既存の農業・畜産が環境を破壊している。だから水田を潰し、培養肉や昆虫食を普及させせよう」今年のダボス会議でもこういった主張がなされ、SNS上では批判が集まっている。経済アナリストの森永卓郎氏と、東京大学大学院教授の鈴木宣弘氏の対談書『国民は知らない「食料危機」と「財務省」の不適切な関係』(講談社+α新書)から一部を抜粋・再編集してお届けする。
連載第1回後編

前編【だから「給食のコオロギ」は食べてはならない…「環境に良い」と「昆虫食」を勧める人たちが裏でやっていること】より続く
ちなみに日本政府も、「緑の食料システム戦略」においてAIを活用する「スマート農業」「デジタル農業」を掲げている。
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「デジタル農業」によって農家の負担が軽減されるならいいが、既存の農業を破壊し、利益はビル・ゲイツ氏のようなIT長者が総どりになるのであれば大問題だ。
現に、こうした取り組みが既存農業に対する「攻撃」に利用されるケースがある。
既存の農業は非効率であり、環境にも悪い。だからセンサーを張り巡らせてドローンを使った農業をやるべきだ、といった主張がされがちだが、「デジタル農業」を導入して儲かるのは、ビル・ゲイツ氏や一部のグローバル企業だというなら、いったいだれのためのデジタル化なのかわからないだろう。
環境問題に意識が高い人ほど、既存の農業を環境に悪いものとしてスケープゴートにしがちという問題もある。
地球温暖化の対策が必要なのは間違いない。先進国で飽食が進み、肉の消費量が増えたことが地球環境の悪化につながっているという指摘もおそらく正しい。
ただ、その結果として、既存の農業は壊してしまい、「培養肉」を推進する企業には補助金を出せ、という話になるのは困ったものである。
日本は「フードテック」の分野で遅れており、取り戻すためにもっと投資が必要だ、と盛んに言われている。
「フードテック」とは先ほどあげた培養肉など、テクノロジーによって食料の問題を解決しようというものだ。
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フードテックを進めるべき理由といえば、食料問題の解決、環境問題対策ということになる。そこまではいいが、いまある農業、とくに畜産が一番の悪者だと考えるのはおかしい。
環境問題の解決のためなら、むしろ伝統的な農法に回帰するほうが先であり、効果的ではないのか。
その取り組みをすっ飛ばして、フードテックによる代替肉・培養肉だ、ゲノム編集作物だ、昆虫食だ、無人農場だとなるのはおかしい。また、それらに税金を投入して国策でやるというのはもっとおかしい。
ショック・ドクトリンという言葉がある。大災害の発生後などの危機的状況を、既存のシステムを変えてしまう絶好のチャンスととらえ、新自由主義的な改革など国民にとって不利益となるような政策を一気に進めてしまうことを指す。
コオロギ食や培養肉はまさにショック・ドクトリンであり、既存の農業を破壊し、グローバル企業が取ってかわるための手段として使われている。
地域コミュニティ、伝統文化を破壊し、結果として一部の企業だけが儲かるなら、まさに「いまだけ、金だけ、自分だけ」ではないか。
そもそもフードテックが本当に効果的かどうかは疑問が残る。培養肉は通常の食用肉よりコストが高い。結局、自然環境で太陽の光を浴びて育った肉のほうが安くつく。
同じことは植物工場にも言える。植物工場では、ビルの中に畑を作り、水や栄養を管理し、LED照明で作物を育てるが、工場の維持費や電気代のせいで、価格も高くなってしまう。
ただ、新しいビジネスであるのはたしかであり、投資家向けに「これからはフードテックだ」とさんざん煽られている。日本政府はこれを鵜呑みにしているわけだ。
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現在の世界経済はまさしく「株主資本主義」だ。株価さえ吊り上げられれば、本当に有望なビジネスなのか、環境対策として効果があるかどうかは二の次、三の次となりがちだ。その視点でさまざまな情報が流され、政治家や官僚に対しても売り込みが行われる。
その結果、国民にとって本当にいい政策よりも、まるで中身のないビジネスに多額の予算が投じられる、ということが起きる。
人の命や健康より、企業が儲かることが優先されているのだ。
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