「人がクマに襲われた」というニュースが頻繁に流れてくるようになった。しかし害獣はクマ以外にもたくさんいる。今回は害獣と人間がせめぎ合う最前線、東京都新宿区の歌舞伎町を訪ねた。◆歌舞伎町のゴミで大増殖!ハイブリッドネズミも登場
今年、新宿歌舞伎町のとある飲食店のゴミ置き場で撮影された、「ネズミに餌をやる動画」がインターネット上で拡散された。弁当を地面に置くと路地の奥から湧き出た巨大なネズミたちが我先にと弁当をむさぼる。繁華街に巣食うドブネズミの集団だ。その数はゆうに30匹を超えている。
そして、行政が動いた。11月から専門業者と組み、歌舞伎町1丁目と2丁目でネズミの生息調査を行うのは、新宿区としては初の試みになる。
生息地域と繁殖の要因を調べ、1月からの一斉駆除では、殺鼠剤ボックスを220個配置する予定だ。区はネズミ駆除の関連費用に約1200万円の予算を計上した。
◆猫と見間違うほどの大きさのネズミが…
我々もドブネズミの実態を調査するため、深夜から早朝にかけて歌舞伎町を練り歩いてみた。街の至るところに積まれたゴミ袋の山の周囲には、黒い塊が駆けずり回っている。ネズミだ。しかも、やたらデカい。猫と見間違うほどのものもいる。歌舞伎町で働く人々に話を聞いてみた。
「店の至るところにネズミが侵入する“ネズミ穴”が開けられていて、塞いでもすぐに別の穴を開けられて簡単に侵入される。店の食材を保管している段ボール箱や袋もすぐにみちぎられるから、たまったもんじゃないですよ」(ラーメン店スタッフ)
「歌舞伎町のネズミは、体も態度もデカい。人間を怖がらないんです。むしろ人間のほうが“障害物”を避けるように右往左往しています。客席でネズミが暴走すると店の評価に直結するから最悪ですよ」(居酒屋スタッフ)
◆建物全体が“ネズミの巣”になっている場所も
取材中も、我々の足元をネズミが横切り、つま先が尻尾に触れた。
歌舞伎町でも害獣駆除を行う「害獣BUZZ」代表の金谷康生さんいわく「もはやそれぞれの店舗が個人で行うレベルの駆除は限界」だという。
「歌舞伎町の建物は老朽化が進んでいるので、ネズミが侵入できる経路が無数にある。建物全体が“ネズミの巣”になっている場所もあります。駆除業者と定期契約をしている店やビルもありますが、歌舞伎町の飲食店から駆除の依頼が来ることは意外と少ない。『自分の店だけやっても無駄』と思っているのでしょう」
◆クマネズミ×ドブネズミの交配種も?
ゴミの捨て方も問題だ。
「店によっては、生ゴミが透けて見えるように捨てたり、路面に直接置いたりしてしまう。ネズミはプラスチックや配線を簡単にみちぎる力があるので、ゴミ袋などすぐに食い破ります。だからどんどん増えていく。悪循環です」
歌舞伎町や全国で害獣駆除を行う「駆除ザウルス」の害獣バスター・内田翔さんは、「歌舞伎町では、さらに厄介な“ハイブリッド種”が登場している可能性がある」と語る。
「学習能力と運動能力が高く、壁を駆け回るクマネズミと、あまり高いところには登らないけれど、気性が荒いドブネズミ。歌舞伎町などネズミの絶対数が多い地域では、交配種がいてもおかしくない。
実際に、互いの特徴を融合させたようなネズミを見かけます。殺鼠剤に耐性を持つ“スーパーラット”も厄介ですが、この交配種も今後気をつけるべき存在です」
区は一斉駆除を進める一方、飲食店へのゴミ捨ての指導も行うという。果たして状況は改善されるのか。今夜も街に、ネズミの鳴き声が響き渡る。
取材・文/週刊SPA!編集部 撮影/杉原洋平