日本の公安警察は、アメリカのCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)のように華々しく映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩み、数年前に退職。一昨年『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、ハレンチ行為を繰り返す某駐日大使の息子について聞いた。
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【写真を見る】ドラマ「VIVANT」の監修も務める、元公安警察の勝丸円覚氏 10年ほど前、勝丸氏が公安部外事課で各国の駐日大使館や領事館との連絡・調整係を担当していた頃の話である。

「南太平洋のある 駐日大使に小学校6年の息子がいました。この子の行動に問題がありまして……」ハレンチ行為の決定的瞬間を防犯カメラが捉えた(※写真はイメージ) と語るのは、勝丸氏。「彼は都内のインターナショナルスクールに通っていましたが、放課後、大使公邸への帰り道に路上で女性の身体をタッチして逃げるという癖がありました。女性の後ろから接近して胸をつかんだり、お尻を触ったりしていたそうです」 被害に遭ったのは、30代から40代の女性が多かったという。1年で50~60人「だいたい平日の16時から18時の間に被害に遭っていたそうです。困った女性たちは、所轄署に連絡したり、交番に行って相談したといいます」 もっとも、被害届を出した人はひとりもいなかった。「被害女性は、本人に注意してやめさせて欲しいと訴えていました。中には3回も触られた女性もいたそうですが、小6といえばまだ子供ですからね。逮捕して欲しいという人はいませんでした」『諜・無法地帯 暗躍するスパイたち』(実業之日本社) 被害に遭った女性は、約1年の間で実に50~60人にも上ったという。「所轄署はパトロールを強化、犯行現場で張り込みを行いました。身体を触られた後少年を追いかけた女性もいて、大使公邸に入るところも確認していた。そこでインターナショナルスクールから大使公邸までに設置してある防犯カメラをチェックしたところ、ある個人宅の防犯カメラに少年が女性の後ろから接近して胸を触り逃げていく姿がバッチリ映っていました」 警察は、大使の息子の仕業であるとほぼ確定した。「大使の息子を隠し撮りし複数の被害女性に見せたところ、間違いないと。それで大使館との連絡係をしていた私のところに、所轄署の担当者から連絡が来たのです。ウィーン条約によって大使は外交特権で逮捕できませんが、日本に滞在している大使の家族にも同様の特権があります。この場合、大使の息子をどのように扱えば良いかわからなかったのでしょう」「女性の敵」 結局、勝丸氏が父親である大使と面会することになった。「秘書に連絡し、大使と会いたい旨を伝えました。大使とは顔見知りでしたし、彼がトラブルに巻き込まれた時に相談に乗ってあげたこともありましたので、すぐに会うことができました」 大使は、勝丸氏の顔を見ると機嫌良く迎え入れてくれたという。「ところが、大使に息子さんが行ったことを話すと、態度がガラリと変わりました。『何を言っているんだ。何を証拠にそんなことを言うんだ。それは私の国に対する侮辱だ』と怒り出しました」 勝丸氏は、このことを公安部長に報告。すると、部長は激怒したという。「そんなことがあった後、大使の息子は再びとんでもないことをしでかしました。またいつものように40代半ばの女性の後ろから忍び寄って、お尻の下から手を入れ触ったのです。びっくりした女性は転倒してしまい、両膝を擦りむいて出血。全治1カ月の怪我を負いました。女性は被害届を提出、傷害事件となりました。日本の少年が同様のことをした場合、14歳以下ですから逮捕はされませんが、児童相談所扱いとなります」 これでは公安部も厳しく対応するしかない。外交官のお目付役を担う外務省の儀典官室(プロトコール・オフィス)に報告したという。「この部署は、問題のある外交官に『ペルソナ・ノン・グラータ(好しからざる人物)』を通告して国外退去処分にすることができます。儀典官室の担当者に報告すると、『女性の敵ですね。絶対許すことは出来ません』と。大使に捜査協力をしてもらいなさいと言われました」 勝丸氏は、所轄署の生活安全課の刑事と一緒に再度大使と面会した。「大使に女性が提出した被害届を見せると、『何の証拠があるんだ』と怒っていました。息子さんの写真を被害女性に見せ、間違いないことを伝えましたが、『勝手に息子の写真を撮って女性に見せるなんて、二国間の問題に発展するぞ』と言い張っていました。捜査協力をお願いしても、『協力しない。息子を信じている』と言うだけです」 勝丸氏は、儀典官室に大使とのやりとりを報告した。「すると儀典長が大使を外務省に呼び出しました。儀典長は局長級の役職で、その後オーストラリア大使に任命されたりします。大使にとって、儀典長に呼び出されるのは大変不名誉なことです。儀典長は大使に『捜査の結果、息子さんが傷害事件を起こしたのは間違いありません。捜査協力をしていただけないのなら、本国の外務省に捜査資料を送付して、協力してもらえるよう依頼しますがどうします』と言うと、大使は真っ青になって『全面的に協力します。息子には登下校の際に付人をつけて監視します』と、観念したそうです」 結局、怪我をした女性に医療費と慰謝料を払い和解。被害届は取り下げられた。少年の問題行動もなくなったという。「大使は1年後に帰国しました。離任の際、大使は私に『申し訳なかった。もっと早く対応すれば良かった』と反省していました」勝丸円覚1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/デイリー新潮編集部
