ともに全国に根を張り、自民党の支持団体として政治力を備える「郵便局」と「農協」。不合理な組織体ゆえ、何度も改革のメスを入れられながらも、しぶとく生き残ってきた。彼らが頑なに組織防衛を図るのはなぜなのか。日本郵政の問題に深く切り込んできた朝日新聞経済部記者の藤田知也氏、農業ジャーナリストとして農協の闇を追及してきた窪田新之助氏が語り尽くす。
窪田 藤田さんの新刊『郵便局の裏組織 「全特」-権力と支配構造』(光文社)を読みました。政治と密接にからみ、自らの利権を温存しようとする郵便局長会という闇の組織が、郵政民営化後もしぶとく生き残っているという見えざる実態に迫った作品で、実に読み応えがありました。
藤田 私は’19年から日本郵政グループの取材を始めたのですが、当時はかんぽ生命の不祥事報道が相次いでいました。それを皮切りに郵政グループの「腐敗」の構造に迫りたかったのですが、最もつかみどころがなかったのが、日本郵便の郵便局長で組織される「全国郵便局長会」(全特)です。
法人格もなく、誰からの監督も受けないこの組織は、全国で数十万票という安定的な票田を持つ日本最強の集票マシンのひとつで、政治に大きな影響力を持っています。
会員である全国の郵便局長には「集票ノルマ」が課され、郵便事業のための販促カレンダーや顧客情報まで活用して選挙活動を活発に行ってきた。見えてきたのは、全特が郵便事業を私物化しているような実態でした。
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窪田 日本郵便は国が大株主である日本郵政の100%子会社なのに、その資金が政治活動に使われているようなものですね。しかし、全国の郵便局長が全特の指示で選挙活動する旨みとは、どのようなものでしょうか。
藤田 彼らは民営化以前には「特定郵便局長」と呼ばれていました。かつてはコンビニのフランチャイズを担うオーナーのような存在で、自前で局舎を保有して郵便窓口を営みながら、国から高い賃料も得ていた。子や孫にもその地位を継承させ、既得権益に浸かって生活してきたのがルーツです。この利権を守るために、約2万人の局長が力を結集し、積極的な選挙活動を続けてきました。
窪田 表向きは全国の郵便制度を維持するという大義名分のもとに政治活動を行い、既得権益を維持してきた、と。
藤田 ただし、民営化以降、老朽化する郵便局を維持するのは大変になっていますし、賃料の儲けも少なくなりました。子や孫は後継者になりたがらず、いまではかつてのような旨みはなくなっています。それでも彼らは、郵便局の数を維持することにこだわり、政治への影響力の源泉である集票力を保とうとしています。
窪田 なるほど、選挙活動が自己目的化してしまったわけですね。
藤田 私は農協の組織にも関心があったので窪田さんの『農協の闇』(講談社現代新書)を興味深く読みました。農協のほうは郵便局と違い、組合数がどんどん減っています。
窪田 農協の准組合員も含めた組合員はピークで1051万人でした。農業に従事する正組合員が減る中、農協のサービスを利用する地域住民などの准組合員を増やしてきたので、直近でも組合員の総数は1036万人とあまり減ってはいません。しかし、組合の数は’50年代の1万3000から、’23年4月には537まで、実に20分の1以上に減りました。農協の最大組織のJAグループは、その中央組織「全中」の方針で、合理化のために合併を選んだのです。
藤田 農協も郵便局もかつては役所とならんで地域の代表的な就職先で、地域経済の要でした。郵便局長会の幹部からは、「農協も去ってしまったいま、私たちが地方の最後の砦」という発言をよく聞きます。
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窪田 正組合員の高齢化や後継者不足などの問題から、農協の農業関連事業、いわゆる経済事業は儲からなくなった。その穴埋めのために拡大したのが金融事業で、とりわけJA共済の販売です。地域の各農協はJAの共済(保険)を売ることで多額の手数料が入ってくる。これが収入の大半を占めるようになったため、農協は共済契約の拡大に邁進するしかなくなっているのです。
藤田 そのため、かつてのかんぽ生命の不祥事と同じように、不正な契約が横行しているのですね。
窪田 その通りです。JA職員は過重なノルマに喘いでおり、そのために自身や身内が保険の加入と解約を繰り返す自爆営業が蔓延しています。
私はJA共済の過重ノルマ問題に行き着いた時、かんぽ生命の不正契約問題について藤田さんが書いた『郵政腐敗』(光文社新書)を読み、大変参考になりました。
なぜ郵政は不祥事が相次ぐのか、なぜ農協は問題を隠蔽しようとするのかーー。その核心について二人がさらに斬り込む後編『絶句しかない…血税で延命しているだけの「郵便局と農協」、負担を強いられるのは国民だ」に続く。
ふじた・ともや/朝日新聞記者。’00年に朝日新聞社に入社し、盛岡支局や『週刊朝日』記者を経て、現在は経済部に所属。著書に『やってはいけない不動産投資』など。情報提供は以下のアドレスまで。[email protected]くぼた・しんのすけ/ジャーナリスト。’04年、日本農業新聞に入社し、’12年からフリーランスに。著書に『人口減少時代の農業と食』(山口亮子氏との共著)など。情報提供は以下のアドレスまで。[email protected]