「母親が下着を買ってくれず、ずっと子ども用」「婚前交渉禁止だった」元AV女優が語る、“機能不全家庭”で育った苦悩 から続く
文筆家・映画監督として活躍する、元AV女優の戸田真琴さん。新興宗教を信仰する母親の元に生まれ、機能不全家族のなかで育った過去を持つ。そんな彼女が、自身の生い立ちやAVデビュー・引退の経緯などを描いた私小説『そっちにいかないで』(太田出版)を5月27日に刊行した。
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新興宗教家庭に生まれた戸田さんは、幼い頃から様々な“生きづらさ”を抱えて過ごしていたという。いったい何が、彼女の“生きづらさ”を生み出してしまったのか。貧困問題や機能不全家族などを取材するライターの吉川ばんび氏が、詳しく話を聞いた。(全3回の2回目/3回目に続く)
文筆家・映画監督として活躍する戸田真琴さん 杉山拓也/文藝春秋
◆◆◆
――戸田さんは、新興宗教家庭で育ったことを公表されています。いわゆる「宗教2世」ということでしょうか。
戸田真琴さん(以下、戸田) 母親が熱心な宗教2世で、私は実は3世なんです。うちの問題って、おそらく宗教2世的な問題と、母親と父親自身の人間性の問題とが混ざってキツくなっていたのが実態だと思うので、純粋な「宗教2世問題」かというと違うのかもしれないんですけど。
例えば私の家は「婚前交渉禁止」だったんですが、それは宗教的な要因というより、母親の価値観的な部分、今思うと母親には強いミサンドリー(男性への嫌悪)があったと思うんですが、そこからくるもので。
小さい頃は同じ宗教の子としか遊ぶことを許されず――複合的な要因があるということですよね。戸田 はい。そもそもは祖父母が宗教に入っていて、その影響で母親がかなり熱心な信者になりまして。父親は「母親と結婚したいから宗教を受け入れた」という形だったので、彼自身はそこまで熱心な信者というわけではないんですけど。 でも母親の宗教に対しての熱みたいなものに違和感を持っていないというか、「母親の言うことは全部オッケー」みたいな感じだったんです。――お母様が熱心な宗教信者だったことで、ご家庭にどんな影響がありましたか。戸田 とても大きな仏壇が家にあって、お祈りは毎日必ず行わなければいけないものでした。小さい頃は土日に宗教の集会に連れて行かれたり。結構当たり前のルールとされていたのは、「同じ宗教の子としか遊んじゃダメ」ということでした。 大きな宗教団体なので、ひと学区内に10人くらいはいたんじゃないかな。親からは「その子たちと一緒に帰りなさい」と言われていました。これに関しては宗教自体の教えなのか、母親の価値観なのかまではわからないんですが……。――どちらにせよ、人間関係において大きな制約があったと。戸田 そうですね。その宗教以外の子たちは基本的に母親が否定をしていて。例えば私が「誰々と遊んだよ」と言っても「その子は意地悪だから一緒に遊んだらダメ」と言われたり、母親はその子の情報を何も知らないのに、そういう風にされていました。 友達からもらった他宗教のお守りは捨てなきゃいけなかったし、読んでいた漫画にたまたま鳥居の絵が載っていたりするとその部分を破かれてしまったりもしました。 同じ宗教の2世の子たちの中には、友達にもらった他宗教のお守りを、目の前で親に燃やされた子もいました。それくらい、物理的に他の宗教のものを見せない、排除、みたいなところはありました。学歴にずっと宗教の名前が付いてくる可能性もあった――私の想像以上にハードな体験をされていたんですね。戸田 でも子どもはピュアなので、宗教2世であれ3世であれ、友達として仲良くなっていくんですね。そうすると中学生くらいになれば、近所でその宗教の名前が付いた中学校を受験して入学していく子もいて。 私は経済的な理由でその中学に進学しなかったのですが、母親から「お金さえあったらそこに入れるのに」と言われていたので、そう思うとちょっと恐ろしいです。学歴にずっとその宗教の名前が付いてくることになってしまうので。その学校に入った子たちは今、どうしているんだろうと思うときはあります。 あと、親からされていた制約としては「神社や教会に行っちゃだめ」というのもありました。――クリスマスやハロウィンなどのイベントはどうでしたか?戸田 ハロウィンは多分、その頃はそこまで盛んじゃなかったのでスルーでしたね。クリスマスは十字架や天使など、キリスト教的なモチーフはダメだったんですけど、うちでは「ツリーはOK」みたいな漠然としたクリスマスが行われました(笑)。 おそらく、クリスマスがキリスト教由来のものだということもわかっていなかったんだと思います。信者ではないのに、脱退に踏み出せない理由――戸田さんご自身はその宗教の信者というわけではないのでしょうか。戸田 形式上、まだ信者ということになっているかもしれません。通常、信者の家に子どもが生まれたら、その子も名簿に入れられてしまうらしいので。 脱退の仕方を調べたこともありますが、熱心な信者である親に脱退を切り出すのは、今よりさらに関係が悪化するおそれがあり、なかなか踏み出せずにいます。――ご自身の意思に関係なく、生まれた瞬間から信者として扱われてしまう可能性があるということですね。戸田 ひどいですよね。母親は、私がテストでいい点を取ると、御本尊のようなものに向かってお礼を言うんです。でも成長するにつれて「私がいい点を取ったのはママが祈ったからじゃなくて、私ががんばったからなのに」とか「ママが同じように祈っていたお姉ちゃんは同じ点を取っていなかったよね」とか、子どもながらに矛盾に気が付くようになって。 土日になると、近所の信者の人が宗教の会合の勧誘にくるんですね。そのときに「テスト勉強をしたいので行きません」なんて言ったりするとすごく怒られるんですよ。その宗教の会合では、みんなが尊敬している「先生」が「勉学に励め」と言っているのに。――それが中学生くらいの頃だったんですね。戸田 そうです。納得できないので、母親ならわかってくれるだろうと「私はテスト勉強をしたいと思ったから断ったのにあんなに怒るなんて、変じゃない?」と言うと、母親は「いや、その人たちはいい人たちだよ。あなたのために言ってくれてるんだよ」と返してきたり。 そういう「あれ?」と思うことが少しずつ増えていって、不信感みたいなものが次第に出てきてしまったんです。 それが積み重なって、だんだんと母親や父親の主張に対抗できるようになっていって。自分の性格上、「言わずにいること」ができないので。「これ変だよね」と思ったことを1つ1つ言っていったら、親から次第に「ヤバイやつ」みたいな扱いになって。でも「ヤバイと思われたほうがいいんだろうな」と思うようにもなって、家の中で理解されることは諦めました。母親から「臭い!」と言われていたことが“生きづらさ”に――そういう子ども時代のなかで、当時、何か支えになっていたものはありましたか。戸田 私、ノートを常に持っているようにしていて。すべての「これは変じゃないか」と思ったことが誰にも伝わらない、逆にすごく怒られたりするようなことが続いたりすると、一旦他人に伝えようとするのをやめる方向にいくんですね。 