親子三人が一網打尽にされてからひと月。猛暑列島の心胆を寒からしめた猟奇事件は、なおも全容解明に至っていない。精神科医の父と美術館学芸員だった母は、おぞましき「娘の暴走」を止められなかったのだ。
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【写真】瑠奈容疑者とも「女装姿」で会ったとされる被害者のセクシーショット 札幌・ススキノのラブホテルで男性(享年62)の首なし死体が見つかったのは7月2日だった。同月24日、北海道警は死体損壊と死体遺棄、そして死体領得容疑で田村瑠奈(29)と父親の修(59)を逮捕。翌日には母の浩子(60)も同容疑で逮捕されている。

「自宅からはのこぎり4本を含む刃物類が約20本押収されました。実行犯の瑠奈は男性の背後から首元を数回刺しており、肺近くまで達した傷が致命傷となりました。殺害後はのこぎりなど複数の凶器で首を切断したとみられ、捜査本部は使用した刃物の特定を進めています」(道警担当記者) さる14日には三人とも殺人容疑で再逮捕され、また母親の浩子容疑者が「娘の犯行を止めたかったが止められなかった」などと供述していたとも報じられた。田村瑠奈容疑者(小学校の卒業アルバムより)「これに対し両親の弁護士は『そのような事実はない』と否定。『被疑事実とされる殺人、死体遺棄のいずれも一切共謀していない』などとしています。が、捜査本部は父母がいずれも娘の犯意を認識し、これに従っていたとみています」(同)「半年ほど通ったあとに来なくなり…」 5月下旬、男性と瑠奈容疑者が初めて会った市内のダンスクラブには父も付き添っており、そこから異常な父子関係の一端がうかがえたのだが、母親もまた、娘を慮って動き回っていた。自宅で引きこもりながらも人形作りに傾倒していたという瑠奈容疑者は一時期、市内のカルチャースクールの「アクセサリー教室」に通っており、「田村さんは、6年前の4月から習いに来ていました」 とは、講師の女性。「私の講座では成形した銀粘土を窯で焼いてアクセサリーを作っており、初回の体験教室にお母さんが彼女を連れてきて『瑠奈を置いていきますのでお願いします』と言い残していきました。その後は月に1回2時間、熱心にリングやペンダントを作っていました。余った粘土で好きなものを作る作業では、人形につけるボタンを作ろうとして失敗し、私が『ちゃんと指導しなくてごめんね』と声をかけたら笑っていました」 教室で異変は感じられなかったものの、「半年ほど通った後に来なくなり、気になってご自宅に電話してみました。するとお母さんが出て『調子の悪い時もあるので、大丈夫ですから』と。今思えば、少しでも娘さんに世の中との接点を持ってもらおうと模索していたのかもしれません」「ゲミュートローゼ」 精神科医の片田珠美氏が言う。「瑠奈容疑者は『ゲミュートローゼ』、つまり他人の痛みや苦しみに共感できない情性欠如者だと思われます。その姿を精神科医の父親は早くから知っていたはずで、娘の中に巣くう怪物と闘ううち、かえってそれを成長させてしまい、自らも率先して犯行を手伝うことになったとも考えられます」 さらに続けて、「こうした父娘の傍にいた母親も自身の果たすべき役割に苦しみながら、もう自分は何もしてあげられないという無力感に苛まれ、凶行へと突き進む二人をただ見ているしかなかったのではないでしょうか」 一家の暗部は、とてつもなく深い。「週刊新潮」2023年8月31日号 掲載
札幌・ススキノのラブホテルで男性(享年62)の首なし死体が見つかったのは7月2日だった。同月24日、北海道警は死体損壊と死体遺棄、そして死体領得容疑で田村瑠奈(29)と父親の修(59)を逮捕。翌日には母の浩子(60)も同容疑で逮捕されている。
「自宅からはのこぎり4本を含む刃物類が約20本押収されました。実行犯の瑠奈は男性の背後から首元を数回刺しており、肺近くまで達した傷が致命傷となりました。殺害後はのこぎりなど複数の凶器で首を切断したとみられ、捜査本部は使用した刃物の特定を進めています」(道警担当記者)
さる14日には三人とも殺人容疑で再逮捕され、また母親の浩子容疑者が「娘の犯行を止めたかったが止められなかった」などと供述していたとも報じられた。
「これに対し両親の弁護士は『そのような事実はない』と否定。『被疑事実とされる殺人、死体遺棄のいずれも一切共謀していない』などとしています。が、捜査本部は父母がいずれも娘の犯意を認識し、これに従っていたとみています」(同)
5月下旬、男性と瑠奈容疑者が初めて会った市内のダンスクラブには父も付き添っており、そこから異常な父子関係の一端がうかがえたのだが、母親もまた、娘を慮って動き回っていた。自宅で引きこもりながらも人形作りに傾倒していたという瑠奈容疑者は一時期、市内のカルチャースクールの「アクセサリー教室」に通っており、
「田村さんは、6年前の4月から習いに来ていました」
とは、講師の女性。
「私の講座では成形した銀粘土を窯で焼いてアクセサリーを作っており、初回の体験教室にお母さんが彼女を連れてきて『瑠奈を置いていきますのでお願いします』と言い残していきました。その後は月に1回2時間、熱心にリングやペンダントを作っていました。余った粘土で好きなものを作る作業では、人形につけるボタンを作ろうとして失敗し、私が『ちゃんと指導しなくてごめんね』と声をかけたら笑っていました」
教室で異変は感じられなかったものの、
「半年ほど通った後に来なくなり、気になってご自宅に電話してみました。するとお母さんが出て『調子の悪い時もあるので、大丈夫ですから』と。今思えば、少しでも娘さんに世の中との接点を持ってもらおうと模索していたのかもしれません」
精神科医の片田珠美氏が言う。
「瑠奈容疑者は『ゲミュートローゼ』、つまり他人の痛みや苦しみに共感できない情性欠如者だと思われます。その姿を精神科医の父親は早くから知っていたはずで、娘の中に巣くう怪物と闘ううち、かえってそれを成長させてしまい、自らも率先して犯行を手伝うことになったとも考えられます」
さらに続けて、
「こうした父娘の傍にいた母親も自身の果たすべき役割に苦しみながら、もう自分は何もしてあげられないという無力感に苛まれ、凶行へと突き進む二人をただ見ているしかなかったのではないでしょうか」
一家の暗部は、とてつもなく深い。
「週刊新潮」2023年8月31日号 掲載