免許返納後の移動手段として、電動車いすを使うアクティブシニアが増えています。歩行者扱いで手軽なうえ、踏破性や航続距離が向上して利用が増えていますが、死亡事故も急増。製品評価技術基盤機構が警鐘を鳴らしました。
免許返納後の移動手段として、電動車いすを使うアクティブシニアが増えるなか、死亡事故も急増。独立行政法人の製品評価技術基盤機構(nite)が警鐘を鳴らしています。 2023年1月~7月までにniteに寄せられた電動車いすの事故は8件あります。2013年以降、年間で最も多く報告されたのは8件(2018、2020年)。2023年は残り5か月もありますが、すでに年間最多件数と同数です。
歩道を走れる電動車いすで死亡事故が急増している(中島みなみ撮影)。
8月31日の会見でniteの担当者は「外出がしやすくなり、さらに事故に合わないように気を付けてほしい」と、注意を呼びかけました。報告事故の内訳は次の通り。
・踏切3件(死亡2件、製品破損1件)・転落2件(死亡2件)・転倒3件(死亡2件、重傷1件)
これは交通事故を除く、いわゆる利用者自身の事故ですが、内容は過酷です。
踏切事故は、レールの溝に車いすの車輪がはまって動けなくなるケースのほか、踏切の端に寄り過ぎて脱輪し、バラスト(砕石)の上に転倒、段差で起き上がれず接近した列車に衝突する事案があります。2023年の製品破損の1件は、車いすを放棄して、自力で逃れることができたケースです。
転落は、操作を誤って側溝や川などに転落するケースです。2020年の事故では、林道から川に転落し重傷を負ったケースがありました。
転倒は、歩道と車道などの段差でバランスを崩すなどのきっかけで発生しています。今年の事例では80歳の高齢者が車いすごと転倒し病院に搬送されたものの、入院中に死亡した例がありました。
電動車いすは安全な乗り物ですが、niteの報告事例は、いずれも軽視できない内容です。
「死亡事故件数に重傷事故件数を加えると、件数全体の8割を占める」(nite担当者)
普及している電動車いす、例えばスズキ「セニアカー」の重量は100kg程度あります。電動アシスト自転車は30kg前後ですから、はるかに重く、転倒や転落した電動車いすを復帰させるのは、一人ではほぼ不可能です。そのため操縦には、充分な練習が必要です。
事故の重大さを考えると、外出には介護者が必要ではないかと思うかもしれませんが、電動車いすはそもそも、介護者に頼まないと外出できない不自由さを解消するために使っている利用者がたくさんいます。niteの担当者は、介護者が付き添うことより先に、予防対策があると話します。
「必ず付き添うということは難しいので、介護者、家族へのお願いがあります。よく使う道路は決まってくるので、いっしょに回って操作の方法、う回路の検討などをお願いします。高齢者任せでなく、みなさんで考えてもらうと、事故を防ぐことができます」
危険な場所を別の視点で確認して、安全な経路を選択することは通学路などの安全確保でも行われています。また、踏切事故では国土交通省鉄道局が、踏切からの逸脱防止用のガイドを付けることを鉄道事業者に求めるなど、徐々に対策も進んでいます。
niteの調査で対象としている電動車いす(画像:nite)。
niteは、「ご通行中の方へのお願い」として、電動車いすの利用者の周囲にいる人にも呼び掛けます。
「電動車いすで踏切を渡ろうとする人を見かけたら、できるだけ渡り切るまで見守っていただければと思います。車いすの方が歩行者や自転車をよけようとしてハンドル操作をしてしまうと、誤って線路の溝にはまったり、脱輪してしまう恐れがあります。できるだけ道を譲っていただくなど協力をお願いできればと思います」
行動範囲を広げるために選んだせっかくの電動車いす。利用者の前準備と社会でサポートがあれば、誰にとっても過ごしやすい移動社会が実現できるのかもしれません。