でも、考えるのをやめることはできなくって。そうすれば、なかったことになってしまうから。 だからそれをノートに書くんです。単純に「この世の中はどうなっているのか」とか「自分が何を思ったのか」と探求することが自分にとっての喜びなので、自分に向けて書く。――ノートの中の自分と会話をして思考整理をしているような感覚でしょうか。戸田 意識的にイマジナリーフレンドみたいなものを自分の中に作っていて。そんな風にしていると助かる瞬間があるというか、自分の頭の中が行き止まりにならずに済んだんです。 自分に話しかけて、同意してもらったり、叱咤してもらったり、そういうことをとにかく繰り返していました。それが一番の支えだったと思います。――戸田さんはご自身が育たれた環境によって今も苦しんでいるものや、抱えている生きづらさ的なことがあったりするのでしょうか。戸田 多分めちゃくちゃあります。母親がすごく、においについて言う人で。――におい?戸田 外から帰ってくると「臭い!」みたいなことを言われるんです。多分それは母親がずっと家にいるから、家の中のにおいしか嗅いでいないとか、いろいろ理由はあったと思うんですが。 あとは父親の体臭をとても嫌っているので、それが私たちに遺伝しているために自分とは異質なにおいがしていたのか、わからないんですけど。母親は全然お風呂に入らない人なのに「自分は絶対に綺麗」という確信があって。でも私が学校から帰ったりすると「すごく臭いから早く服を全部脱いで」と言われたりするんです。AV女優としてデビューしたことで意識が変化――とにかく、体臭について言われることが異常に多かったと。戸田 はい。そのおかげで今も人に近づくと「臭い」と思われるんじゃないかと怖かったり、汗のにおいなどを過剰に気にしてしまったり。 そういう意識が、他者とのコミュニケーションに大いに影響したなと思います。思春期にどうしても恋愛というものに踏み出せなかったり、「好きだな」と思っても「でもこれ以上近づいたら臭いし、嫌われるよな」という感覚がとても強かったというか。――そういった意識が薄れた瞬間やきっかけはあるんでしょうか。戸田 AV女優としてデビューしたことは大きかったかもしれません。撮影のときって、めちゃくちゃシャワーを浴びるんですよ。1日に何人か男優さんが来て、チャプター毎に撮っていくたびに必ずシャワーを浴びるので「常に全員が清潔」「常にボディーソープの香り」みたいな感じで。 検査も徹底しているし「絶対に病気を持っていません、健康です、風邪も引いていません、全部洗いました、歯も全部磨いた直後です、はいスタート」という世界なので。――戸田さんはAV女優になるまで性行為の経験がなかったということですが、それもにおいに関する過剰な意識ゆえのものだったのでしょうか。戸田 そういう現場じゃないと、性的な経験をするのが難しかったんだろうなとは思います。逆に言うと、そうやって仕事を繰り返していくなかでどんどん自分自身が無味無臭になっていく感覚がしたというか。「あ、特別におうわけじゃなかったんだ」「ちゃんと洗えば大丈夫だったんだ」という意識が芽生えていって。だから今は、そんなに気にせず済んでいるんだと思います。いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなるように――幼少期の経験による価値観から抜け出すのはなかなか難しいですね。戸田 そう思います。私は他者から同意を求められるとすぐに従ってしまうというか、「それは違うよ」がどうしても言えないところがあって。色々と発信したり活動したりしていると「意志が強い人間」だと思われることが多いんですけど、実はそうではなくって。――それは意外ですね。戸田 他者と1対1で話すときに自分の意見で話すことってほとんどないんです。とにかく向こうが求めている同意に、自分がどう思っていようと同意する、というコミュニケーションしかできないんだな、と思うことがよくあります。 相手にただ同意して「ああそうだよね、つらかったよね。あなたは悪くないよ」ということを繰り返していくと、いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなることが多くなってしまって。 するとこちらも余計に同意し続けるしかできなくなって、あるとき「自分の意見」が垣間見えてしまったときに「裏切られた、あなたはそんな人だと思わなかった」という風に関係性が破綻してしまうみたいなことが……。――ただただ同意や同調をしてくれる相手がほしい人からすれば、近づきやすいというか。戸田 そうですね、真夜中とかに連絡があっても絶対返してしまったり、次の日が早いのに相手の愚痴をずっと聞いてしまうとか。「ちょっと今日は寝るね」とか「ちょっとごめんね」がいまだに言えないというのは、自分にとってかなりの生きづらさになっているように思います。――宗教団体の方から、今でも戸田さんご自身に勧誘があったり接点があったりはするんでしょうか。戸田 選挙のたびに必ず母親から連絡がありました。今は親にも住所を言っていないので、突然家に来られるとかそういったことはなくなりましたね。――私の知人で宗教2世の方は、親がその方の住所を宗教側に教えてしまうので、ひとりで引っ越しても家まで宗教関係の方が訪問にきてしまってトラブルになっていました。戸田 あ、もしかしたらそれで何度も住所を聞いてくるのかな。家の間取りや家賃なんかを知られるのが嫌で教えていないんですけど……。家庭環境の“おかしさ”に気づいたきっかけ――生い立ちをお伺いしてきて、子どもの頃からかなり生きづらかった部分があったのではないかと思うのですが、誰かに相談しようとか、助けを求めようと思ったことはありませんでしたか?戸田 なかったです。それがおかしなことだと、ずいぶん大人になるまで気付かなかったので。 なんとなく「この家の人たちは私と合わないんだな」と思って、高校を卒業するときにわざと実家からギリギリ通えない大学に夜間で入学したんです。そうすると終電がなくなる関係上、1人暮らしをする口実になるという理由で。 それで実家を離れてみたら、だんだん友達ができていって、そうすると「あの環境は変だったんだ」とわかってくるというか。それが成人してからだったので、逆にそれまで気付けなかったというのが恐ろしいですね。――学費や生活費はどうやって工面していましたか。戸田 学費は全部奨学金でした。生活費は、夜勤のアルバイトをして賄っていました。奨学金は満額と、生活費の足しにできるくらい借りていたから結構な額になってしまって。 私、自分が自分として、明日も生きていくという意識が本当にないんです。心と体が乖離しているような感覚がずっとあるんですね。 だから大学時代は「借金めっちゃあるな、でもちょっとわかんない」みたいな状態で。ただ、AV女優の仕事で全額返済できたので、それはよかったです。撮影=杉山拓也/文藝春秋「育った環境の影響で、性的なコンプレックスがあった」宗教3世の元AV女優が語る、機能不全家庭で感じていた“教育格差” へ続く(吉川 ばんび)
――複合的な要因があるということですよね。
