欲望が渦巻く新宿歌舞伎町。トー横キッズにホス狂、新大久保のたちんぼ。危険と隣あわせの夜の世界で刹那的に生きている彼女たちは事件に巻き込まれることも多いが、その度に世間からは「自業自得だ」と批判を浴びせられる。彼女たちは、一体どうしてそこにいて、どう生きているのか。エッセイストでライターのyuzuka(@yuzuka_tecpizza)が取材する(以下、yuzuka寄稿)。◆売掛制度の問題点をホストに聞いた
前半の記事では、実際にホストクラブに通って”売掛沼”に陥ったRさんの話を取り上げた。見えてきたのは、売掛制度が苦しめるのはお客側だけではなく、ホスト側でもあるということだ。
高額な「売掛」を踏み倒された時、同額の借金をホスト自身が被ることになるそのシステムは、この問題を複雑化させる原因となっている。そんな状況でも、ホストたちはどうして「売掛制度」に頼り続けるのか。今回は実際に現役ホストとして働く立場でありながら、SNSで売掛制度に異議をとなえているはっしーさん(@yyooos)にお話を聞いた。
◆家出をして14歳から夜の世界に
はっしーさんが夜の世界に足を踏み入れたのは、14歳の時だった。親との関係が上手くいかず、実家のある兵庫から福岡に飛び出し、それから一度も戻っていない。当時は年齢確認が甘く、女の子をキャバクラなどに紹介する「スカウト」であれば、未成年だった彼でも働くことができた。
ある程度お金を貯めたはっしーさんは東京に移り、ホストクラブで働きはじめ、今年9年目となる。「モテてモテてしょうがないので、それを商売に生かそうと思って」と、冗談めかして笑う彼の印象はとても柔らかく、ホストらしくない。
彼は「LINEを返さないホスト」としても有名で、無理な色恋営業も行わない。その理由について「本来の自分で無理なら、そこで諦める。お互いしんどくなってしまうから」と語る。
◆軽度の“愛着障がい的な”女の子も
――多額のお金を使う「ホス狂」と呼ばれる女の子に何か特徴はありますか?
はっしー:ほとんどが夜の仕事をしています。ホストに勧められて……というケースもありますが、そもそも夜で働いている子がホストにやってくるケースが多い。昼の仕事をしている人は、たまに遊びに来ることはあっても、熱狂的なホス狂にはなりにくいと思います。
――どうして夜の仕事をしている女の子に、ホストにハマる人が多いのでしょう。
はっしー:日常生活の中で他人との接点がないですね。仕事と家との往復で、何気ない会話をする相手もいない。僕もそうなんですけどね。普段から悩み事や仕事での不満を抱え込んでいて、それを話せるホストに出会うと、どっぷりハマってしまう子が多い気がします。家族にすごく複雑な事情を抱えていて、それを考えないためホストに来て、そこで断れずにお金を使っている……みたいな子が目立ちます。軽度の愛着障がい的な女の子も多いと思います。
◆「数千万円をドカっと使う子もいます」
家と仕事の往復だけを繰り返す単調な日常に、突然まばゆい光をまとったホストの語る夢が食い込んでくる。「こんなに熱がある人は初めて見た。この人の言う通りにしよう」と、ある種の洗脳状態に陥るのだという。
はっしーさん曰く「ホス狂の女の子たちは均等にお金を使えない。ハードであるほど、たった1人に注ぎ込む傾向がある。反対に、いろんなホストに平等に貢いでいる人がいるとしたら、それは遊び方がうまいだけで、ホス狂いじゃない」そうだ。
――ハマってしまった女の子たちは、どれくらいの額を使うんですか?
◆9000万円の売掛をトンだ女の子も
そうやって担当ホストにハマり、金銭感覚が狂っていく中で、冒頭の「売掛制度」を利用するようになっていく女の子が多い。前半のインタビューで、Rさんも「わざと多額の売掛をして、それを原動力にして生きている。売掛がないと生きていけないと言う女の子もいる」と言っていた。
――売掛制度とは具体的に、どのようなシステムですか?
はっしー:ホストが女の子の飲食代金を立て替えて、次の月の入金日に回収するというシステムです。女の子から提案されることも多くて。業界歴が長い女の子だと「今日カケでいい?」と事前に聞かれることも多いです。あとは、その日に飲みすぎてお金が足りなくなってしまったとか、ホストが「カケでも良いからシャンパンを入れてくれ」とねだって高額なお酒を注文するとか、いろんなケースがあります。
――どのくらいの額を売掛するんですか?
はっしー:本当にバラバラですが、何百万円という単位で売り掛けする女の子も多いですね。僕が間近で見た最高額は9000万円です。ちなみにその女の子は“トンで”、そのホストは永遠にタダ働きさせられていました。もしかしたら今もそこで働いているかもしれません。
――どうしてそこまでリスクの高い、無理な売掛をさせてしまうのでしょう。
はっしー:感覚がおかしくなってるんです。売掛って本当に簡単で借用書に名前を書くだけ。実際は数百万円や数千万円の話だけど、両者とも数百円を貸し借りするような感覚です。払う時期になってようやくトラブルが目立つのは、ホスト側の教育不足の面もあるかもしれません。
◆昔はホストがアングラだった
――教育が行き届いていない?
