性は人間の根源的な欲求であるだけに、時代ごとの人々の価値観を映し出す。現在、パパ活や立ちんぼなど、金銭を介した男女関係が社会問題化しているが、金銭を介さない出会いの場も存在する。しかも、男女は既婚者同士なのだという。ライターの河合桃子氏が潜入取材した。
【写真】とある日の既婚者合コンの会場。30人ほど。他、参加していた既婚女性も「主婦として必要なガス抜き」〈既婚者同士の社交場〉〈婚外恋愛やセカンドパートナー探しに〉 こんな謳い文句で「既婚者限定」の合コンが開かれ、全国各地で毎日のように、多数の参加者が出会いを求めている──。マッチングアプリで個別に出会うのが当たり前の若者の間では「合コンは死語」と言われるが、上の年代ではむしろブームだ。既婚者合コンを企画する運営会社は全国に15社ほど存在する。

全国20エリアで毎日、既婚者合コンを開催する創業15年の運営会社「キコンパ」代表の田中大輔氏が語る。「弊社では午前と午後の部を設けて、全国で1日3回は開催しています。既婚者同士の人生を豊かにする場、という位置づけです。男性も女性も様々な時間帯で働く職種や立場に身を置いている方がいますので、多様な生活リズムの合間に来ていただくため、いつでも開いているコンビニのような感覚が理想と考えています。早い時間だと午前11時半からで、遅い時間は19時からです」 出会いの舞台となる会場は、外資系高級ホテルのラウンジから貸し切りのレストランなど運営会社によって様々だ。男女が3対3で着席して話し込むスタイルもあれば、女性は固定で男性が5分ごとに席を移動するスタイルなどもある。 筆者は今回、平日16時からのとある合コンに参加した。配偶者がいながら合コンに参加する動機や目的を探るためだ。 男女各15名ほどが参加した会合で隣席に座った専業主婦の亜美さん(38・仮名、以下同)は、参加の動機を「ガス抜きです」と語った。主婦としての狭い人間関係の中で、初対面の人と気軽に喋る時間が楽しいと話す。「中学生で不登校になってしまった子供と日々向き合う張り詰めた気持ちや、同居する姑との間で溜まった鬱憤とかを、もう二度と会わないかもしれない人と気軽に喋ることで発散してます。真っ昼間からお酒を飲む非日常ではあるけど、“非すぎない”日常の延長線上だからいいんです」 夫には「友達と遊びに行く」という建前のため、20代の頃のような男ウケを狙った服装ではなく、主婦のちょっとしたお洒落着で参加する。その気楽さも心地よいという。 亜美さんは“ガス抜き”の意味合いについて、話し相手程度のこともあれば、肉体関係に発展する場合もあったと明かす。「何回かランチや飲みに行ってエッチをした方もいましたね。でも私が冷めてしまって、男の人を振り回してしまったことが何度かあり、今は慎重になってます(笑)」 後ろめたさはないのかと問うと、あっけらかんとこう答えた。「え、なんで? これも私が主婦として難なく日常生活をこなすために必要なガス抜きですから。夫には友達と遊びに行くって出かけてるし、実際にママ友と遊びに行くこともあるし」欲しいのは「繋がり」 既婚者合コンのメイン層は圧倒的に40~50代の男女だ。子育てに手がかからなくなったから、と参加するようだ。そのメイン層でもある優子さん(50)はこう話す。「夫とはもう2年ほどレスですが、一緒の時に本当の自分でいられる居心地のいい人だし、私にとっては最高の夫です」 そこまで言うのに、なぜ参加するのか。「自分の寂しさを心も体も埋めてくれる人を探しています。夫以外に精神的な繋がりを持てる人が欲しいんです。子供からはお母さん、時にはオバさんと言われ、夫からも求められない。家族の誰からも女性として見られない寂しさです」 既婚者合コンに参加する女性は、マッチングアプリを通じたパパ活などよりも精神的な紐帯を求める傾向が強いようだ。だが、金銭を介さない関係がゆえに、男女の求めるものの違いが浮き彫りにもなってくる。「会場で出会った男性で、2~3回お食事をしてエッチにまで至った方がいました。でもその方、エッチの翌日から連絡が途絶えてしまって……。とても悲しかったです」 取材の中で、婚外恋愛で肉体関係に発展するからこその男女のすれ違いやトラブルが見えてきた。2児の母で看護師の翔子さん(46)は言う。