戸田 はい。そもそもは祖父母が宗教に入っていて、その影響で母親がかなり熱心な信者になりまして。父親は「母親と結婚したいから宗教を受け入れた」という形だったので、彼自身はそこまで熱心な信者というわけではないんですけど。
でも母親の宗教に対しての熱みたいなものに違和感を持っていないというか、「母親の言うことは全部オッケー」みたいな感じだったんです。
――お母様が熱心な宗教信者だったことで、ご家庭にどんな影響がありましたか。
戸田 とても大きな仏壇が家にあって、お祈りは毎日必ず行わなければいけないものでした。小さい頃は土日に宗教の集会に連れて行かれたり。結構当たり前のルールとされていたのは、「同じ宗教の子としか遊んじゃダメ」ということでした。
大きな宗教団体なので、ひと学区内に10人くらいはいたんじゃないかな。親からは「その子たちと一緒に帰りなさい」と言われていました。これに関しては宗教自体の教えなのか、母親の価値観なのかまではわからないんですが……。
――どちらにせよ、人間関係において大きな制約があったと。戸田 そうですね。その宗教以外の子たちは基本的に母親が否定をしていて。例えば私が「誰々と遊んだよ」と言っても「その子は意地悪だから一緒に遊んだらダメ」と言われたり、母親はその子の情報を何も知らないのに、そういう風にされていました。 友達からもらった他宗教のお守りは捨てなきゃいけなかったし、読んでいた漫画にたまたま鳥居の絵が載っていたりするとその部分を破かれてしまったりもしました。 同じ宗教の2世の子たちの中には、友達にもらった他宗教のお守りを、目の前で親に燃やされた子もいました。それくらい、物理的に他の宗教のものを見せない、排除、みたいなところはありました。学歴にずっと宗教の名前が付いてくる可能性もあった――私の想像以上にハードな体験をされていたんですね。戸田 でも子どもはピュアなので、宗教2世であれ3世であれ、友達として仲良くなっていくんですね。そうすると中学生くらいになれば、近所でその宗教の名前が付いた中学校を受験して入学していく子もいて。 私は経済的な理由でその中学に進学しなかったのですが、母親から「お金さえあったらそこに入れるのに」と言われていたので、そう思うとちょっと恐ろしいです。学歴にずっとその宗教の名前が付いてくることになってしまうので。その学校に入った子たちは今、どうしているんだろうと思うときはあります。 あと、親からされていた制約としては「神社や教会に行っちゃだめ」というのもありました。――クリスマスやハロウィンなどのイベントはどうでしたか?戸田 ハロウィンは多分、その頃はそこまで盛んじゃなかったのでスルーでしたね。クリスマスは十字架や天使など、キリスト教的なモチーフはダメだったんですけど、うちでは「ツリーはOK」みたいな漠然としたクリスマスが行われました(笑)。 おそらく、クリスマスがキリスト教由来のものだということもわかっていなかったんだと思います。信者ではないのに、脱退に踏み出せない理由――戸田さんご自身はその宗教の信者というわけではないのでしょうか。戸田 形式上、まだ信者ということになっているかもしれません。通常、信者の家に子どもが生まれたら、その子も名簿に入れられてしまうらしいので。 脱退の仕方を調べたこともありますが、熱心な信者である親に脱退を切り出すのは、今よりさらに関係が悪化するおそれがあり、なかなか踏み出せずにいます。――ご自身の意思に関係なく、生まれた瞬間から信者として扱われてしまう可能性があるということですね。戸田 ひどいですよね。母親は、私がテストでいい点を取ると、御本尊のようなものに向かってお礼を言うんです。でも成長するにつれて「私がいい点を取ったのはママが祈ったからじゃなくて、私ががんばったからなのに」とか「ママが同じように祈っていたお姉ちゃんは同じ点を取っていなかったよね」とか、子どもながらに矛盾に気が付くようになって。 土日になると、近所の信者の人が宗教の会合の勧誘にくるんですね。そのときに「テスト勉強をしたいので行きません」なんて言ったりするとすごく怒られるんですよ。その宗教の会合では、みんなが尊敬している「先生」が「勉学に励め」と言っているのに。――それが中学生くらいの頃だったんですね。戸田 そうです。納得できないので、母親ならわかってくれるだろうと「私はテスト勉強をしたいと思ったから断ったのにあんなに怒るなんて、変じゃない?」と言うと、母親は「いや、その人たちはいい人たちだよ。あなたのために言ってくれてるんだよ」と返してきたり。 そういう「あれ?」と思うことが少しずつ増えていって、不信感みたいなものが次第に出てきてしまったんです。 それが積み重なって、だんだんと母親や父親の主張に対抗できるようになっていって。自分の性格上、「言わずにいること」ができないので。「これ変だよね」と思ったことを1つ1つ言っていったら、親から次第に「ヤバイやつ」みたいな扱いになって。でも「ヤバイと思われたほうがいいんだろうな」と思うようにもなって、家の中で理解されることは諦めました。母親から「臭い!」と言われていたことが“生きづらさ”に――そういう子ども時代のなかで、当時、何か支えになっていたものはありましたか。戸田 私、ノートを常に持っているようにしていて。すべての「これは変じゃないか」と思ったことが誰にも伝わらない、逆にすごく怒られたりするようなことが続いたりすると、一旦他人に伝えようとするのをやめる方向にいくんですね。 でも、考えるのをやめることはできなくって。そうすれば、なかったことになってしまうから。 だからそれをノートに書くんです。単純に「この世の中はどうなっているのか」とか「自分が何を思ったのか」と探求することが自分にとっての喜びなので、自分に向けて書く。――ノートの中の自分と会話をして思考整理をしているような感覚でしょうか。戸田 意識的にイマジナリーフレンドみたいなものを自分の中に作っていて。そんな風にしていると助かる瞬間があるというか、自分の頭の中が行き止まりにならずに済んだんです。 自分に話しかけて、同意してもらったり、叱咤してもらったり、そういうことをとにかく繰り返していました。それが一番の支えだったと思います。――戸田さんはご自身が育たれた環境によって今も苦しんでいるものや、抱えている生きづらさ的なことがあったりするのでしょうか。戸田 多分めちゃくちゃあります。母親がすごく、においについて言う人で。――におい?戸田 外から帰ってくると「臭い!」みたいなことを言われるんです。多分それは母親がずっと家にいるから、家の中のにおいしか嗅いでいないとか、いろいろ理由はあったと思うんですが。 あとは父親の体臭をとても嫌っているので、それが私たちに遺伝しているために自分とは異質なにおいがしていたのか、わからないんですけど。母親は全然お風呂に入らない人なのに「自分は絶対に綺麗」という確信があって。でも私が学校から帰ったりすると「すごく臭いから早く服を全部脱いで」と言われたりするんです。AV女優としてデビューしたことで意識が変化――とにかく、体臭について言われることが異常に多かったと。戸田 はい。そのおかげで今も人に近づくと「臭い」と思われるんじゃないかと怖かったり、汗のにおいなどを過剰に気にしてしまったり。 そういう意識が、他者とのコミュニケーションに大いに影響したなと思います。