はっしー:昔はホストってアングラだったんですよね。だけど最近はSNSやドラマの影響で普通の男の子たちがホストクラブで働きはじめていて正直手がまわっていないんです。本来はホストがそのお客にとって、売掛に無理がないか、払えそうかみたいな部分を慎重に判断しないといけない。
もっと言えば店側もそのホストに売掛の判断を任せても問題がないか把握する必要がありますが、今はそれができていないし、店側も放置している。ホストに見る目がないのに、店側は教育することもなく、無責任に売掛を推奨しているから、トラブルは増えますよね。これは完全に、店が悪いと思います。何かトラブルがあっても捕まるのはホストだけ。店側は野放しで、全てホスト側の責任になります。
――店側は売掛制度を勧めるんですね。
はっしー:そりゃあ勧めますよね。自分たちには一切リスクがないですから。女の子がトブ可能性があっても、お店からすれば関係ない。もしトンでも、担当ホストから全額回収すれば良いだけですから。
◆ホストは「売れたら自由になれる」と洗脳
――ホストたちは、どうしてそこまでして売上にこだわるのでしょう。
はっしー:やっぱりNo.1になりたいからですね。ずっと「No.1はどれだけ凄いか」と教え続けられ、「売れたら今より自由になれる」と洗脳されますから。ある程度売上があがれば街頭トラックに自分の写真をのせたり、歌舞伎町に看板を出せたりするんです。そこまで宣伝効果がなくても、あれにのりたいがために売掛をさせてる子もいます。
――売掛を踏み倒せないホストは回収に躍起になる?
はっしー:本人たちにも「回収できないとカッコ悪い」というプライドがある。同僚や上司には「回収できた」と嘘をついて、結果的に無理な方法で取り立て、事件が起こると思います。
――ちなみに売掛が払えなくなるケースは、全体のどれくらいなんですか?
◆実は、はっしーさんも売掛制度を利用
と、ここまで売掛制度の危険について語ってくれたはっしーさんだったが、そんな彼自身も制度を利用している。ここまで危険性を客観視し、制度そのものに否定的にもかかわらず、本人がきっぱりと辞めないのはどうしてか。
――売掛に批判的にもかかわらず、自身は売掛をされているのは矛盾を感じます。
はっしー:そうですよね。ただ、僕は多額の売掛はさせていませんし、自分から頼むこともありません。昔から通ってくれている女の子のなかに、習慣として売掛で飲む女の子がいて、その子は信頼もあって受け入れています。
――はっしーさんの知らないうちに、お客さんが無理をしてしまう可能性はありませんか?
はっしー:ないと思いますね。仮に支払いが遅れたとしても「払える時でいいよ」ってスタイルなので。昔はその一線を越えて、あんまり良くない営業方法をとっていた時期もありましたが、やめたんです。だから、今のお客に僕が原因で無理をするとか、風俗で働くのはないと思います。
◆歌舞伎町が売掛制度をやめるのは難しい
――それでも売掛を辞めない理由はなんですか?
はっしー:習慣として売掛制度がないと困る女の子が多いのも事実なんです。キャバクラやホステスでもツケという制度はあるけど、あまり問題にならない。あれは、お金を持っている人だけが使っているからで、本来はそうあるべきなんです。もっと売掛のリスクを分散するとか、判断能力を教育するとか、そういうことが現実的かと思ってます。
――では、「売掛制度」がなくなること自体は望んでいないということですか?
はっしー:なんとも言えないですけど、正直、すべてのホストクラブが足並み揃えて一斉に売掛を止めるって、難しいですよね。ただ、やっぱり歌舞伎町も競争社会なので、店舗ごとに対応が異なると、不公平感が出ます。お客さんも売掛ができる店を選んで飲むだけで、問題解決にはならない気がしますし。だからもう僕は、いっそ売掛なんて返さんくていいやんって思います。
◆「ホストは全員、危ないですよ」
一見、同業者や勤務先から総叩きに遭いそうな発言ではあるが、そんな歯に衣着せぬコメントに魅力を感じるファンが多いのが、はっしーさんの強みだ。
――ちなみに危なくないホストの見分けかたはありますか?
はっしー:何言ってるんですか。ホストは全員、危ないですよ。
◆有名ホストクラブも売掛を禁止
11月17日、大手ホストクラブのグループ「ローランドグループ」を運営する、タレントであり現役ホストでもあるローランドさんは、自身が運営する全ホストクラブの営業において、一切の売掛を禁止するという声明を出した。この声明により、同業やホストを利用する客を中心とした売掛制度そのものの議論が、また活発になっている。
欲望と、不安定な精神状態が合わさることで生み出される、数々のトラブル。事件が表沙汰になるたびにホスト側が叩かれたり、反対に女の子側が自業自得だと見放されたりしがちである「売掛問題」だが、問題の原因は利用している人たちだけではなく、そのシステムの構造にありそうだ。
これ以上、「いつの間にかそうなっていた」と後悔する誰かが増えないよう、制度の見直しや、ホストクラブのあり方、そして正しい遊び方の意識改革が必要なのかもしれない。数年前、9000万円の売掛を踏み倒されたホストは、今もどこかでタダ働きをしているかもしれない。
<TEXT/yuzuka>