1人暮らしの親が要介護に……そのとき誰が介護をするのかで揉めることもしばしば。さらに「介護問題」の先の「相続問題」も複雑い絡み合い、家族崩壊……ということも珍しくありません。みていきましょう。
厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、主な介護者(介護者の家族のなかで最も長時間介 護を行っている人)は、同居家族が45.9%。主な介護者で最も多いのが「同居している配偶者」で22.9%。続いて「同居している子ども」が16.2%、「別居している家族等」が11.8%、「(家族ではなく)事業者」15.7%、「同居している子の配偶者」が5.4%、と続きます。
また夫婦の年齢差と男女の平均寿命から「夫(父)の介護を妻(母)が行う」→「夫(父)が亡くなった後、妻(母)が介護を必要になったらその子が介護を行う」というパターンが多いと考えられます。
親の介護に直面したとき、同居している子がいれば特に問題はないかもしれませんが、子どもが複数いて、さらにすべて別居している場合は少々面倒です。
長女:長男なんだから、あなたが面倒をみるべきよ
長男:お前(長女)のほうが実家に近いんだから、お前がみろよ
次女:私はムリ。飛行機で通うなんて……絶対ムリ
こんなカタチで、介護の押し付け合いになることもしばしば。
株式会社Speeeが運営する「ケアスル 介護」が介護経験がある250名に対して行った『親の介護に関するアンケート』によると、「親の介護を理由に、親族(兄弟や配偶者など)と揉めたことがありますか?」の問いに問いに対して「はい」が40.8%。親の介護、結構な確率で揉めます。
――一方的に母の介護を押し付けられた
60代女性の投稿。80代の母が、家のなかで転倒し骨折したのを機に要介護2になったそう。子どもは、女性(長女)のほか、2つ上の兄。2人とも実家までは車で20~30分で行ける距離に住んでいたので、女性は2人で分担しようと提案したとか。しかし、兄は「仕事が忙しくて手伝えない」の1点張り。
――定年退職してお気楽な身分なのに、仕事を言い訳にするなんて
前出の『令和4年 国民生活基礎調査』によると主な介護者を男女別にみていくと、同居の場合、男性が31.1%、女性が68.9%。別居の場合、男性が26.0%、女性が71.1%。圧倒的に女性のほうが介護を担うケースが多いようです。
女性の後日談。ある日を境に「俺も母さんの面倒をみるよ」と手のひら返しをしてきたそう。
――いつになるか分からないけど、遺産の配分を気にしているんじゃないですか
そのゲスっぷりに、ただ呆れるしかないといいます。
親の介護と相続問題は複雑に絡み合うもの。仮に女性の母が亡くなった場合、遺言による指定がない限り、法定相続分として、子どもである女性と兄で2等分します。
しかし女性が母の介護を全面的に担えば「特別寄与料」を主張することができるでしょう。「特別な寄与」は、被相続人(亡くなった人)の生前に特別な貢献をした相続人が、遺産分割で決定した分に加えて、貢献の度合いに応じて相続分をプラスできる制度。実際に認められるには高いハードルがあるといわれていますが、相続争いのよくある原因のひとつです。
裁判所『令和4年 司法統計』によると、家庭裁判所が取り扱った遺産分割事件は、2022年の1年間で1万2,981件。都道府県別にみると、件数が多いのは「東京都」で1,625件。一方、人口当たり遺産分割事件が多いのは「徳島県」で、人口10万人あたり16.40件でした(関連記事:『都道府県「遺産分割事件」ランキング…〈令和4年 司法統計年報概要版(家事編) 〉 』)。
また認容・調停が成立した事件、6,915件のうち、寄与分の定めがあったのは126件。寄与分の遺産価額に占める割合は、「10%以下」が65件、「20%以下」が23件、「30%以下」が11件、「50%以下」が4件、「50%超」が3件でした(「不詳」が20件)。
誰もがいつかは直面することになる「親の介護」と、その先にある「相続」。ここでのしこりは、仲の良かった家族がいがみ合うことの原因になります。デリケートな話題だけに、どことなく避けているという人も多いでしょう。しかし思いもよらぬトラブルに発展しないよう、介護や相続が発生する前に、しっかりと家族で話し合っておくことが重要です。
[参考資料]
厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』
株式会社Speee『親の介護に関するアンケート』
裁判所『令和4年 司法統計 家事編』