盗撮の被害が後を絶たない。ネット上に無数にある「有料盗撮動画サイト」では、実際に盗撮された本物の動画が売り捌かれている。そんな鬼畜な盗撮犯たちの手口と素顔を追った。新しく施行された撮影罪によって、彼らは駆逐されるか。◆販売サイトは3年で10億!闇が深い日本の盗撮内情
「女子風呂隠し撮り」「JKパンチラ」–。刺激的な言葉が次々と目に飛び込んでくる。ネット上に氾濫する「盗撮動画販売サイト」の中身だ。単品販売のほか、4000~1万円の月額制もあり、安価に視聴できてしまう。
「トイレ、風呂、脱衣所などさまざまなジャンルが存在しており、マニアから人気を集めています。ヤラセ動画もありますが、こうした有料サイトでアップされているものには本物も多く交ざっていて、盗撮を取り巻く問題の本質はここにあります。一度アップされてしまうと、半永久的に残り続けてしまうのです」
こう語るのは竹輪次郎氏。報道番組で20年以上盗撮犯を追いかけているテレビディレクターだ。竹輪氏いわく、こうしたサイトは「とんでもなくカネのなる木」だという。
◆動画サイトの運営グループは摘発されないのか
「とある動画サイトを運営していたグループは、2年半で10億円を売り上げていました。沖縄に“作業場”を借り、盗撮犯から購入した映像を編集。こうして組織ぐるみで運営しているケースは多いです」
なかには「老舗」と言われるサイトもあるが、なぜ長年放置され続けているのか。
「サーバーを海外に置いているからです。国外に拠点がある組織を捜査するには、現地の警察に協力を依頼する必要があります。複数の国のサーバーを経由することもあるため、それぞれの国に捜査協力を依頼していたら、途方もない時間がかかります。実質、ほぼ摘発ができないのです」
◆「プロ盗撮師」たちはスマホではなく小型カメラを使う
そんな中、スマホのカメラ機能の向上により盗撮行為は年々増加。警察庁の発表によると、去年1年間の全国の検挙件数は約5700件に上り、過去最多を更新した。
しかし、動画をカネにする「プロ盗撮師」たちはペン型やUSB型などの小型カメラを使う。その状況に歯止めをかけるべく、今年7月13日より施行されたのが「撮影罪」だ。
「性的な姿を盗撮する行為のほか、その画像をインターネットなどで公開したり、保管したりすることが処罰の対象になります。撮影行為には最大3年の懲役または300万円以下の罰金が、画像の公開などの行為はさらに重い最大5年の懲役、または500万円以下の罰金が科されます」
解説してくれたのは、盗撮事例を数多く担当してきた弁護士の若林翔氏だ。
◆盗撮に対する処罰の軽さ
「かねてより、盗撮に対する処罰については『軽すぎる』という声が上がっていました。これまでは、『軽犯罪法違反』として摘発される事例もありましたが、その被害の大きさに見合っていませんでした」
また、各都道府県の迷惑防止条例で取り締まるケースが大半で、処罰対象の行為や罰則も自治体によってバラバラなため、すべての盗撮事例を摘発できるものではないという問題点もあった。
「近年、航空機内でキャビンアテンダントを盗撮する事例も増えており、早急な対応が必要でした。この法律ができたことにより、警察も本腰を入れるはず。大きな抑止力になるのでは」(若林氏)
だが、現状ある盗撮動画販売サイトの摘発にはまだ壁がある。「撮影罪」が新たな被害者を生まない壁となってくれればいいが……。
◆盗撮被害女性「私の動画は一生消えない」

「盗撮動画販売サイトに売られていたのは私が温浴施設に入っているときのものでした。しっかり顔も裸も認識できて、モザイクもかかっていません。全然身に覚えがないことだったから、知ったときには血の気が引きました」
このまま野放しにするわけにはいかない。勇気を振り絞り警察に対応を求めに行ったが、調書を取る際、追い打ちをかけるような出来事があったという。
「被害届を出す際、警察の人と一緒に該当の動画を確認しなきゃいけないんですが、最初担当についたのは男性。『さすがに無理です』となって、女性の方に変更してもらったんですけど、『面倒くさいな』と言わんばかりの顔をされたのが忘れられません」
◆被害届を出すことさえ勇気がいる
動画を確認する時間も、被害者にとってはストレスフルだ。
「『太ももの外側の位置にほくろがあるから私です』と、動画に映る人物が自分であることを証明するために、事細かに伝えなければいけないんです。動画が撮影された日を特定してほしいと言われましたが、そんなことわかりません。だから、被害届の作成にはすごく時間がかかる。流し見することなく、ところどころで一時停止して、じっくり自分の裸を警察の人と見なきゃいけません。かなりつらい工程でした」
被害届は受理されたものの、警察は犯人の特定すらできなかった。
「撮影罪が施行されるまでの、一連の報道で、そのサイトも閉鎖になりました。でも、長い時間販売され続けていたわけだから、動画のコピーを持っている人がいるわけじゃないですか。無料のサイトに転載されているかもしれません。『一件落着した』なんて、到底思えない。もし、職場の誰かが動画の存在を知っているかと思うと、心から笑って働くことができないです」
Sさんのように声を上げる人もいれば、盗撮されていたことがわかっていても声を上げられない被害者も当然、いる。どちらにしろ、待っているのは「耐え難い苦しみ」なのだ。
【テレビディレクター・竹輪次郎氏】民放キー局の報道番組で20年以上盗撮犯の実態を追い続けているテレビディレクター。地方の裁判や現場まで足を運び取材をしている
【弁護士・若林翔氏】グラディアトル法律事務所代表弁護士。ホスト、キャバクラなどの顧問を多く務める。YouTubeチャンネル「弁護士ばやし」も運営
取材・文/東田俊介 図版作成/ミューズグラフィック
―[[鬼畜な盗撮犯]たちの正体]―