鳥取県は若年性認知症の人が行方不明になった際の対応を見直し、10月31日から新たな運用を始めた。
これまでは65歳以上の高齢者を対象にした指針を定めていたが、8月に認知症を患う米子市の50歳代女性が行方不明になったことを受けて、64歳以下にも拡大。早期発見につながるよう警察や自治体と迅速に情報共有していく。(山内浩平、東大貴)
見つけてやれなくてごめん――。若年性認知症で行方不明の荒川泰子さん(59)(米子市祇園町)の夫・勉さん(64)は、最愛の妻を捜し続けている。失踪から3か月近く。SNSを介して集まった目撃情報は島根県から埼玉県まで及ぶ。わずかな情報を頼りに再会できる日を願っている。
「泰子の実家方面もすぐ捜していれば、見つかっていたかもしれない……」。勉さんは今も、泰子さんが姿を消した8月8日への後悔が尽きない。島根県との県境に近い一軒家で、今春に次男が就職で出てから2人で暮らしていた。50歳代前半で認知症を発症した泰子さんの介護に専念するため7月で米子市内の勤め先を辞め、新たな暮らしを始めたばかりだった。
真夏のこの日、午前6時前に起きると、泰子さんの黒の革靴とショルダーバッグがないことに気づいた。「買い物に出たにしては早いな」。不安に思い、決まって買い物に行くJR米子駅前のスーパー周辺を捜し回った。しかし姿はなく、米子署に行方不明届を提出。市の防災無線でも情報提供を呼びかけてもらった。
最初の手がかりは翌日午後。泰子さんの実家がある西の松江市方面へ向かう国道9号沿いの防犯カメラに8日早朝、1人で歩く背格好の似た女性が映っていることがわかった。ただ本人だったとしても、認知症の妻にとって松江への道のりは「未知の世界」。さまようと自宅に戻れないことは容易にわかった。
その後、情報提供を呼びかけていた勉さんのX(旧ツイッター)にも、松江市内の国道9号を歩く姿の目撃情報が寄せられた。そのため泰子さんの写真を載せたちらしを作り、西は島根県出雲市まで行ってスーパーやガソリンスタンドの店先に貼ってもらったが、期待を抱いた発見には至っていない。
静まりかえった自宅の居間には、泰子さん愛用の帽子が置かれたまま。結婚式を挙げた出雲大社(島根県出雲市)の護符に向かって毎朝晩、無事を祈り続けている。「泰子と必ず生きて会えると信じている」