自動車保険の保険金不正請求問題に揺れる中古車販売大手「ビッグモーター」だが、本筋とは別に街路樹問題が拡大している。全国にある店舗周辺の街路樹に「除草剤をまかれて枯れている」とのSNS投稿を受けて各自治体が調査を開始。このままでは全国で訴訟を抱える可能性も出てきたが、規模が拡大すれば各自治体による集団訴訟に発展する可能性もあるという。
25日に行ったビッグモーターの謝罪会見で、除草剤によって店舗周辺の街路樹が枯れたのではないかと問われた際、和泉伸二専務(現社長)は「かれこれ10年くらい前の話だと思うが、現時点でそういった指導はしていない」と説明していた。
しかし、今年6月に撮影された福島・郡山店周辺のストリートビューに除草剤が写っていたことなどが発覚しており、今も除草剤を使用しているのではないかという疑惑はなくならなかった。
さらにはここ数年で店舗前の街路樹が消えたという指摘も相次いで、問題は一気に拡大。小池百合子東京都知事が調査を指示するなど、国や各都道府県が独自に調べ出したのだ。
会見での説明と食い違う状況が生じているが、もし、街路樹に関する疑惑が事実だった場合、どのような罪に問われるのか? 弁護士法人・響の古藤由佳弁護士はこう解説する。
「故意に除草剤で街路樹を枯らしたり無断撤去したりしたら刑法上の器物損壊罪に当たり、3年以下の懲役、または30万円以下の罰金、もしくは過料となる。ポイントは故意であったと認定されるかどうか」
一部でビッグモーターが街路樹を撤去することで店舗の視認性を確保し、販売促進につなげる意図があったと指摘する声が上がっているが、実際に元従業員らが社の環境整備の方針で街路樹を引き抜いた、といった証言まで飛び出している。それだけに今後、裁判となれば続々と証言者が出てくることが予想される。
一方、ビッグモーターは民事上の責任も負うことになるかもしれない。すでに北海道・札幌市は民事上の損害賠償請求をする考えを表明しているが、古藤弁護士は「民事で損害賠償請求された場合、単に街路樹を原状回復するだけでなく、除草剤の影響で土壌の入れ替えが必要になれば、想定より高額請求になるかもしれない」とした。
街路樹1本1本のコストもさることながら、原状回復には多くの作業員を要するだけに、単に街路樹1本1本の金額を払って許されるわけではないのだ。
さらにこうした損害賠償請求が各地で相次いだ場合、ビッグモーターにとってはより大ごとになる可能性もある。
「同様の損害賠償請求が各地で立て続けに起こると、各自治体が集団訴訟に切り替える可能性は否定できません。各自治体が個別に訴訟をするより裁判費用を抑えることが可能で、規模が大きくなるほど集団訴訟のメリットも大きくなる」(同)
全国のビッグモーター所在地は、同じ都道府県の中でも国道に面していたり県道に面していたりとさまざまで、それぞれ原告が異なってくる。それならば各自治体がまとまって原告団を結成し、損害賠償を求めた方が効率的といえる。
とはいえ、ストリートビューに除草剤が写っていた、ここ2~3年のビフォーアフターで街路樹が消えていた、などという状況証拠だけなら、ビッグモーターにも反証の余地が十分にある。今後、警察の捜査や各自治体の調査で決定的な証拠が出てくるのか、もしくは信用できる内部告発者が現れるのか。保険金不正請求問題と同様、こちらも注目を集めることになりそうだ。