思春期にどうしても恋愛というものに踏み出せなかったり、「好きだな」と思っても「でもこれ以上近づいたら臭いし、嫌われるよな」という感覚がとても強かったというか。――そういった意識が薄れた瞬間やきっかけはあるんでしょうか。戸田 AV女優としてデビューしたことは大きかったかもしれません。撮影のときって、めちゃくちゃシャワーを浴びるんですよ。1日に何人か男優さんが来て、チャプター毎に撮っていくたびに必ずシャワーを浴びるので「常に全員が清潔」「常にボディーソープの香り」みたいな感じで。 検査も徹底しているし「絶対に病気を持っていません、健康です、風邪も引いていません、全部洗いました、歯も全部磨いた直後です、はいスタート」という世界なので。――戸田さんはAV女優になるまで性行為の経験がなかったということですが、それもにおいに関する過剰な意識ゆえのものだったのでしょうか。戸田 そういう現場じゃないと、性的な経験をするのが難しかったんだろうなとは思います。逆に言うと、そうやって仕事を繰り返していくなかでどんどん自分自身が無味無臭になっていく感覚がしたというか。「あ、特別におうわけじゃなかったんだ」「ちゃんと洗えば大丈夫だったんだ」という意識が芽生えていって。だから今は、そんなに気にせず済んでいるんだと思います。いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなるように――幼少期の経験による価値観から抜け出すのはなかなか難しいですね。戸田 そう思います。私は他者から同意を求められるとすぐに従ってしまうというか、「それは違うよ」がどうしても言えないところがあって。色々と発信したり活動したりしていると「意志が強い人間」だと思われることが多いんですけど、実はそうではなくって。――それは意外ですね。戸田 他者と1対1で話すときに自分の意見で話すことってほとんどないんです。とにかく向こうが求めている同意に、自分がどう思っていようと同意する、というコミュニケーションしかできないんだな、と思うことがよくあります。 相手にただ同意して「ああそうだよね、つらかったよね。あなたは悪くないよ」ということを繰り返していくと、いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなることが多くなってしまって。 するとこちらも余計に同意し続けるしかできなくなって、あるとき「自分の意見」が垣間見えてしまったときに「裏切られた、あなたはそんな人だと思わなかった」という風に関係性が破綻してしまうみたいなことが……。――ただただ同意や同調をしてくれる相手がほしい人からすれば、近づきやすいというか。戸田 そうですね、真夜中とかに連絡があっても絶対返してしまったり、次の日が早いのに相手の愚痴をずっと聞いてしまうとか。「ちょっと今日は寝るね」とか「ちょっとごめんね」がいまだに言えないというのは、自分にとってかなりの生きづらさになっているように思います。――宗教団体の方から、今でも戸田さんご自身に勧誘があったり接点があったりはするんでしょうか。戸田 選挙のたびに必ず母親から連絡がありました。今は親にも住所を言っていないので、突然家に来られるとかそういったことはなくなりましたね。――私の知人で宗教2世の方は、親がその方の住所を宗教側に教えてしまうので、ひとりで引っ越しても家まで宗教関係の方が訪問にきてしまってトラブルになっていました。戸田 あ、もしかしたらそれで何度も住所を聞いてくるのかな。家の間取りや家賃なんかを知られるのが嫌で教えていないんですけど……。家庭環境の“おかしさ”に気づいたきっかけ――生い立ちをお伺いしてきて、子どもの頃からかなり生きづらかった部分があったのではないかと思うのですが、誰かに相談しようとか、助けを求めようと思ったことはありませんでしたか?戸田 なかったです。それがおかしなことだと、ずいぶん大人になるまで気付かなかったので。 なんとなく「この家の人たちは私と合わないんだな」と思って、高校を卒業するときにわざと実家からギリギリ通えない大学に夜間で入学したんです。そうすると終電がなくなる関係上、1人暮らしをする口実になるという理由で。 それで実家を離れてみたら、だんだん友達ができていって、そうすると「あの環境は変だったんだ」とわかってくるというか。それが成人してからだったので、逆にそれまで気付けなかったというのが恐ろしいですね。――学費や生活費はどうやって工面していましたか。戸田 学費は全部奨学金でした。生活費は、夜勤のアルバイトをして賄っていました。奨学金は満額と、生活費の足しにできるくらい借りていたから結構な額になってしまって。 私、自分が自分として、明日も生きていくという意識が本当にないんです。心と体が乖離しているような感覚がずっとあるんですね。 だから大学時代は「借金めっちゃあるな、でもちょっとわかんない」みたいな状態で。ただ、AV女優の仕事で全額返済できたので、それはよかったです。撮影=杉山拓也/文藝春秋「育った環境の影響で、性的なコンプレックスがあった」宗教3世の元AV女優が語る、機能不全家庭で感じていた“教育格差” へ続く(吉川 ばんび)
――どちらにせよ、人間関係において大きな制約があったと。
戸田 そうですね。その宗教以外の子たちは基本的に母親が否定をしていて。例えば私が「誰々と遊んだよ」と言っても「その子は意地悪だから一緒に遊んだらダメ」と言われたり、母親はその子の情報を何も知らないのに、そういう風にされていました。
友達からもらった他宗教のお守りは捨てなきゃいけなかったし、読んでいた漫画にたまたま鳥居の絵が載っていたりするとその部分を破かれてしまったりもしました。
同じ宗教の2世の子たちの中には、友達にもらった他宗教のお守りを、目の前で親に燃やされた子もいました。それくらい、物理的に他の宗教のものを見せない、排除、みたいなところはありました。
――私の想像以上にハードな体験をされていたんですね。
戸田 でも子どもはピュアなので、宗教2世であれ3世であれ、友達として仲良くなっていくんですね。そうすると中学生くらいになれば、近所でその宗教の名前が付いた中学校を受験して入学していく子もいて。
