「判決は当然の結果だと思っています。この裁判で、ほかの被害者に少しでも勇気を与えられるなら嬉しいです」
そう語るのは、群馬県の医薬品販売会社の代表取締役を務めるAさん(50代)だ。
9月20日、前橋地裁太田支部でAさんがビッグモーターを相手に起こした訴訟の判決が下された。前橋地裁はAさんの主張を全面的に認め、ビッグモーターに約320万円の賠償を命じた。
事の発端は’19年に遡(さかのぼ)る。Aさんはビッグモーターからホンダのハイブリッド車を350万円で購入した。事故歴なしと言われたが、後日、水没車だったことが判明。購入代金の返金を求めていた。判決のあと取材に応じたAさんが語ったのは、ビッグモーターのズサンな対応だ。
「購入から1年半後、電装部品の腐食漏電が原因でバックができなくなるトラブルが起きました。当初、ビッグモーターは水没車であることを否定。最終的に認めたあとも、『1年半経っているので、誰が水没させたかわからない』と、こちらに落ち度があるように言い出した。さらに驚いたのはその後の担当者の態度です。私が訴訟を考えていると伝えると、彼は興奮気味に『どうぞ訴えてください!』と言って喜び出したんです。なんでも『訴えられるくらい攻めの営業をしている』と評価されるとか。実際に裁判中、彼は店長に昇進していました」
不誠実な対応はその後も続いた。
「水没車を詳しく調べたいと言うと『勝手に敷地に入ってもらったら困ります』と言われ、一切調査させてくれませんでした。そのうえ、車を返さないのに代車の延滞料として180万円を払えと反訴してきた。訴え返されたら怖くなって訴訟を取り下げる方もいるでしょう。どうやったら客が引き下がるか、熟知しているなと感じました」
実際に訴訟の煩(わずら)わしさから声を上げられない被害者は多い。ビッグモーターの担当者に、修理に出した車2台を紛失させられた関西在住の会社役員の男性は、
「交渉時より『会社は一切責任を取らない』というあまりにも不誠実な態度に呆れ果て、訴えることを躊躇(ちゅうちょ)しています」
と腹立たしさを口にした。
一方、Aさんの裁判を知り、立ち上がった人たちもいる。大阪府と愛知県では数百万円の賠償訴訟が起きており、この流れが加速すれば、ビッグモーターは「訴訟地獄」に陥る可能性もある。
「訴訟はさらに増えると思います。裁判の存在を聞いて訴訟を決意した被害者は二人だけではないでしょう。さらに下請け業者など取引先からの提訴も増えると思います。数千万円規模の未払い被害なども耳にしているので、それらが合わされば大きな打撃になると思います」(自動車生活ジャーナリストの加藤久美子氏)
客を軽視し、利益至上主義を突き詰めた代償を支払うときがようやくきた。
『FRIDAY』2023年10月13・20日号より