インターネット上で被差別部落の地名や個人宅などをさらす投稿が後を絶たない。
法務省によると、ネット上で被差別部落などを示し、人権を侵害する事案は増え続けており、同省は違法性があるものはプロバイダー(接続業者)などに削除を要請してきた。しかし、4割近くで対応がなされておらず、実効性ある対策が急務となっている。
■10年で最多
動画投稿サイト「ユーチューブ」には、字幕とともに、被差別部落とされる地区を歩き、個人宅などを映した動画が多数公開されている。中には商店名や車のナンバーが映り込むものもある。
自身が住む地区の動画が、視聴可能な状態となっている四国地方の50歳代の住民は取材に「ネットでさらして何がおもしろいのか。絶対に許せない」と憤る。
法務省によると、法務局が昨年に扱ったネット上の人権侵害事案は1721件で、5年前より約2割減少。しかし、被差別部落など特定の地区を示す事案に限ると、過去10年で最多の414件で約10倍となっている。
被差別部落の出身者や支援者でつくる団体「ABDARC(アブダーク)」は昨年、ユーチューブを運営するグーグルに対し、差別的な動画の削除を求める署名活動を開始。一部投稿者による動画が削除されたという。
しかし、ユーチューブには、別の投稿者による同種の動画が残り、他のサイトやSNSにも同様の投稿は後を絶たない。
アブダークで活動する男性(44)は「被害を訴える団体が増え、投稿が顕在化しているのだろう。最近は隠語を用いるなどのひどい投稿も増えている」と訴える。
■規約少なく
2016年に施行された部落差別解消推進法は、国などに解消に向けた取り組みを求めている。
同省は18年末以降、SNSの運営事業者や、接続業者らに対し、差別の目的があるか否かにかかわらず、特定の地区を被差別部落と示す投稿について削除を要請してきた。20~22年の削除要請は計458件だったが、応じたのは295件と64%。削除率が82%の性的画像などに比べて低い。
要請に強制力はなく、削除は事業者の判断によるところが大きい。
支援団体などによると、事業者の規約では、性的画像のほか、人種、障害、ジェンダーなどの差別を削除対象に定めるケースは多いが、被差別部落について触れるものは少ないという。
同省の担当者は「日本固有の歴史と経緯が関係する被差別部落の問題は、海外事業者などから理解されにくいことが低い要因とみられる」としている。
■モニタリング
同法の施行を受け、自治体や民間団体も独自の取り組みを進めている。
鳥取県は市町村と連携し、ネットで投稿をチェックする「モニタリング」を実施している。投稿を見つけた場合、事業者らに削除を要請。部落解放同盟によると、実施する自治体や民間団体は、全国で200以上(20年時点)に広がる。
差別解消に向けて啓発を行う一般社団法人「山口県人権啓発センター」(山口市)はモニタリングのほか、当事者からの相談にも応じている。
兵庫県にある自治体は20年、被差別部落を撮影した動画が投稿されたことを受け、裁判所に削除を求める仮処分を申し立てた。裁判所が21年に仮処分を決定し、サイト運営会社は動画を削除。自治体の担当者は「今後も差別的な投稿があれば厳しく対処したい」とする。
■根拠示し周知を
被差別部落問題を研究する内田龍史・関西大教授の話「被差別部落の投稿の削除が進まない背景には、法的に差別の定義が明確にされていない中、安易に応じれば『表現の自由』を軽視しているとの批判を招きかねず、事業者側が二の足を踏んでいることがある。国は、地名をさらす行為が差別となる根拠をしっかり示し、削除対象となることを周知していく必要がある」