「違法な私人逮捕系のユーチューバーの逮捕はしばらく続くでしょう」
そう語るのは元千葉県警警部補で日本刑事技術協会上席コンサルタントの森雅人氏(40)だ。
逮捕の権限は一般的に警察官や検察官に限られているが、現行犯ーー“現に罪を行っているもの、罪を行い終えて間がないと認められるもの”に関しては、私人でも逮捕が認められている。それを私人逮捕という。私人逮捕をした際はただちに警察官などに引き渡さなければならない。
昨今では無関係の人を一方的に犯人扱いし、「私人逮捕」と称し不当に拘束。その様子を公開し、反対に自分自身が逮捕される私人逮捕系ユーチューバーが社会問題となっている。
「現行犯逮捕ができる要件なのかどうかの線引きは非常に難しい。例えば、チケット転売では事前の証拠集めが大事で、現場に行ってチケットを手渡すところを見たとしても、そのチケットが不正に入手したチケットかどうか、転売していいものなのか否かなど確認行為が必要なわけです。警察であっても通常証拠を集めてから逮捕状を取って通常逮捕するような案件。現行犯逮捕は馴染まないにもかかわらず私人逮捕系ユーチューバーは平気で行っています」(森氏)
警視庁は、11月20日、覚醒剤取締法違反容疑で「ガッツch」を運営する私人逮捕系ユーチューバーの今野蓮容疑者(30)らを逮捕した。掲示板で女性を装い、「覚醒剤、持ってきて」と書き込み、50代男性を釣り出したという。
現れた男性を「交番行きましょう」と迫った上で押し倒し、馬乗りになって拘束。駆けつけた警察官に引き渡した。森氏はこう危ぶむ。
「誘い出し方が警察では絶対にやらない手法です。女性を装い、一緒に覚醒剤を使いたい、という趣旨で書き込むのは、そそのかすかのような行為で警察ではご法度。売人が掲示板で持ちかけてきたら、買う素振りを見せて、捕まえる手法はありますが、自分から持ちかければ、教唆の罪に問われるのは当然です。
また私人逮捕系ユーチューバーは110番し、警察が来るまで留め置くために制圧行為がありますが、暴行罪となる恐れもある。
証拠を掴んでいないまま、現に犯罪が行われているのをちゃんと見ないまま『おそらく罪を犯しているだろう』という思い込みで逮捕行為をするのは非常に危うい」
彼らはなぜ違法行為に手を染めてでも私人逮捕の動画を撮影・公開したのか。
「稼げるため」だ。ユーチューブの構造上、アクセス数や視聴時間に応じ、広告料の数%がユーチューバーに支払われる。この構図がある限り、投稿動画は視聴者を引きつけるために、より過激になり、法を犯しても稼ごうとする輩は後を絶たない。プラットフォーム側のガイドラインの見直しも必要ではないか。
「申し入れはできると思います。ただ、あくまでも法律に基づいてこうやりなさい、と命令や指示をできる立場ではありません。コンテンツを提供するプラットフォーム側がもっと厳しいガイドラインを作ってやるべきだとは思うんですが、警察的な立場で言わせてもらうと、法的拘束力があるわけではないので『お願いベース』になってしまう。仮に日本法人が同意をしても米国本社での判断もあり、合意形成に時間を要する難しさも」(森氏)
動画再生数がユーチューバーの利益となる構図が変わらない限り、第2、第3の輩は現れよう。森氏はこう語る。
「警察としては一つひとつを潰していく。『迷惑系ユーチューバー』が流行った時、へずまりゅうを逮捕すると多くの迷惑系は姿を消した。いたちごっこになってしまいますが、警察としては、動画の中に違法性が認められれば、それを一つひとつ潰していく」
それでもなぜ彼らは私人逮捕を止めないのか。稼げる以外にも「逮捕ハイ」「検挙ハイ」というものがあるようだ。森氏も現職警官時代、客引きを風営適正化法違反などで現行犯逮捕した際「警察官という立場であってもちょっとした興奮状態になっていた」と振り返る。
さらに「まして、一般の方が私人逮捕をするのであれば、興奮状態になってしまうのは、理解はできます」と述べた森氏は、過去の経験則からこう推察する。
「痴漢、盗撮系は私人逮捕が大半でした。エスカレーターの後ろでカメラを向けているのを見たから捕まえました、というケースが大半でした。周辺の監視カメラも確認しますし、被疑者のスマホの中に盗撮の画像が残っていれば、有力な証拠で、現行犯逮捕の要件を満たします。
そのとき、私人逮捕した人はたまたま居合わせた人で、高揚している感じがありました。『痴漢を懲らしめた』『被害者を助けた』と興奮している様子は見て取れました。犯人を捕まえた高揚感で、冷静ではいられないのでしょう。
ただ、捕まえるのが目的だったわけではありません。たまたまその場に居合わせて捕まえた。『世直し』と称して、女性を見ているだけで不審者と決めつけ、犯罪行為の確証がないまま、不当な私人逮捕をした。その興奮を得ようとするのは許される行為ではありません」
モザイクもかけずに私人をSNS上でさらすのはプライバシー侵害となる恐れもあるという。次なる「迷惑系」「私人逮捕系」が出ないことを切に願う。
取材・文:岩崎 大輔