保険金の不正請求問題で、7月25日に会社幹部が記者会見を開いたビッグモーター。会見では、26日付で、創業者・兼重宏行氏が社長を退任することが発表された。 兼重元社長が退任したその日、長野県軽井沢のとある別荘地に、資材を積んだ一台の大型トラックの姿があった。2100平米あまりの広大な敷地にはすでに大きな邸宅が建っている。いまその横に、もう一棟の別荘が建造中なのだ。

「この土地は、兼重元社長の資産管理会社『ビッグアセット社』の持ち物です。つまり、兼重元社長の別荘ということです。近隣にはトヨタ自動車の元社長・豊田章男氏の別荘もある、超一等地。 兼重元社長は、2020年、都内の超高級住宅地に自宅を建てました。地上2階、地下1階建てで、噴水や茶室もあります。もともとソニー創業者・盛田昭夫氏の自宅があった場所ですが、土地と建物で、最低でも約60億円はあると見られます。もちろん、この土地もビッグアセット社の持ち物です。 ビッグアセット社は、このほかにも全国に広大な土地を持っています。登記簿によれば、同社の役員は兼重元社長と長男・宏行氏だけ。つまり、親子で莫大な資産を握っているのです」(経済担当記者) 兼重元社長は、会見で「天地神明に誓って不正を知らなかった」としたうえで、社長辞任を発表。「私も息子の宏一も、今後、経営に関与することは一切ない」と明言した。 だが、ビッグアセット社は、土地だけでなく、ビッグモーターの株を100%持っている。兼重元社長は、この体制について見直ししないのか問われ、「急にこういう事態になったのでまだそこまでは考えていない。今後それが問題であれば改善していきたい」と述べた。おそらく、「しばらくは株は売らない」という意思表示だろう。 会見での発言を受け、SNSでは「この退任に意味はあるのか」という疑問の声が相次いでいる。会社法などに詳しい瀧井総合法律事務所の瀧井喜博弁護士が、「元社長が株を売らないとすれば」――と条件つきでこう指摘する。「兼重元社長が、ビッグアセットを通じてビッグモーターを支配するという意味で、“院政” を敷くことが可能です。取締役は株主総会で選任されるので、元社長は資産管理会社の代表者という立場で、ビッグモーターの役員人事権を完全に握ることができます。 結果的に、ビッグモーターの経営は実質的に元社長がおこなうに等しい状況は、今後、起こりえる話です。 また、通常、役員の不法行為によって会社が損害を受けたときで、会社が役員に対して損害賠償請求を行わないときは、株主が『株主代表訴訟』という形で、会社に代わって役員に損害を賠償するよう求めることもできます。 しかし、ビッグモーターの場合、100%の株を親子で握っているわけですから、そうした可能性もありません。1株でも社外の人間が株を持っていたら、それだけで莫大な訴訟を起こされたかもしれませんが……」 株主から訴訟を起こされる心配もなく、兼重元社長が今後も経営に関与することは十分可能だというのだ。とはいえ、数々の不正や疑惑が噴出しているいま、経営が厳しくなることは容易に想像できる。 しかし瀧井弁護士は「最悪、倒産した場合でも、元社長が資金的に窮することはないでしょう」と話す。「仮にビッグモーターが倒産すると、会社はなくなり、株の価値もゼロになります。とはいえ、株式会社は『有限責任』という前提があるので、出資したお金は消えてしまいますが、それ以外の責任を負う必要はありません。 ビッグモーターに対して保険会社や顧客が損害賠償請求したとしても、あるいは倒産したとしても、ビッグアセットはその損害や負債を負担する必要がないのです」 資産管理会社が保有する財産――つまり、大豪邸も広大な別荘も兼重親子のもとに残り続けるわけだ。ただし、瀧井弁護士はひとつだけ “例外” をあげる。「今回の事件について、元社長をはじめとした役員が不正を指示したり、不正を黙認したりといった事情がある場合、話が異なります。 その場合、役員が適正な会社経営の任務を怠ったとして、会社法429条1項により、保険会社や顧客といった被害者に対し、損害賠償責任を負う可能性があります。仮に損害賠償請求が認められれば、元社長は個人としてお金を払わなければなりません」 だとすると、兼重元社長が「天地神明に誓って知らなかった」「報告書を見て愕然とした」「組織的ということはない」と自分たちは不正を知らなかったと強く主張したのも、損害賠償を避けたい意向が働いた可能性は高い。 本誌はビッグモーターに、兼重元社長が “院政” を敷くのか、持ち株比率を変更する予定があるかなどについて質問状を送付したが、期日までに回答はなかった。 兼重元社長は、今後も60億円豪邸に住み、軽井沢の別荘で避暑を楽しむことができるのだろうか――。