私は経済的な理由でその中学に進学しなかったのですが、母親から「お金さえあったらそこに入れるのに」と言われていたので、そう思うとちょっと恐ろしいです。学歴にずっとその宗教の名前が付いてくることになってしまうので。その学校に入った子たちは今、どうしているんだろうと思うときはあります。 あと、親からされていた制約としては「神社や教会に行っちゃだめ」というのもありました。――クリスマスやハロウィンなどのイベントはどうでしたか?戸田 ハロウィンは多分、その頃はそこまで盛んじゃなかったのでスルーでしたね。クリスマスは十字架や天使など、キリスト教的なモチーフはダメだったんですけど、うちでは「ツリーはOK」みたいな漠然としたクリスマスが行われました(笑)。 おそらく、クリスマスがキリスト教由来のものだということもわかっていなかったんだと思います。信者ではないのに、脱退に踏み出せない理由――戸田さんご自身はその宗教の信者というわけではないのでしょうか。戸田 形式上、まだ信者ということになっているかもしれません。通常、信者の家に子どもが生まれたら、その子も名簿に入れられてしまうらしいので。 脱退の仕方を調べたこともありますが、熱心な信者である親に脱退を切り出すのは、今よりさらに関係が悪化するおそれがあり、なかなか踏み出せずにいます。――ご自身の意思に関係なく、生まれた瞬間から信者として扱われてしまう可能性があるということですね。戸田 ひどいですよね。母親は、私がテストでいい点を取ると、御本尊のようなものに向かってお礼を言うんです。でも成長するにつれて「私がいい点を取ったのはママが祈ったからじゃなくて、私ががんばったからなのに」とか「ママが同じように祈っていたお姉ちゃんは同じ点を取っていなかったよね」とか、子どもながらに矛盾に気が付くようになって。 土日になると、近所の信者の人が宗教の会合の勧誘にくるんですね。そのときに「テスト勉強をしたいので行きません」なんて言ったりするとすごく怒られるんですよ。その宗教の会合では、みんなが尊敬している「先生」が「勉学に励め」と言っているのに。――それが中学生くらいの頃だったんですね。戸田 そうです。納得できないので、母親ならわかってくれるだろうと「私はテスト勉強をしたいと思ったから断ったのにあんなに怒るなんて、変じゃない?」と言うと、母親は「いや、その人たちはいい人たちだよ。あなたのために言ってくれてるんだよ」と返してきたり。 そういう「あれ?」と思うことが少しずつ増えていって、不信感みたいなものが次第に出てきてしまったんです。 それが積み重なって、だんだんと母親や父親の主張に対抗できるようになっていって。自分の性格上、「言わずにいること」ができないので。「これ変だよね」と思ったことを1つ1つ言っていったら、親から次第に「ヤバイやつ」みたいな扱いになって。でも「ヤバイと思われたほうがいいんだろうな」と思うようにもなって、家の中で理解されることは諦めました。母親から「臭い!」と言われていたことが“生きづらさ”に――そういう子ども時代のなかで、当時、何か支えになっていたものはありましたか。戸田 私、ノートを常に持っているようにしていて。すべての「これは変じゃないか」と思ったことが誰にも伝わらない、逆にすごく怒られたりするようなことが続いたりすると、一旦他人に伝えようとするのをやめる方向にいくんですね。 でも、考えるのをやめることはできなくって。そうすれば、なかったことになってしまうから。 だからそれをノートに書くんです。単純に「この世の中はどうなっているのか」とか「自分が何を思ったのか」と探求することが自分にとっての喜びなので、自分に向けて書く。――ノートの中の自分と会話をして思考整理をしているような感覚でしょうか。戸田 意識的にイマジナリーフレンドみたいなものを自分の中に作っていて。そんな風にしていると助かる瞬間があるというか、自分の頭の中が行き止まりにならずに済んだんです。 自分に話しかけて、同意してもらったり、叱咤してもらったり、そういうことをとにかく繰り返していました。それが一番の支えだったと思います。――戸田さんはご自身が育たれた環境によって今も苦しんでいるものや、抱えている生きづらさ的なことがあったりするのでしょうか。戸田 多分めちゃくちゃあります。母親がすごく、においについて言う人で。――におい?戸田 外から帰ってくると「臭い!」みたいなことを言われるんです。多分それは母親がずっと家にいるから、家の中のにおいしか嗅いでいないとか、いろいろ理由はあったと思うんですが。 あとは父親の体臭をとても嫌っているので、それが私たちに遺伝しているために自分とは異質なにおいがしていたのか、わからないんですけど。母親は全然お風呂に入らない人なのに「自分は絶対に綺麗」という確信があって。でも私が学校から帰ったりすると「すごく臭いから早く服を全部脱いで」と言われたりするんです。AV女優としてデビューしたことで意識が変化――とにかく、体臭について言われることが異常に多かったと。戸田 はい。そのおかげで今も人に近づくと「臭い」と思われるんじゃないかと怖かったり、汗のにおいなどを過剰に気にしてしまったり。 そういう意識が、他者とのコミュニケーションに大いに影響したなと思います。思春期にどうしても恋愛というものに踏み出せなかったり、「好きだな」と思っても「でもこれ以上近づいたら臭いし、嫌われるよな」という感覚がとても強かったというか。――そういった意識が薄れた瞬間やきっかけはあるんでしょうか。戸田 AV女優としてデビューしたことは大きかったかもしれません。撮影のときって、めちゃくちゃシャワーを浴びるんですよ。1日に何人か男優さんが来て、チャプター毎に撮っていくたびに必ずシャワーを浴びるので「常に全員が清潔」「常にボディーソープの香り」みたいな感じで。 検査も徹底しているし「絶対に病気を持っていません、健康です、風邪も引いていません、全部洗いました、歯も全部磨いた直後です、はいスタート」という世界なので。――戸田さんはAV女優になるまで性行為の経験がなかったということですが、それもにおいに関する過剰な意識ゆえのものだったのでしょうか。戸田 そういう現場じゃないと、性的な経験をするのが難しかったんだろうなとは思います。逆に言うと、そうやって仕事を繰り返していくなかでどんどん自分自身が無味無臭になっていく感覚がしたというか。「あ、特別におうわけじゃなかったんだ」「ちゃんと洗えば大丈夫だったんだ」という意識が芽生えていって。だから今は、そんなに気にせず済んでいるんだと思います。いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなるように――幼少期の経験による価値観から抜け出すのはなかなか難しいですね。戸田 そう思います。私は他者から同意を求められるとすぐに従ってしまうというか、「それは違うよ」がどうしても言えないところがあって。色々と発信したり活動したりしていると「意志が強い人間」だと思われることが多いんですけど、実はそうではなくって。――それは意外ですね。戸田 他者と1対1で話すときに自分の意見で話すことってほとんどないんです。とにかく向こうが求めている同意に、自分がどう思っていようと同意する、というコミュニケーションしかできないんだな、と思うことがよくあります。 相手にただ同意して「ああそうだよね、つらかったよね。あなたは悪くないよ」ということを繰り返していくと、いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなることが多くなってしまって。 するとこちらも余計に同意し続けるしかできなくなって、あるとき「自分の意見」が垣間見えてしまったときに「裏切られた、あなたはそんな人だと思わなかった」という風に関係性が破綻してしまうみたいなことが……。――ただただ同意や同調をしてくれる相手がほしい人からすれば、近づきやすいというか。戸田 そうですね、真夜中とかに連絡があっても絶対返してしまったり、次の日が早いのに相手の愚痴をずっと聞いてしまうとか。「ちょっと今日は寝るね」とか「ちょっとごめんね」がいまだに言えないというのは、自分にとってかなりの生きづらさになっているように思います。