京都アニメーション放火殺人事件で殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判は、第20回公判が4日午前10時半から京都地裁で開かれる。
この日も検察側による被害感情の立証が続き、遺族に加え、負傷者による意見陳述も予定されている。11月30日の前回公判で涙ながらに憤りをあらわにした遺族ら。「弁護士は被告のためとはいえ、被害者をないがしろにしていいのか」。その矛先は反省の態度を見せない被告だけでなく、弁護側にも向けられた。
「36人犠牲は建物の構造影響」
「弁護士から『建物の構造で亡くなった』といわれたことに傷ついた」
京アニで美術監督を務めた渡辺美希子さん=当時(35)=の姉は前回公判で、弁護側をじっと見ながらこう発言した。弁護側が9月5日の初公判の冒頭陳述で、36人もの犠牲者が出たことに「これだけ多くの人が亡くなったのは建物の構造が影響した可能性もある」と主張していたからだ。
現場となった第1スタジオの構造については、第11回公判であった京都市消防局職員の証人尋問で検察、弁護側双方が確認している。この職員は事件前の第1スタジオは法令上、必要な設備を設けるなどし、違反はなかったと証言。また、ガソリンを用いた放火を前提とした防火対策が存在するのか問われると「私の経験ではありません」と言い切っていた。
このため、渡辺さんの姉は「ガソリンによる放火を想定して訓練する事業所がどれほどあるのか」と、法廷で弁護士に投げかけたのだった。
誤解していないか
一連の公判には、多くの遺族らが被害者参加制度を利用し参加している。これまで傍聴席や検察官の後方に座り、被告の一方的な主張や弁護側の意見にもじっと耳を傾けてきたが、ようやく意見陳述の機会が巡ってきたことで、遺族として率直な思いをぶつけている。
「黙っているからと言って何も感じていないと誤解していないか。ただでさえ家族を無残に殺害されたのに、被告人のためとはいえ、弁護士は被害者をないがしろにしていいのか」。32歳の兄を失った男性は語気を強めた。
弁護側は一貫し、精神障害の影響で被告の無罪または罪の減軽を求めている。11月27日にあった量刑を巡る3回目の冒頭陳述では「人を殺すことは悪いことなのに、なぜ死刑は正当化されるのか」と、死刑制度を問う場面も注目を集めた。
遺族の男性はこうした弁護側の言動が、法廷に遺族や被害者がいないかのような「身ぶり手ぶりのパフォーマンス」に見えて傷ついたと主張。「弁護士や被告の態度に傷つけられながらも黙って見守ってきた。彼らの話を聞いて私たちはどう思ったのか。遺族の思いを忘れないでください」と涙ながらに語った。
ただ、被告自身も弁護側の手法に揺れる思いがあるようだ。11月27日の公判。検察官からの質問に、弁護士が証言を控えるよう小声で助言したとみられる直後、被告は「はっきり言って答えていいと思いますが、弁護士さんからアレがあって控えたい」と答えた。
肉親を奪われた遺族の叫びと弁護側の戦術。審理が最終盤に差しかかる法廷では、さまざまな思いが交錯する。