10年ほど前、勝丸氏が公安部外事課で各国の駐日大使館や領事館との連絡・調整係を担当していた頃の話である。
「南太平洋のある 駐日大使に小学校6年の息子がいました。この子の行動に問題がありまして……」
と語るのは、勝丸氏。
「彼は都内のインターナショナルスクールに通っていましたが、放課後、大使公邸への帰り道に路上で女性の身体をタッチして逃げるという癖がありました。女性の後ろから接近して胸をつかんだり、お尻を触ったりしていたそうです」
被害に遭ったのは、30代から40代の女性が多かったという。
「だいたい平日の16時から18時の間に被害に遭っていたそうです。困った女性たちは、所轄署に連絡したり、交番に行って相談したといいます」
もっとも、被害届を出した人はひとりもいなかった。
「被害女性は、本人に注意してやめさせて欲しいと訴えていました。中には3回も触られた女性もいたそうですが、小6といえばまだ子供ですからね。逮捕して欲しいという人はいませんでした」
被害に遭った女性は、約1年の間で実に50~60人にも上ったという。
「所轄署はパトロールを強化、犯行現場で張り込みを行いました。身体を触られた後少年を追いかけた女性もいて、大使公邸に入るところも確認していた。そこでインターナショナルスクールから大使公邸までに設置してある防犯カメラをチェックしたところ、ある個人宅の防犯カメラに少年が女性の後ろから接近して胸を触り逃げていく姿がバッチリ映っていました」
警察は、大使の息子の仕業であるとほぼ確定した。
「大使の息子を隠し撮りし複数の被害女性に見せたところ、間違いないと。それで大使館との連絡係をしていた私のところに、所轄署の担当者から連絡が来たのです。ウィーン条約によって大使は外交特権で逮捕できませんが、日本に滞在している大使の家族にも同様の特権があります。この場合、大使の息子をどのように扱えば良いかわからなかったのでしょう」
結局、勝丸氏が父親である大使と面会することになった。
「秘書に連絡し、大使と会いたい旨を伝えました。大使とは顔見知りでしたし、彼がトラブルに巻き込まれた時に相談に乗ってあげたこともありましたので、すぐに会うことができました」
大使は、勝丸氏の顔を見ると機嫌良く迎え入れてくれたという。
「ところが、大使に息子さんが行ったことを話すと、態度がガラリと変わりました。『何を言っているんだ。何を証拠にそんなことを言うんだ。それは私の国に対する侮辱だ』と怒り出しました」
勝丸氏は、このことを公安部長に報告。すると、部長は激怒したという。
「そんなことがあった後、大使の息子は再びとんでもないことをしでかしました。またいつものように40代半ばの女性の後ろから忍び寄って、お尻の下から手を入れ触ったのです。びっくりした女性は転倒してしまい、両膝を擦りむいて出血。全治1カ月の怪我を負いました。女性は被害届を提出、傷害事件となりました。日本の少年が同様のことをした場合、14歳以下ですから逮捕はされませんが、児童相談所扱いとなります」
これでは公安部も厳しく対応するしかない。外交官のお目付役を担う外務省の儀典官室(プロトコール・オフィス)に報告したという。
「この部署は、問題のある外交官に『ペルソナ・ノン・グラータ(好しからざる人物)』を通告して国外退去処分にすることができます。儀典官室の担当者に報告すると、『女性の敵ですね。絶対許すことは出来ません』と。大使に捜査協力をしてもらいなさいと言われました」
勝丸氏は、所轄署の生活安全課の刑事と一緒に再度大使と面会した。
「大使に女性が提出した被害届を見せると、『何の証拠があるんだ』と怒っていました。息子さんの写真を被害女性に見せ、間違いないことを伝えましたが、『勝手に息子の写真を撮って女性に見せるなんて、二国間の問題に発展するぞ』と言い張っていました。捜査協力をお願いしても、『協力しない。息子を信じている』と言うだけです」
勝丸氏は、儀典官室に大使とのやりとりを報告した。
「すると儀典長が大使を外務省に呼び出しました。儀典長は局長級の役職で、その後オーストラリア大使に任命されたりします。大使にとって、儀典長に呼び出されるのは大変不名誉なことです。儀典長は大使に『捜査の結果、息子さんが傷害事件を起こしたのは間違いありません。捜査協力をしていただけないのなら、本国の外務省に捜査資料を送付して、協力してもらえるよう依頼しますがどうします』と言うと、大使は真っ青になって『全面的に協力します。息子には登下校の際に付人をつけて監視します』と、観念したそうです」
結局、怪我をした女性に医療費と慰謝料を払い和解。被害届は取り下げられた。少年の問題行動もなくなったという。
「大使は1年後に帰国しました。離任の際、大使は私に『申し訳なかった。もっと早く対応すれば良かった』と反省していました」
勝丸円覚1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/
デイリー新潮編集部