高齢化社会をむかえてマンションでは様々な問題を抱えています。
建物の老朽化、組合員の高齢化に加えて最近では居住者の単身化も急増し、国勢調査によれば、2015年には約1842世帯だった単身世帯も、202年には約2115世帯と、およそ2.5世帯に1世帯が単身世帯となっています。
これに伴い、近隣住戸とのコミュニティも稀有になり、さらにマンションでの孤独死のご相談も目立って多くなってきました。
そうなれば、当然人と人との間にも距離が生まれます。住民同士の交流がなくなり、部屋を訪れる者も向かい入れる者もおらず、そのため、隣人が「どのような状態で暮らしているか」が見えにくくなります。
では一体どんなことが起こるのでしょうか? マンション管理士の松本洋氏が実際に見た、単身化の進む日本で実際に起きているトラブルの実例をご紹介いたします。
本記事内には害虫の表現がございます。苦手な方はご注意ください。
さらに、居住者の高齢化、単身化が進むマンションでは、孤独死以外でもベランダや室内にゴミを大量に放置する『ゴミ問題』が問題になっています。これは築年数が浅いマンションでも、じつは起こりえるのです。
都内にある築5年のタワーマンションでも、共用の廊下、階段にゴキブリが異常発生し、年間100万円以上も管理費から捻出して、害虫駆除業者に依頼しましたが、減るどころかますます増えるような状態が続いていました。
害虫駆除業者によれば、発生源は共用部分ではなく居住者の住戸だといいます。そんな状態に頭を抱えていましたが、最近になって18階から22階の複数の居住者から廊下を歩いていると異臭がする、ゴミ臭いなどの苦情がマンションの防災センターにとどくようになりました。
また、同じ時期に21階の居住者から隣の住戸の玄関扉の隙間からたくさんの小さいゴキブリが出てきている気持ちが悪いので隣の居住者に注意してほしいという意見書が理事会に届きました。
理事会で居住者名簿を調べた結果、そこの居住者は今までマンション内でのトラブルもなく管理費等の滞納もない、独り住まいの60代の女性ということがわかりました。
防災センターの警備員や管理員が、その60代女性の部屋の悪臭や害虫の発生を確認したうえで、担当者が事情聴取をするために何回か訪問しました。しかし、居留守を使っているのか全く応答がありません。
気持ちが悪いことに、訪問の際にインターフォンを押しているときにも、玄関ドアの隙間から這い出していて、担当者は思わず除菌シートで手と指を消毒したそうです。
ことが動いたきっかけは、マンションの防犯カメラでした。その女性が外出する姿が確認できたので、警備員が呼び止めたのです。しかしその時の話では、普通に生活をしていると応えたため管理員もそれ以上のことは、聞きませんでした。
その後、理事会で何度か訪問したところ、玄関ドア越しに少し話ができるようになりました。
少しだけ開いたドアの隙間から部屋の中をのぞいてみると、段ボールが廊下に山積みされていて室内の様子はわかりません。年齢は60代ですが見た目はだいぶ老けていて、痴ほうも少し始まっているようでした。
管理員は、害虫の発生と悪臭で苦情が届いていることを説明して、事情を聴いたところ、数年前に行った登山の際に滑落して頭部を強く打ち、そのせいで嗅覚障害になってしまったということでした。
理事は室内の立ち入り調査を求めましたが、60代女性の承諾は得られません。居住者名簿の緊急連絡先の記載もなく、本人も身寄りはいないと言っていました。
そこで、害虫の駆除を依頼した業者に支払った費用の請求と、専有部(室内)への立ち入りを行うための法的措置を弁護士依頼したところ、その部屋はその女性と息子さんと共有名義であること判明しました。しかも、息子さんはマンションの近隣で開業医をしているということです。
さっそく息子さんに事情を話したところ、害虫駆除業者に支払いをした金額を2年間の月払いで息子が返済することの覚書は取りかわしましたが、プライバシーの侵害であること主張されて室内への立ち入りの承諾は取れませんでした。
しかし、室内に不用品回収業者と清掃業者を入れてその作業の完了報告書を写真付きで理事会に提出して今後理事会に協力することで合意がはかられました。
今回は息子さんにより無事に解決できましたが、しかし、もしもこの息子さんがいなければ、部屋には立ち入れず、異臭や害虫騒ぎもすぐには収まらなかったでしょう。
高齢化と単身世帯の増加によりこのような事件が多く発生しています。これを防ぐためには周囲の見守りが必要です。
『見守りサービス』は、地域の地方自治体で取り組んでいるところも増えています。最近では、警備会社、電力会社、ガス会社、郵便局、電気ポットの家電メーカーでも新しいビジネスとして取り組んでいる企業も多くなりました。これからは管理組合でも積極的に取り組んでゆくことが望まれます。
引き続き<マンションの「悪臭騒ぎ」に弁護士が放った、衝撃の一言…「腐乱死体」発見後に部屋が“清掃なし”で放置されたワケ>でも、単身化が進む日本で起こっている、トラブルの実例を明かしています。