「終の住処」にと、45歳で6000万円のマンションを購入したバツイチ女性は、いつまで働かなければならないのでしょうか。FP深野康彦さんによると、「このままだと、78歳で金融資産はゼロになってしまう」と言います。
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お一人さまの老後を見据えてマイホームの購入に踏み切る相談を良く受けます。今回はフリーランスで働いているバツイチの女性がやや背伸びした価格のマンションを購入してしまったのではないかと思い、老後は大丈夫かと心配になり相談に来られた佐藤さん(仮)のケースをご紹介しましょう。
佐藤さん、やや背伸びして6000万円のマンションを購入したため、住宅ローンの返済等が家計を圧迫している状況です。しかしながら、頑張って働いてきたものの、フリーランスで週6日の稼働に疲れてしまいあと何年働き続ければよいのかご相談にみえました。同時に今後どのくらい貯蓄を上乗せすれば老後が安心できるのかも教えて欲しいというのが佐藤さんの希望でした。ただ、公的年金の受給額など一部の金額に不明な点があることから、佐藤さんには推測を交えた家計収支の試算を行ったうえで回答を行いました。
まずは佐藤さんの家計収支を試算してみました。佐藤さんの世帯収入は年によって異なり額面で850万円から950万円と述べていたので、平均値の900万円を世帯収入として手取額は750万円としました。月間の支出も50万円~65万円と言っていたことから平均値の57万5000円、年間690万円としています。年間690万円の他に米ドル建て年金保険に100万円程度、旅行費用は1回当たり25万円で年2回の50万円。合計すると年間支出は840万円になります。年間収入750万円、年間支出が840万円ですから年間の赤字額は90万円になります。
「年間収支は赤字です」とおっしゃっていたので年間90万円の赤字でも不思議ではありませんが、保有する金融資産などから赤字額を補填(取り崩し)しているとは述べていませんでした。相談にこられた時点では、佐藤さんの住宅ローンの支払いが始まったばかりなので、金融資産からの取り崩しも行われていないと思われたため、試算による年間の赤字額90万円は多い気がしないでもありません。ただ、試算を甘めにするのは禁物であるこことから年間の赤字額は試算通りに90万円としました。
佐藤さんの金融資産は株式など2750万円、養老保険250万円、iDeCo105万円の合計3105万円を保有しています。保有する株式は娘さんのジュニアNISA、養老保険は娘さん名義と述べていたことから、娘さんのために使用するお金と考えられますが、収支の試算では娘さんの名義の金融資産を控除せずに続けました。ただし、娘さんの成人式の費用、車の運転免許の費用など可能な限り支援してあげたいと述べていたため、その費用を200万円として差し引いて金融資産は2905万円としました。
支出を見直さなければ毎年90万円が金融資産から取り崩されるため、今の仕事を働けるまで継続しても約32年強、Xさんが78歳になる前に金融資産が底を尽くことになります。
iDeCoや米ドル建ての年金保険を考慮すれば金融資産が底を尽く期間を数年間延長できると思われるものの、年間90万円もの赤字額は看過できません。佐藤さん、相談時には「後何年働き続ければよいのでしょうか?」とおっしゃっていたのですが、たとえば60歳で仕事を辞めてしまえば金融資産が底を尽く年齢はさらに早くなることでしょう。
老後に備えて米ドル建ての年金保険に加入されていますが、その年金額を考慮しても人生100年時代に備えるにはかなり厳しいと言わざるをえません。このため1日でも早く家計支出の見直しを行うべきですが、公的年金を受給できる65歳まで働くとして試算を続けることにしました。
佐藤さんが支出項目の内訳は事細かに覚えていないことから、支出総額を減額して試算するため、実際にはどの項目をいくら減額するのかは佐藤さん自身に決めていただくことにしました。試算では赤字額を年間90万円としましたが、赤字額を無くして年間収支はトントンに改善したとします。家計収支はトントンで佐藤さんが60歳まで働いたとしましょう。
