母親・喜熨斗(きのし)延子さん(75)の自殺を手助けした自殺ほう助容疑で逮捕された歌舞伎俳優・市川猿之助(本名・喜熨斗孝彦)容疑者(47)の今後の捜査や、再逮捕の可能性、量刑ついて、元大阪地検検事・亀井正貴弁護士と元東京地検検事・田中喜代重弁護士が見解を示した。亀井氏は、今回の逮捕容疑に入らなかった父親の市川段四郎(本名・喜熨斗弘之)さん(76)に関して「単純殺人容疑となる可能性もある」と述べた。
《1》なぜ、事件から1か月以上たったこの日、逮捕に至ったのか? 田中氏は「今回のような世間の耳目が集まる特殊事件の場合、検察は、送致されたら起訴するという確信がないと、警察に逮捕のGOサインを出さない。今回は少なくとも自殺ほう助について、検察が起訴する方向性が定まるだけの証拠が集まったということなのでは」と捜査の進展を理由に挙げる。
亀井氏は「本来は母親と父親への容疑を合わせて解明しておく必要があったが、父親の部分は現段階では解明できなかったのだろう」と指摘。先に証拠がそろってきた母親への自殺ほう助容疑で「まずは逮捕した」と予測した。
《2》父親の死亡に関する再逮捕の可能性は? 両弁護士とも「可能性は高い」と話す。単純殺人、同意殺人(嘱託、承諾)、自殺関与と、人の命が関わる罪には種類があるが、今回問われた自殺ほう助罪は一番軽い。亀井氏は「お父さんの場合はそれ以上になる可能性が高い。単純殺人の可能性もある」と指摘する。
亀井氏が捜査の一番のポイントにあげるのは「父親の病状」だ。「身体的な行動能力と判断能力とがほぼゼロに近いのか、なんらかの意思表示はできる状況なのか。自殺の意思を示す能力があったかどうかで罪が変わってくる。どれだけの供述、物証を集められるかだが、被害者は死亡しているので、結局は被告人だけが供述できる。その供述をつぶせるような物的証拠があれば、殺人で起訴するかどうかの判断が下されるでしょう」
一方、母親への容疑が今後、より重い罪へ変わる可能性は低いという。田中氏は「検察がGOサインを出したということは、証拠がガチガチに固まっていて他の余地がないということだろう」とし、父親についても「嘱託殺人などになる可能性はなくはないが、よほどの物的証拠が出てこない限り容疑者の弁解を覆すことは難しく、自殺ほう助となる可能性が高いのでは。単純な殺人罪に至るには特に立証が難しい」と見る。
《3》量刑の見立ては? 両親ともに自殺ほう助罪となった場合、「容疑者が死ぬつもりがあったか、自分だけ助かるつもりだったか」(田中氏)、「動機が週刊誌報道だけなのか、介護も関わっていたのか」(亀井氏)など争点はあるが、情状の余地があれば「執行猶予の可能性がある」と両氏。一方、父親への単純殺人となった場合は「実刑で7、8年くらい」と亀井氏は予想する。「一般的な殺人の事案は12~15年。今回は家庭内。動機が介護の場合なら典型的で、本人にとっても幸せではない状況で殺害に至るので、一般的な殺人の半分くらいの刑になるのでは」と語った。
◆人の命が関わる罪
▼単純殺人(殺人罪) 他人の意思に反して殺害する。
▼同意殺人 嘱託殺人と承諾殺人に分けられる。承諾は加害者から被害者に殺害を申し込み、その同意を得た場合。嘱託は被害者から加害者に自身を殺害するよう依頼した場合。
▼自殺ほう助 すでに自殺を決意している人に自殺行為の援助をすること。未遂犯も処罰される。
◆厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口
▼いのちの電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)、0120・783・556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570・064・556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120・279・338(24時間対応)