日本ポリフェノール学会理事長の板倉弘重医師(東京アスボクリニック名誉理事長)が大規模研究の結果を示しつつ、教えてくれた。
「2019年に発表された研究で、コリンの摂取量が多いほど、記憶機能のパフォーマンスが高まることが報告されています。コリンが最も多く含まれるのは卵で、次に大豆、そして鮭、納豆の順に多く含まれます。また、コリンに脂肪酸が結合するとレシチンという成分になるのです。レシチンには大豆レシチンと卵黄レシチンの2種類があり、納豆には大豆レシチンが含まれています。レシチンを十分に摂ると、集中力、記憶力、思考力が向上することがわかっています」
納豆が腸内環境に良いというのはご存知の人も多いかもしれない。だがそれは単に腸の調子を整えるということではない。健康的なダイエットにも効果的なのだ。
ゴボウに含まれる食物繊維が100gあたり5.7gなのに対し、納豆(糸引き納豆)には6.7gが含まれる。
大人のダイエット研究所代表理事で管理栄養士の岸村康代氏によると「水溶性と不溶性の食物繊維両方が豊富に含まれていることが珍しい」のだという。
「腸の前半、中盤、後半で、発酵して腸内環境に影響を及ぼす食物繊維が違います。納豆には大豆オリゴ糖という水溶性食物繊維と、大豆の皮の部分に不溶性食物繊維が多く含まれ、水溶性食物繊維はコレステロールの排出を助けたり、血糖値の上昇を抑えたり、腸の前半で発酵しやすいとされています。そして不溶性食物繊維は、腸の蠕動(ぜんどう)運動を助けたり便の水分を保って排便を助ける効果が期待できます」
腸内で有用菌(いわゆる善玉菌)が食物繊維を食べると、短鎖脂肪酸を生み出し、肥満を防ぐ作用がある。
「本来は腸のどの場所でも短鎖脂肪酸をつくり出せるのが理想です。不溶性・水溶性の両方の食物繊維を含む納豆は、腸をはじめ体全体に良い働きが期待でき、ダイエットをはじめさまざまな健康美容効果があるでしょう」(岸村氏)
前述した大豆レシチンも肥満防止に働く。
「大豆レシチンは脂質代謝を改善したり、小腸でのコレステロール吸収を抑えます。また大豆イソフラボンも悪玉コレステロール低下作用があり、相乗効果で肥満改善が期待できるでしょう」(望月氏)
そして低カロリーであるのに、タンパク質も十分に摂れるという点でもダイエット向き。
「納豆は100gあたり190kcalで、タンパク質は14.5g含まれています。同量の豚バラ肉ですとタンパク質が12.8gで、カロリーは366kcalも。その上、納豆の脂質は豚バラ肉の3分の1以下で、タンパク質を代謝してくれるビタミンB6、脂質を代謝するビタミンB2もしっかり摂れます」(岸村氏)
ちなみに納豆には「若返りのビタミン」として有名なビタミンEも含まれ、肌や血管の老化を防ぐ。

さて健康効果としては、納豆による「骨の健康維持」と「血液サラサラ」がよく知られている。
管理栄養士の堀知佐子氏(老舗料亭「菊乃井」常務取締役)がこう話す。
「納豆には骨を丈夫にするカルシウムだけでなく、カルシウムが骨に沈着するのを助けるビタミンKも含まれます。ビタミンKには緑野菜に含まれるK1と、納豆に含まれるK2がありますが、骨に役立つのは圧倒的にK2。これは納豆に豊富に含まれます」
血液サラサラの正体は、ナットウキナーゼという酵素。納豆は蒸された大豆が納豆菌によって発酵することでできるが、この発酵過程で生成されるのがナットウキナーゼで、血中にできた血栓に働きかけ溶解する作用、血栓をできにくくする成分を増やす作用、降圧効果ももつ。こういったナットウキナーゼの効果を求めるなら、夕食に摂るのがお勧めだ。明け方は体内の水分が少なくなるので血栓ができやすく、心筋梗塞や脳卒中の発症率が高いため予防になるだろう。
「ナットウキナーゼの効果は8時間程度持続することが複数の研究からわかっていますので明け方まで作用します。また納豆にはアルギニンというアミノ酸が多く含まれます。これは成長ホルモンの分泌を促進してくれるため、夕食に納豆を食べれば成長ホルモンの分泌によって細胞の修復がスムーズに進むなど、アンチエイジング的な働きも期待できます」(望月氏)
もちろん朝食に食べるのがNGなわけではない。特に冷え性の人が朝に納豆を食べると、良質なタンパク質の力によって体温上昇がスムーズに進むというメリットがある。
ここまで納豆の良さを挙げてきたが、気をつけたいのが醤油や添付のタレを納豆にかけること。醤油をかけすぎれば塩分過多になり、タレには糖分や塩分、果糖ブドウ糖液糖などの添加物が含まれる商品が大半だ。せっかく糖化を防止する成分が納豆に含まれ、美容健康に優れているのだから、そこで「糖分」「塩分」をタレによって追加するのはもったいない。タレではなく「良質な脂質」をかけよう。若返りビタミンといわれるビタミンEが納豆には豊富と記したが、脂溶性のため油と一緒に摂ることで吸収率が良くなるのだ。
例えば「亜麻仁油、エゴマ油を数滴垂らす、ツナを混ぜる」などを望月氏は提案する。
「私は納豆にキムチをトッピングします。納豆に由来する納豆菌と、キムチの乳酸菌のダブル効果で腸内環境に有益となります」
堀氏は「しらす」を混ぜ、その塩分でおいしくいただくことが多いという。
「しらす干しを調味料がわりに使うことが多く、納豆にもかけますね。そこに生の卵白を入れ、レンジで白身がかたまるまで数十秒チンするととてもおいしい。しらす干しにはカルシウムの吸収を促すビタミンDが含まれますから、骨づくりに役立ちます」
どうしてもタレをかけたい時には、納豆をよくかき混ぜてからに。
「混ぜる前にタレや醤油を入れてしまうと粘りが弱くなるので、納豆に含まれるアミノ酸のうま味を感じにくくなるかもしれません。反対にタレを入れずにかき混ぜると、ネバネバふっくらして体積が広がり、舌とうまみ成分がふれあう部分が増え、おいしく感じやすくなります」(望月氏)
市販の納豆は1パックあたり6g程度のタレがついているが、そのすべてをかけるのではなく、よく混ぜた上で“半量だけかける”意識をもちたい。できれば前述したようなトッピングのみでタレは限りなくゼロにできるといい。
また血液サラサラのナットウキナーゼは、納豆中では40~50度くらいで安定しやすく、70度以上で加熱すると成分が失活してしまう。
「ですから納豆チャーハンや納豆スパゲッテイなどの料理に使う際、火にかけた状態で納豆を入れてしまうとナットウキナーゼの良さが引き出せないので注意してください。また、普通にごはんにかける時にも、冷蔵庫から出して20分くらい常温に置いたほうがナットウキナーゼが活性化するでしょう」(望月氏)
納豆は食の専門家なら誰もが健康美容メリットを挙げるほど、最強の老けない一品だ。
(笹井 恵里子/文春新書)