――宗教団体の方から、今でも戸田さんご自身に勧誘があったり接点があったりはするんでしょうか。戸田 選挙のたびに必ず母親から連絡がありました。今は親にも住所を言っていないので、突然家に来られるとかそういったことはなくなりましたね。――私の知人で宗教2世の方は、親がその方の住所を宗教側に教えてしまうので、ひとりで引っ越しても家まで宗教関係の方が訪問にきてしまってトラブルになっていました。戸田 あ、もしかしたらそれで何度も住所を聞いてくるのかな。家の間取りや家賃なんかを知られるのが嫌で教えていないんですけど……。家庭環境の“おかしさ”に気づいたきっかけ――生い立ちをお伺いしてきて、子どもの頃からかなり生きづらかった部分があったのではないかと思うのですが、誰かに相談しようとか、助けを求めようと思ったことはありませんでしたか?戸田 なかったです。それがおかしなことだと、ずいぶん大人になるまで気付かなかったので。 なんとなく「この家の人たちは私と合わないんだな」と思って、高校を卒業するときにわざと実家からギリギリ通えない大学に夜間で入学したんです。そうすると終電がなくなる関係上、1人暮らしをする口実になるという理由で。 それで実家を離れてみたら、だんだん友達ができていって、そうすると「あの環境は変だったんだ」とわかってくるというか。それが成人してからだったので、逆にそれまで気付けなかったというのが恐ろしいですね。――学費や生活費はどうやって工面していましたか。戸田 学費は全部奨学金でした。生活費は、夜勤のアルバイトをして賄っていました。奨学金は満額と、生活費の足しにできるくらい借りていたから結構な額になってしまって。 私、自分が自分として、明日も生きていくという意識が本当にないんです。心と体が乖離しているような感覚がずっとあるんですね。 だから大学時代は「借金めっちゃあるな、でもちょっとわかんない」みたいな状態で。ただ、AV女優の仕事で全額返済できたので、それはよかったです。撮影=杉山拓也/文藝春秋「育った環境の影響で、性的なコンプレックスがあった」宗教3世の元AV女優が語る、機能不全家庭で感じていた“教育格差” へ続く(吉川 ばんび)
私は経済的な理由でその中学に進学しなかったのですが、母親から「お金さえあったらそこに入れるのに」と言われていたので、そう思うとちょっと恐ろしいです。学歴にずっとその宗教の名前が付いてくることになってしまうので。その学校に入った子たちは今、どうしているんだろうと思うときはあります。
あと、親からされていた制約としては「神社や教会に行っちゃだめ」というのもありました。
――クリスマスやハロウィンなどのイベントはどうでしたか?
戸田 ハロウィンは多分、その頃はそこまで盛んじゃなかったのでスルーでしたね。クリスマスは十字架や天使など、キリスト教的なモチーフはダメだったんですけど、うちでは「ツリーはOK」みたいな漠然としたクリスマスが行われました(笑)。
おそらく、クリスマスがキリスト教由来のものだということもわかっていなかったんだと思います。
信者ではないのに、脱退に踏み出せない理由――戸田さんご自身はその宗教の信者というわけではないのでしょうか。戸田 形式上、まだ信者ということになっているかもしれません。通常、信者の家に子どもが生まれたら、その子も名簿に入れられてしまうらしいので。 脱退の仕方を調べたこともありますが、熱心な信者である親に脱退を切り出すのは、今よりさらに関係が悪化するおそれがあり、なかなか踏み出せずにいます。――ご自身の意思に関係なく、生まれた瞬間から信者として扱われてしまう可能性があるということですね。戸田 ひどいですよね。母親は、私がテストでいい点を取ると、御本尊のようなものに向かってお礼を言うんです。でも成長するにつれて「私がいい点を取ったのはママが祈ったからじゃなくて、私ががんばったからなのに」とか「ママが同じように祈っていたお姉ちゃんは同じ点を取っていなかったよね」とか、子どもながらに矛盾に気が付くようになって。 土日になると、近所の信者の人が宗教の会合の勧誘にくるんですね。そのときに「テスト勉強をしたいので行きません」なんて言ったりするとすごく怒られるんですよ。その宗教の会合では、みんなが尊敬している「先生」が「勉学に励め」と言っているのに。――それが中学生くらいの頃だったんですね。戸田 そうです。納得できないので、母親ならわかってくれるだろうと「私はテスト勉強をしたいと思ったから断ったのにあんなに怒るなんて、変じゃない?」と言うと、母親は「いや、その人たちはいい人たちだよ。あなたのために言ってくれてるんだよ」と返してきたり。 そういう「あれ?」と思うことが少しずつ増えていって、不信感みたいなものが次第に出てきてしまったんです。 それが積み重なって、だんだんと母親や父親の主張に対抗できるようになっていって。自分の性格上、「言わずにいること」ができないので。「これ変だよね」と思ったことを1つ1つ言っていったら、親から次第に「ヤバイやつ」みたいな扱いになって。でも「ヤバイと思われたほうがいいんだろうな」と思うようにもなって、家の中で理解されることは諦めました。母親から「臭い!」と言われていたことが“生きづらさ”に――そういう子ども時代のなかで、当時、何か支えになっていたものはありましたか。戸田 私、ノートを常に持っているようにしていて。すべての「これは変じゃないか」と思ったことが誰にも伝わらない、逆にすごく怒られたりするようなことが続いたりすると、一旦他人に伝えようとするのをやめる方向にいくんですね。 でも、考えるのをやめることはできなくって。そうすれば、なかったことになってしまうから。 だからそれをノートに書くんです。単純に「この世の中はどうなっているのか」とか「自分が何を思ったのか」と探求することが自分にとっての喜びなので、自分に向けて書く。――ノートの中の自分と会話をして思考整理をしているような感覚でしょうか。戸田 意識的にイマジナリーフレンドみたいなものを自分の中に作っていて。そんな風にしていると助かる瞬間があるというか、自分の頭の中が行き止まりにならずに済んだんです。 自分に話しかけて、同意してもらったり、叱咤してもらったり、そういうことをとにかく繰り返していました。それが一番の支えだったと思います。――戸田さんはご自身が育たれた環境によって今も苦しんでいるものや、抱えている生きづらさ的なことがあったりするのでしょうか。戸田 多分めちゃくちゃあります。母親がすごく、においについて言う人で。――におい?戸田 外から帰ってくると「臭い!」みたいなことを言われるんです。多分それは母親がずっと家にいるから、家の中のにおいしか嗅いでいないとか、いろいろ理由はあったと思うんですが。 あとは父親の体臭をとても嫌っているので、それが私たちに遺伝しているために自分とは異質なにおいがしていたのか、わからないんですけど。母親は全然お風呂に入らない人なのに「自分は絶対に綺麗」という確信があって。でも私が学校から帰ったりすると「すごく臭いから早く服を全部脱いで」と言われたりするんです。