現役の警察幹部による連続“性的暴行”事件――。すでに逮捕は4回、起訴は3回を数え、被害者は5人にのぼる。だが、渦中の人となった中国四国管区警察学校の指導部長で、警視正の岩本幸一被告(58)は、公判が続くなか、広島県警広島中央署の留置施設で“自殺”を図ったのだ。
【写真】岩本被告と同じく留置場で自殺を図った、大阪・高槻「資産家女性殺害事件」の1.5億円保険金“養子”…SNSには愛車のランボルギーニや葉巻を吸う自撮りも
2月17日の午後8時過ぎ、留置場の居室にいた岩本被告は、履いていた“ももひき”をトイレの扉に引っ掛け、そこに首をかけて座った状態で発見された。すでに意識不明の状態で、その後、搬送先の病院で死亡が確認されている。遺書らしき数枚の便箋も見つかったことから“自殺”とみられる。社会部記者によれば、
「岡山県警から中国四国管区警察局に出向中だった岩本被告は、マッチングアプリで知り合った複数の女性をホテルへと誘い、“実は、俺は警察官だ。売春を担当する部署にいる。これは犯罪になる”と脅した上で行為に及んでいた。しかも、女性たちに“始末書”まで書かせている。岩本被告を性的暴行などの疑いで逮捕した広島県警は、その“始末書”を押収しており、そこには“もう売春はしません”といった内容が記されていたそうです」
警察官という身分を悪用して、女性の弱みを握り、あろうことか行為に及んだわけで、前代未聞の不祥事と呼べるだろう。だが、当の被告が死を遂げたことによって、事件の真相解明が困難になったことは言うまでもない。
神奈川県警の元刑事で、「留置担当」の経験もある犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は次のように語る。
「広島県警の発表によれば、岩本被告は自殺や逃亡の恐れなどを考慮して、“特別要注意者”に位置付けられていました。他の被留置者と比べて、より厳重な監視が求められ、それこそ房の前に椅子を置き、職員が交代しながら24時間態勢で注視し続ける“対面監視”となることも珍しくありません」
たとえば、2021年に大阪・高槻で起きた「資産家女性保険金怪死事件」でも、被害女性の養子になっていた被疑者が留置場内で自殺している。この被疑者は“特異被留置者”として巡回の回数が増やされたが、岩本被告の“特別要注意者”はそれよりも厳しい監視が求められる対象だった。
それでは、警察はなぜ岩本被告の自殺を防げなかったのか。
所轄署の副署長、署長、そして県警本部の生活安全企画課長と、岡山県警内で順調に出世を重ねてきた岩本被告。そんな華麗な経歴のなかでも、今回の一件との関連で見過ごせないのが、2019年に就いた「留置管理課長」の肩書だ。
「警察組織における留置管理課とは、留置施設の管理運営と、留置されている被疑者・被告人の処遇に携わる部署です。なかでも、岩本被告が歴任した岡山県警本部の留置管理課長は、県下すべての留置施設に関しての責任を担う重大な立場と言えます」(小川氏)
実際、岩本被告の自殺を受けて、広島県警本部の留置管理課長が「警察施設内でこのような事案が起きたことは誠に遺憾。再発防止に向け、原因について徹底した調査をする」とコメントする事態となった。
小川氏が続ける。
「全国的なニュースになっている事件の被告人が留置施設で自殺すれば、署の留置管理課長や係長だけでなく、県警本部の留置管理課長にまで処分が及ぶことも考えられます。また、岩本被告が過去に留置管理課長だったことを考慮すると、留置施設内での自殺を防ぐために注意すべきポイントを熟知していたはず。裏を返すと、どうすれば監視の目を盗んで自殺できるか理解していた可能性もある。そもそも留置場では、被留置人のネクタイやズボンのベルト、書籍のしおり紐に至るまで“ひも状の物”はすべて没収するなど、自殺を防止するために細心の注意を払っています。加えて、岩本被告は“特別要注意者”として厳重な監視下に置かれていました。にもかかわらず、わずかな監視の隙を見て自殺を決行したわけです。かつて留置施設の実態を知る立場にあったことが、今回の一件と無関係とは言えないと思います」
デイリー新潮編集部