「既婚者合コンで出会った方と1年付き合い、その彼が脳梗塞で倒れました。私のほうが病院選びや日々の対応はできるはずなのに、当たり前だけどその役割は奥様に譲らなければいけないのがどうにも許せず、お別れしました。彼は“妻と別れる気はないけど僕は君との関係も続けたい”と言ってきましたが、私には無理でした。私が本気になってしまったんです」 行きすぎた行動を取ってしまった女性にも出会った。正社員として働きながら小学生の子供を2人育てている愛香さん(45)だ。「合コンで出会った同年代の男性に一目惚れしました。私のほうから誘って、多くて週に1回か、2週に1回くらいのペースで会ってはエッチしました。彼とは体の相性もよかったんです」 しかし愛香さんは、相手男性がシャワーを浴びている最中にパンドラの箱を開けてしまう。「前々から彼のLINE通知が多すぎることに不信感を抱いてたんです。彼のパスコードはすでに目視で覚えてたので、LINEを覗きました。すると私以外に2人くらい、肉体関係にあるだろう女性の存在がいることを知ってしまったんです」 まるで夫の浮気を目撃したような口調で話す。その後の行動は妻以上のタブーを犯してしまった。「頭に血が上り、どうにかして彼を追い詰め他の女性と付き合えない状況にしたいと思いました。彼の会社と本名はもちろん知っていたので、会社宛に匿名で“浮気を一刻も早くやめないと立場が悪くなる”というような内容の手紙を送りつけてしまいました」 愛香さんが送った手紙を男性が見ると、当然ながら動揺したという。「会社に脅迫めいた手紙が届いたのでしばらく会えない、と連絡がきました。想定外でした。私が一番に彼に寄り添い、他の女を切り捨てさせることが狙いだったのに、私が切り捨てられたんです。その後、何回か“会わない?”と連絡したけど、彼からは返事はなし。すべて私が蒔いた種だし仕方がないと思いました。彼の身を脅かしてしまったことは反省しています」 出会いが“コンビニ感覚”で始まったとしても、あまりに重い結末もある。様々な男女のドラマを紡ぎ出す既婚者合コンは、今日も開催されている。【プロフィール】河合桃子(かわい・ももこ)/1977年、東京都生まれ。ライター。AV業界を長年取材するほか、ハプニングバーや一般人によるアダルト動画配信など、性風俗に関する最新事情を追う。※週刊ポスト2024年1月1・5日号
〈既婚者同士の社交場〉〈婚外恋愛やセカンドパートナー探しに〉
こんな謳い文句で「既婚者限定」の合コンが開かれ、全国各地で毎日のように、多数の参加者が出会いを求めている──。マッチングアプリで個別に出会うのが当たり前の若者の間では「合コンは死語」と言われるが、上の年代ではむしろブームだ。既婚者合コンを企画する運営会社は全国に15社ほど存在する。
全国20エリアで毎日、既婚者合コンを開催する創業15年の運営会社「キコンパ」代表の田中大輔氏が語る。
「弊社では午前と午後の部を設けて、全国で1日3回は開催しています。既婚者同士の人生を豊かにする場、という位置づけです。男性も女性も様々な時間帯で働く職種や立場に身を置いている方がいますので、多様な生活リズムの合間に来ていただくため、いつでも開いているコンビニのような感覚が理想と考えています。早い時間だと午前11時半からで、遅い時間は19時からです」
出会いの舞台となる会場は、外資系高級ホテルのラウンジから貸し切りのレストランなど運営会社によって様々だ。男女が3対3で着席して話し込むスタイルもあれば、女性は固定で男性が5分ごとに席を移動するスタイルなどもある。
筆者は今回、平日16時からのとある合コンに参加した。配偶者がいながら合コンに参加する動機や目的を探るためだ。
男女各15名ほどが参加した会合で隣席に座った専業主婦の亜美さん(38・仮名、以下同)は、参加の動機を「ガス抜きです」と語った。主婦としての狭い人間関係の中で、初対面の人と気軽に喋る時間が楽しいと話す。
「中学生で不登校になってしまった子供と日々向き合う張り詰めた気持ちや、同居する姑との間で溜まった鬱憤とかを、もう二度と会わないかもしれない人と気軽に喋ることで発散してます。真っ昼間からお酒を飲む非日常ではあるけど、“非すぎない”日常の延長線上だからいいんです」