AV女優としてデビューしたことで意識が変化――とにかく、体臭について言われることが異常に多かったと。戸田 はい。そのおかげで今も人に近づくと「臭い」と思われるんじゃないかと怖かったり、汗のにおいなどを過剰に気にしてしまったり。 そういう意識が、他者とのコミュニケーションに大いに影響したなと思います。思春期にどうしても恋愛というものに踏み出せなかったり、「好きだな」と思っても「でもこれ以上近づいたら臭いし、嫌われるよな」という感覚がとても強かったというか。――そういった意識が薄れた瞬間やきっかけはあるんでしょうか。戸田 AV女優としてデビューしたことは大きかったかもしれません。撮影のときって、めちゃくちゃシャワーを浴びるんですよ。1日に何人か男優さんが来て、チャプター毎に撮っていくたびに必ずシャワーを浴びるので「常に全員が清潔」「常にボディーソープの香り」みたいな感じで。 検査も徹底しているし「絶対に病気を持っていません、健康です、風邪も引いていません、全部洗いました、歯も全部磨いた直後です、はいスタート」という世界なので。――戸田さんはAV女優になるまで性行為の経験がなかったということですが、それもにおいに関する過剰な意識ゆえのものだったのでしょうか。戸田 そういう現場じゃないと、性的な経験をするのが難しかったんだろうなとは思います。逆に言うと、そうやって仕事を繰り返していくなかでどんどん自分自身が無味無臭になっていく感覚がしたというか。「あ、特別におうわけじゃなかったんだ」「ちゃんと洗えば大丈夫だったんだ」という意識が芽生えていって。だから今は、そんなに気にせず済んでいるんだと思います。いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなるように――幼少期の経験による価値観から抜け出すのはなかなか難しいですね。戸田 そう思います。私は他者から同意を求められるとすぐに従ってしまうというか、「それは違うよ」がどうしても言えないところがあって。色々と発信したり活動したりしていると「意志が強い人間」だと思われることが多いんですけど、実はそうではなくって。――それは意外ですね。戸田 他者と1対1で話すときに自分の意見で話すことってほとんどないんです。とにかく向こうが求めている同意に、自分がどう思っていようと同意する、というコミュニケーションしかできないんだな、と思うことがよくあります。 相手にただ同意して「ああそうだよね、つらかったよね。あなたは悪くないよ」ということを繰り返していくと、いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなることが多くなってしまって。 するとこちらも余計に同意し続けるしかできなくなって、あるとき「自分の意見」が垣間見えてしまったときに「裏切られた、あなたはそんな人だと思わなかった」という風に関係性が破綻してしまうみたいなことが……。――ただただ同意や同調をしてくれる相手がほしい人からすれば、近づきやすいというか。戸田 そうですね、真夜中とかに連絡があっても絶対返してしまったり、次の日が早いのに相手の愚痴をずっと聞いてしまうとか。「ちょっと今日は寝るね」とか「ちょっとごめんね」がいまだに言えないというのは、自分にとってかなりの生きづらさになっているように思います。――宗教団体の方から、今でも戸田さんご自身に勧誘があったり接点があったりはするんでしょうか。戸田 選挙のたびに必ず母親から連絡がありました。今は親にも住所を言っていないので、突然家に来られるとかそういったことはなくなりましたね。――私の知人で宗教2世の方は、親がその方の住所を宗教側に教えてしまうので、ひとりで引っ越しても家まで宗教関係の方が訪問にきてしまってトラブルになっていました。戸田 あ、もしかしたらそれで何度も住所を聞いてくるのかな。家の間取りや家賃なんかを知られるのが嫌で教えていないんですけど……。家庭環境の“おかしさ”に気づいたきっかけ――生い立ちをお伺いしてきて、子どもの頃からかなり生きづらかった部分があったのではないかと思うのですが、誰かに相談しようとか、助けを求めようと思ったことはありませんでしたか?戸田 なかったです。それがおかしなことだと、ずいぶん大人になるまで気付かなかったので。 なんとなく「この家の人たちは私と合わないんだな」と思って、高校を卒業するときにわざと実家からギリギリ通えない大学に夜間で入学したんです。そうすると終電がなくなる関係上、1人暮らしをする口実になるという理由で。 それで実家を離れてみたら、だんだん友達ができていって、そうすると「あの環境は変だったんだ」とわかってくるというか。それが成人してからだったので、逆にそれまで気付けなかったというのが恐ろしいですね。――学費や生活費はどうやって工面していましたか。戸田 学費は全部奨学金でした。生活費は、夜勤のアルバイトをして賄っていました。奨学金は満額と、生活費の足しにできるくらい借りていたから結構な額になってしまって。 私、自分が自分として、明日も生きていくという意識が本当にないんです。心と体が乖離しているような感覚がずっとあるんですね。 だから大学時代は「借金めっちゃあるな、でもちょっとわかんない」みたいな状態で。ただ、AV女優の仕事で全額返済できたので、それはよかったです。撮影=杉山拓也/文藝春秋「育った環境の影響で、性的なコンプレックスがあった」宗教3世の元AV女優が語る、機能不全家庭で感じていた“教育格差” へ続く(吉川 ばんび)
――戸田さんご自身はその宗教の信者というわけではないのでしょうか。
戸田 形式上、まだ信者ということになっているかもしれません。通常、信者の家に子どもが生まれたら、その子も名簿に入れられてしまうらしいので。
脱退の仕方を調べたこともありますが、熱心な信者である親に脱退を切り出すのは、今よりさらに関係が悪化するおそれがあり、なかなか踏み出せずにいます。
――ご自身の意思に関係なく、生まれた瞬間から信者として扱われてしまう可能性があるということですね。戸田 ひどいですよね。母親は、私がテストでいい点を取ると、御本尊のようなものに向かってお礼を言うんです。でも成長するにつれて「私がいい点を取ったのはママが祈ったからじゃなくて、私ががんばったからなのに」とか「ママが同じように祈っていたお姉ちゃんは同じ点を取っていなかったよね」とか、子どもながらに矛盾に気が付くようになって。 土日になると、近所の信者の人が宗教の会合の勧誘にくるんですね。そのときに「テスト勉強をしたいので行きません」なんて言ったりするとすごく怒られるんですよ。その宗教の会合では、みんなが尊敬している「先生」が「勉学に励め」と言っているのに。――それが中学生くらいの頃だったんですね。戸田 そうです。納得できないので、母親ならわかってくれるだろうと「私はテスト勉強をしたいと思ったから断ったのにあんなに怒るなんて、変じゃない?」と言うと、母親は「いや、その人たちはいい人たちだよ。あなたのために言ってくれてるんだよ」と返してきたり。 そういう「あれ?」と思うことが少しずつ増えていって、不信感みたいなものが次第に出てきてしまったんです。 それが積み重なって、だんだんと母親や父親の主張に対抗できるようになっていって。