保険金の不正請求問題で、7月25日に会社幹部が記者会見を開いたビッグモーター。会見では、26日付で、創業者・兼重宏行氏が社長を退任することが発表された。
兼重元社長が退任したその日、長野県軽井沢のとある別荘地に、資材を積んだ一台の大型トラックの姿があった。2100平米あまりの広大な敷地にはすでに大きな邸宅が建っている。いまその横に、もう一棟の別荘が建造中なのだ。
「この土地は、兼重元社長の資産管理会社『ビッグアセット社』の持ち物です。つまり、兼重元社長の別荘ということです。近隣にはトヨタ自動車の元社長・豊田章男氏の別荘もある、超一等地。
兼重元社長は、2020年、都内の超高級住宅地に自宅を建てました。地上2階、地下1階建てで、噴水や茶室もあります。もともとソニー創業者・盛田昭夫氏の自宅があった場所ですが、土地と建物で、最低でも約60億円はあると見られます。もちろん、この土地もビッグアセット社の持ち物です。
ビッグアセット社は、このほかにも全国に広大な土地を持っています。登記簿によれば、同社の役員は兼重元社長と長男・宏行氏だけ。つまり、親子で莫大な資産を握っているのです」(経済担当記者)
兼重元社長は、会見で「天地神明に誓って不正を知らなかった」としたうえで、社長辞任を発表。「私も息子の宏一も、今後、経営に関与することは一切ない」と明言した。
だが、ビッグアセット社は、土地だけでなく、ビッグモーターの株を100%持っている。兼重元社長は、この体制について見直ししないのか問われ、「急にこういう事態になったのでまだそこまでは考えていない。今後それが問題であれば改善していきたい」と述べた。おそらく、「しばらくは株は売らない」という意思表示だろう。
会見での発言を受け、SNSでは「この退任に意味はあるのか」という疑問の声が相次いでいる。会社法などに詳しい瀧井総合法律事務所の瀧井喜博弁護士が、「元社長が株を売らないとすれば」――と条件つきでこう指摘する。
「兼重元社長が、ビッグアセットを通じてビッグモーターを支配するという意味で、“院政” を敷くことが可能です。取締役は株主総会で選任されるので、元社長は資産管理会社の代表者という立場で、ビッグモーターの役員人事権を完全に握ることができます。
結果的に、ビッグモーターの経営は実質的に元社長がおこなうに等しい状況は、今後、起こりえる話です。
また、通常、役員の不法行為によって会社が損害を受けたときで、会社が役員に対して損害賠償請求を行わないときは、株主が『株主代表訴訟』という形で、会社に代わって役員に損害を賠償するよう求めることもできます。
しかし、ビッグモーターの場合、100%の株を親子で握っているわけですから、そうした可能性もありません。1株でも社外の人間が株を持っていたら、それだけで莫大な訴訟を起こされたかもしれませんが……」
株主から訴訟を起こされる心配もなく、兼重元社長が今後も経営に関与することは十分可能だというのだ。とはいえ、数々の不正や疑惑が噴出しているいま、経営が厳しくなることは容易に想像できる。
しかし瀧井弁護士は「最悪、倒産した場合でも、元社長が資金的に窮することはないでしょう」と話す。
「仮にビッグモーターが倒産すると、会社はなくなり、株の価値もゼロになります。とはいえ、株式会社は『有限責任』という前提があるので、出資したお金は消えてしまいますが、それ以外の責任を負う必要はありません。
ビッグモーターに対して保険会社や顧客が損害賠償請求したとしても、あるいは倒産したとしても、ビッグアセットはその損害や負債を負担する必要がないのです」
資産管理会社が保有する財産――つまり、大豪邸も広大な別荘も兼重親子のもとに残り続けるわけだ。ただし、瀧井弁護士はひとつだけ “例外” をあげる。
「今回の事件について、元社長をはじめとした役員が不正を指示したり、不正を黙認したりといった事情がある場合、話が異なります。
その場合、役員が適正な会社経営の任務を怠ったとして、会社法429条1項により、保険会社や顧客といった被害者に対し、損害賠償責任を負う可能性があります。仮に損害賠償請求が認められれば、元社長は個人としてお金を払わなければなりません」
だとすると、兼重元社長が「天地神明に誓って知らなかった」「報告書を見て愕然とした」「組織的ということはない」と自分たちは不正を知らなかったと強く主張したのも、損害賠償を避けたい意向が働いた可能性は高い。
本誌はビッグモーターに、兼重元社長が “院政” を敷くのか、持ち株比率を変更する予定があるかなどについて質問状を送付したが、期日までに回答はなかった。
兼重元社長は、今後も60億円豪邸に住み、軽井沢の別荘で避暑を楽しむことができるのだろうか――。