夫には「友達と遊びに行く」という建前のため、20代の頃のような男ウケを狙った服装ではなく、主婦のちょっとしたお洒落着で参加する。その気楽さも心地よいという。
亜美さんは“ガス抜き”の意味合いについて、話し相手程度のこともあれば、肉体関係に発展する場合もあったと明かす。
「何回かランチや飲みに行ってエッチをした方もいましたね。でも私が冷めてしまって、男の人を振り回してしまったことが何度かあり、今は慎重になってます(笑)」
後ろめたさはないのかと問うと、あっけらかんとこう答えた。
「え、なんで? これも私が主婦として難なく日常生活をこなすために必要なガス抜きですから。夫には友達と遊びに行くって出かけてるし、実際にママ友と遊びに行くこともあるし」
既婚者合コンのメイン層は圧倒的に40~50代の男女だ。子育てに手がかからなくなったから、と参加するようだ。そのメイン層でもある優子さん(50)はこう話す。
「夫とはもう2年ほどレスですが、一緒の時に本当の自分でいられる居心地のいい人だし、私にとっては最高の夫です」
そこまで言うのに、なぜ参加するのか。
「自分の寂しさを心も体も埋めてくれる人を探しています。夫以外に精神的な繋がりを持てる人が欲しいんです。子供からはお母さん、時にはオバさんと言われ、夫からも求められない。家族の誰からも女性として見られない寂しさです」
既婚者合コンに参加する女性は、マッチングアプリを通じたパパ活などよりも精神的な紐帯を求める傾向が強いようだ。だが、金銭を介さない関係がゆえに、男女の求めるものの違いが浮き彫りにもなってくる。
「会場で出会った男性で、2~3回お食事をしてエッチにまで至った方がいました。でもその方、エッチの翌日から連絡が途絶えてしまって……。とても悲しかったです」
取材の中で、婚外恋愛で肉体関係に発展するからこその男女のすれ違いやトラブルが見えてきた。2児の母で看護師の翔子さん(46)は言う。
「既婚者合コンで出会った方と1年付き合い、その彼が脳梗塞で倒れました。私のほうが病院選びや日々の対応はできるはずなのに、当たり前だけどその役割は奥様に譲らなければいけないのがどうにも許せず、お別れしました。彼は“妻と別れる気はないけど僕は君との関係も続けたい”と言ってきましたが、私には無理でした。私が本気になってしまったんです」
行きすぎた行動を取ってしまった女性にも出会った。正社員として働きながら小学生の子供を2人育てている愛香さん(45)だ。
「合コンで出会った同年代の男性に一目惚れしました。私のほうから誘って、多くて週に1回か、2週に1回くらいのペースで会ってはエッチしました。彼とは体の相性もよかったんです」
しかし愛香さんは、相手男性がシャワーを浴びている最中にパンドラの箱を開けてしまう。
「前々から彼のLINE通知が多すぎることに不信感を抱いてたんです。彼のパスコードはすでに目視で覚えてたので、LINEを覗きました。すると私以外に2人くらい、肉体関係にあるだろう女性の存在がいることを知ってしまったんです」
まるで夫の浮気を目撃したような口調で話す。その後の行動は妻以上のタブーを犯してしまった。
「頭に血が上り、どうにかして彼を追い詰め他の女性と付き合えない状況にしたいと思いました。彼の会社と本名はもちろん知っていたので、会社宛に匿名で“浮気を一刻も早くやめないと立場が悪くなる”というような内容の手紙を送りつけてしまいました」
愛香さんが送った手紙を男性が見ると、当然ながら動揺したという。
「会社に脅迫めいた手紙が届いたのでしばらく会えない、と連絡がきました。想定外でした。私が一番に彼に寄り添い、他の女を切り捨てさせることが狙いだったのに、私が切り捨てられたんです。その後、何回か“会わない?”と連絡したけど、彼からは返事はなし。すべて私が蒔いた種だし仕方がないと思いました。彼の身を脅かしてしまったことは反省しています」
出会いが“コンビニ感覚”で始まったとしても、あまりに重い結末もある。様々な男女のドラマを紡ぎ出す既婚者合コンは、今日も開催されている。
【プロフィール】河合桃子(かわい・ももこ)/1977年、東京都生まれ。ライター。AV業界を長年取材するほか、ハプニングバーや一般人によるアダルト動画配信など、性風俗に関する最新事情を追う。
※週刊ポスト2024年1月1・5日号