■「気持ちを分かってもらえた」
解体的な出直しをするため、経営トップを交代する必要がある――。
ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏による性加害問題について、「外部専門家による再発防止特別チーム」が29日に公表した調査報告書は、同事務所に抜本的な改革を迫るものだった。今後事務所は記者会見を開く意向を示しており、報告とどのように向き合うか、対応が注目される。
「ジャニーズ事務所は、トップの性加害を基本的に隠蔽(いんぺい)していた」。29日に東京都内で開かれた記者会見で、同チームの座長を務める前検事総長の林真琴弁護士は硬い表情で語った。
チームは、林座長、精神科医の飛鳥井望氏と臨床心理士の斎藤梓氏で構成。配布された調査報告書は67ページに及んだ。被害を訴える元所属タレントらに対する聞き取りは23人。網羅的な調査を実施せず、性加害を「概括的」に認定した。
報告書によると、喜多川氏は40年以上にわたり、特に思春期の少年に同意なき性行為を強要する性加害を繰り返した。同時期に多数の所属タレントが被害を受けていた。喜多川氏がタレントの「生殺与奪」の権を一手に握っており、事務所は性加害の事実を認識しながら放置したことなども長年にわたり被害を広げたという。
聞き取り調査では、数百人の被害者がいるという複数の証言があったほか、「断ったらチャンスがなくなると思っていた」「カッコ悪くて、恥ずかしくて、思春期の自分には到底言うことができませんでした」など切実な声も聞かれた。
さらに「うつ状態、あるいはうつ病になった」などの声もあり、性加害による深刻な影響が長期に及んだことも明らかになった。
また、報告書は、同事務所は従来、取締役会を開かず、喜多川氏の死後も性加害の調査を実施しないなど企業統治(ガバナンス)不全だったとも言及した。
林座長は記者会見で、「事務所が再出発しようとするならば、今までの性加害を認めて再発防止策を講じるだけでなく、同じく人権侵害が起こりやすい体質を抱えているエンターテインメント業界が一緒になって変わっていけるよう、その先頭に立ってほしいと期待している」と述べた。
踏み込んだ内容の調査報告書を受けて、喜多川氏からの被害を訴える「ジャニーズ性加害問題当事者の会」代表で、元同事務所所属タレントの平本淳也さん(57)は、「『まさに、その通りだ』との言葉が独り言として出てきた。僕たちの気持ちを少しでも分かってもらえた」と感想を述べた。
30年以上にわたり喜多川氏の性加害を指摘してきた平本さんは、同チームから聞き取りを受けており、「責任ある仕事をしてくれた。僕たちの話を真摯(しんし)に受け止めてくれており、僕たちのメッセージがしっかりと盛り込まれている」と評価を示した。
約8年間にわたってジャニーズ事務所の人気グループなどを応援しているという、東京都内の女子大学生(20)は、「ジャニーさんが亡くなり、性加害自体は止まったかもしれない。でも、若いタレントの管理体制はずさんなままだったと思うので、今回、その点を指摘してもらえて良かった」と話した。
■「頑張れ」は甘い 解散など必要に
影山貴彦・同志社女子大教授(メディア研究)
「優良可でギリギリの『可』。喜多川氏の性加害を認定したことは評価できるが、『これからもジャニーズ事務所、頑張れ』という結論は甘い。長年、性加害を隠蔽、黙認してきた組織全体の罪は大きい。事務所の屋号を変える、解散するといったことまでしないと済まないレベルにある」
■人権尊重される 業界への第一歩
ハラスメント問題に取り組む小野山静弁護士
「喜多川氏個人の問題とするのではなく、事務所による放置や隠蔽が被害拡大を招いた点、強者・弱者という一方的な権力構造が被害の潜在化を招いた点にも言及していた。被害者の救済制度にもふれ、人権が尊重される業界に変えていくための第一歩になる報告書として評価できる」