「国交省OBによる『空港施設』社の人事介入の報道を見て、″あの事件″を思い出した。空港関連企業に高級官僚が天下りしたいのは、それだけオイシイ利権が空港に転がっているからではないか」
こう打ち明けるのは、コンサル会社を経営する男性A氏である。
国土交通省の元事務次官(当時、東京メトロ会長)が民間企業「空港施設」に対して、当時の副社長(国交省OBで元航空局長)を社長に昇格させるよう圧力をかけた問題を、朝日新聞が報じたのは今年3月のこと。この問題で元次官は6月27日に東京メトロ会長を退任。同問題に関連して、現職の航空局長が戒告処分を受け、7月4日付で辞職した。
空港施設は、空港内における不動産賃貸や施設管理などを行う企業だ。A氏が言う″あの事件″とは――。
「空港の関連事業を担う会社は、空港施設の他にもう一つ、日本空港ビルデング(以下・JAT)という企業があります。私はJAT社を舞台にした出資金詐欺に遭(あ)ったのです」(A氏)
JATは羽田空港の旅客ターミナルビル等の建設・管理運営、空港内での事務室や店舗等の賃貸などを行っている。国内線や国際線の売店や免税店の運営も担い、成田国際空港や関西国際空港などでも物品販売を行っている。同社の現在の役員には、国交省OBで航空局長経験者の名もある。
同社を巡ってA氏に怪しげな話が持ち込まれたのは’15年頃のことだ。
「当時、知人の投資家を通じてミシュラン一つ星の蕎麦屋を空港内で経営していたX氏と出会いました。彼は雑誌でもグルメに関するコラムを書くなど飲食業界に精通した人物で、『JATから羽田空港の飲食店や土産店のコンサルを請け負っている』と私に説明しました。そのX氏が、『JATが(羽田空港)第2ターミナル2階の飲食店入れ替えを内々で計画している。私は出店権利を持っているので、1店舗2000万円で店を出すことができる』と持ち掛けてきたのです」
筆者の手元にはA氏から提供された名刺のコピーがある。X氏から羽田空港の喫茶店で紹介されたというJAT幹部のもので、肩書には〈常務取締役 執行役員〉と記されている。
「店舗の入れ替え計画は極秘案件のため、『常務とは具体的な話をしないように』とX氏から釘を刺されていたので、その日は挨拶程度で終わりました。当時、X氏からは空港にまつわる″利権話″をいろいろと聞きました。例えば、JATがハワイの町で密かに土産物店の出店計画を進めていることや、空港の待合スペースに置いてあるコインマッサージ機は″政治案件″と言われて、自民党大物議員の息子の会社が事実上仕切っていることなどです。第2ターミナルに昔、韓国料理屋が出店していたそうで、そこの韓国人女性店主が、数店舗分の出店権を持っていることや、女性店主がJATの幹部たちを赤坂の韓国クラブでよく接待しているという暴露話もしていましたね」(A氏)
JATの常務を紹介され、すっかりX氏を信用したA氏は、知人の飲食店経営者と共同で2000万円を出資した。FRIDAYが入手したX氏との「経営委任契約書」の中身を見ると、確かに〈東京国際空港内の店舗における料理店の経営の委託〉などと書かれており、開業準備として2000万円を負担することが明記されていた。ところが――。
「話が一切進まないんです。私が把握しているだけでもX氏は3人から合計で6000万円を集めていました。そのうち出資者たちがX氏に騙されたのではと騒ぎになり、弁護士を入れて話し合いがもたれた。これを受けてX氏は集めた金の一部を返金したものの、私には一銭も戻ってこず、そのうちX氏と連絡がつかなくなってしまった。私が許せないのは、常務が、X氏の企てを知っていながら、私と会ったのではないかという点です」
JATはFRIDAYの取材に、件の常務が在籍していたことは認めたが、X氏とコンサル契約を結んだ事実はないとし、自民党議員や息子の会社との取引の有無については「個別の取引関係に関するご質問については、ご回答いたしかねます」と答えた。
官僚からブローカーまで群がる空港には、まだまだ深い闇が広がっているに違いない。
『FRIDAY』2023年8月4日号より
取材・文:甚野博則(ノンフィクションライター)