支出にはiDeCoが月2万3000円、年間27万6000円と述べていたことから、佐藤さんが65歳まで働いた場合、現在佐藤さんは45歳ですから15年間の拠出ができます。27万6000円×20年間で552万円が金融資産額にプラスされます。娘さんに支援する金額を差し引いた金融資産額は2905万円ですから、iDeCoのプラス分を加えると3457万円になります。株価の行方は分かりませんので、試算は厳しめにして株価は変わらないとすれば佐藤さんが60歳時点での金融資産額は変わらず3457万円になります。
65歳で佐藤さんが仕事を辞めた場合の収入は、公的年金月11万円、年間132万円に米ドル建ての年金保険が月約12万円、年間144万円の合計276万円が額面金額になるため、手取額は250万円とします。
毎月の支出はどれだけ減額できるか定かではありませんでしたが、家計収支を試算するため統計データを活用しました。高齢無職世帯の単身世帯の毎月の支出の平均額は健康保険料等を除くと約12万6500円です。このうち約1万3000円が住居費なので差し引くと11万3500円になります。ただ、佐藤さんは現在の収入が多い分支出が多いため平均値まで支出を減額するのはかなり厳しいと筆者の経験則からは判断されます。このため65歳以降の支出を月15万円、年間180万円とします。
佐藤さんは住宅ローンが79歳まで継続するので、住居費は住宅ローン12万円、修繕積立金・管理費3万8000円の合計15万8000円、年間189万6000円でした。年間の支出180万円、住居費189万6000円を合計すると369万6000円になります。年間収入250万円、年間の支出369万6000円なので年間の赤字額は119万6000円になります。住宅ローンの完済年齢が79歳なので、119万6000円の赤字は15年間続くことになります。119万6000円×15年間=1794万円、この金額が65歳時点での金融資産額が3457万円から取り崩されることになります。79歳時点での金融資産額は3457万円から1794万円を取り崩すと1663万円になります。
続けて佐藤さんの80歳以降の家計収支の試算を行います。米ドル建ての年金保険は20年間支払われることから84歳までの5年間をまず試算します。年間収入は250万円と変わらないものの、住居費が住宅ローンの返済が終了しているので月12万円、年間144万円の支出が減額となります。65歳以降の年間支出369万6000円から144万円を差し引くと225万6000円になります。年間収入250万円、年間支出225万6000円ですから年間24万4000円の黒字になります。
84歳までの5年間では122万円の黒字額になるため貯蓄に回すとしましょう。79歳時点の金融資産額1663万円に122万円を加えると84歳時点の金融資産額は1785万円になります。85歳以降は米ドル建て年金保険の収入120万円が無くなるため公的年金のみの年間132万円になります。手取額を120万円に対して年間支出は225万6000円なので、年間赤字額は105万6000円になります。84歳時点の金融資産額1785万円から取り崩すと16年90ヵ月となるので人生100年時代に概ね対応できるので一応安心といえるのではないでしょうか。
佐藤さんには「後何年働けばよろしいでしょうか?」と相談されましたが、多額の住宅ローンを45歳時点で組まれたことから、住宅ローンが79歳まで残る以上、残念ながら仕事を公的年金の受給が始まる65歳までに減らしてしまうのは非現実的と言わざるを得ません。
試算では65歳までの家計収支をトントンとして貯蓄はできないものとしましたが、言い換えれば家計収支をトントンで行けば良いのですから支出を大幅に減額することができれば、仕事は65歳まで続ける必要があるものの家計収支トントンを維持できる水準まで仕事を減らすことはできるでしょう。
あるいはもっと早い(若い)時点で仕事を辞めたいのであれば、1日でも早く貯金ができるように家計を改善して年間100万円以上の貯蓄ができるようになった時に再び相談をくださいと佐藤さんにお伝えしました。相談時に1つ気になったのが佐藤さんは現預金をほとんど保有していないことです。株式などをやむを得ず売却しなければならないことを避けるために毎月の生活費の3ヵ月~6ヵ月程度の現預金を保有されるようにされるとよいはずということも付け加えました。