自分の性格上、「言わずにいること」ができないので。「これ変だよね」と思ったことを1つ1つ言っていったら、親から次第に「ヤバイやつ」みたいな扱いになって。でも「ヤバイと思われたほうがいいんだろうな」と思うようにもなって、家の中で理解されることは諦めました。母親から「臭い!」と言われていたことが“生きづらさ”に――そういう子ども時代のなかで、当時、何か支えになっていたものはありましたか。戸田 私、ノートを常に持っているようにしていて。すべての「これは変じゃないか」と思ったことが誰にも伝わらない、逆にすごく怒られたりするようなことが続いたりすると、一旦他人に伝えようとするのをやめる方向にいくんですね。 でも、考えるのをやめることはできなくって。そうすれば、なかったことになってしまうから。 だからそれをノートに書くんです。単純に「この世の中はどうなっているのか」とか「自分が何を思ったのか」と探求することが自分にとっての喜びなので、自分に向けて書く。――ノートの中の自分と会話をして思考整理をしているような感覚でしょうか。戸田 意識的にイマジナリーフレンドみたいなものを自分の中に作っていて。そんな風にしていると助かる瞬間があるというか、自分の頭の中が行き止まりにならずに済んだんです。 自分に話しかけて、同意してもらったり、叱咤してもらったり、そういうことをとにかく繰り返していました。それが一番の支えだったと思います。――戸田さんはご自身が育たれた環境によって今も苦しんでいるものや、抱えている生きづらさ的なことがあったりするのでしょうか。戸田 多分めちゃくちゃあります。母親がすごく、においについて言う人で。――におい?戸田 外から帰ってくると「臭い!」みたいなことを言われるんです。多分それは母親がずっと家にいるから、家の中のにおいしか嗅いでいないとか、いろいろ理由はあったと思うんですが。 あとは父親の体臭をとても嫌っているので、それが私たちに遺伝しているために自分とは異質なにおいがしていたのか、わからないんですけど。母親は全然お風呂に入らない人なのに「自分は絶対に綺麗」という確信があって。でも私が学校から帰ったりすると「すごく臭いから早く服を全部脱いで」と言われたりするんです。AV女優としてデビューしたことで意識が変化――とにかく、体臭について言われることが異常に多かったと。戸田 はい。そのおかげで今も人に近づくと「臭い」と思われるんじゃないかと怖かったり、汗のにおいなどを過剰に気にしてしまったり。 そういう意識が、他者とのコミュニケーションに大いに影響したなと思います。思春期にどうしても恋愛というものに踏み出せなかったり、「好きだな」と思っても「でもこれ以上近づいたら臭いし、嫌われるよな」という感覚がとても強かったというか。――そういった意識が薄れた瞬間やきっかけはあるんでしょうか。戸田 AV女優としてデビューしたことは大きかったかもしれません。撮影のときって、めちゃくちゃシャワーを浴びるんですよ。1日に何人か男優さんが来て、チャプター毎に撮っていくたびに必ずシャワーを浴びるので「常に全員が清潔」「常にボディーソープの香り」みたいな感じで。 検査も徹底しているし「絶対に病気を持っていません、健康です、風邪も引いていません、全部洗いました、歯も全部磨いた直後です、はいスタート」という世界なので。――戸田さんはAV女優になるまで性行為の経験がなかったということですが、それもにおいに関する過剰な意識ゆえのものだったのでしょうか。戸田 そういう現場じゃないと、性的な経験をするのが難しかったんだろうなとは思います。逆に言うと、そうやって仕事を繰り返していくなかでどんどん自分自身が無味無臭になっていく感覚がしたというか。「あ、特別におうわけじゃなかったんだ」「ちゃんと洗えば大丈夫だったんだ」という意識が芽生えていって。だから今は、そんなに気にせず済んでいるんだと思います。いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなるように――幼少期の経験による価値観から抜け出すのはなかなか難しいですね。戸田 そう思います。私は他者から同意を求められるとすぐに従ってしまうというか、「それは違うよ」がどうしても言えないところがあって。色々と発信したり活動したりしていると「意志が強い人間」だと思われることが多いんですけど、実はそうではなくって。――それは意外ですね。戸田 他者と1対1で話すときに自分の意見で話すことってほとんどないんです。とにかく向こうが求めている同意に、自分がどう思っていようと同意する、というコミュニケーションしかできないんだな、と思うことがよくあります。 相手にただ同意して「ああそうだよね、つらかったよね。あなたは悪くないよ」ということを繰り返していくと、いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなることが多くなってしまって。 するとこちらも余計に同意し続けるしかできなくなって、あるとき「自分の意見」が垣間見えてしまったときに「裏切られた、あなたはそんな人だと思わなかった」という風に関係性が破綻してしまうみたいなことが……。――ただただ同意や同調をしてくれる相手がほしい人からすれば、近づきやすいというか。戸田 そうですね、真夜中とかに連絡があっても絶対返してしまったり、次の日が早いのに相手の愚痴をずっと聞いてしまうとか。「ちょっと今日は寝るね」とか「ちょっとごめんね」がいまだに言えないというのは、自分にとってかなりの生きづらさになっているように思います。――宗教団体の方から、今でも戸田さんご自身に勧誘があったり接点があったりはするんでしょうか。戸田 選挙のたびに必ず母親から連絡がありました。今は親にも住所を言っていないので、突然家に来られるとかそういったことはなくなりましたね。――私の知人で宗教2世の方は、親がその方の住所を宗教側に教えてしまうので、ひとりで引っ越しても家まで宗教関係の方が訪問にきてしまってトラブルになっていました。戸田 あ、もしかしたらそれで何度も住所を聞いてくるのかな。家の間取りや家賃なんかを知られるのが嫌で教えていないんですけど……。家庭環境の“おかしさ”に気づいたきっかけ――生い立ちをお伺いしてきて、子どもの頃からかなり生きづらかった部分があったのではないかと思うのですが、誰かに相談しようとか、助けを求めようと思ったことはありませんでしたか?戸田 なかったです。それがおかしなことだと、ずいぶん大人になるまで気付かなかったので。 なんとなく「この家の人たちは私と合わないんだな」と思って、高校を卒業するときにわざと実家からギリギリ通えない大学に夜間で入学したんです。そうすると終電がなくなる関係上、1人暮らしをする口実になるという理由で。 それで実家を離れてみたら、だんだん友達ができていって、そうすると「あの環境は変だったんだ」とわかってくるというか。それが成人してからだったので、逆にそれまで気付けなかったというのが恐ろしいですね。――学費や生活費はどうやって工面していましたか。戸田 学費は全部奨学金でした。生活費は、夜勤のアルバイトをして賄っていました。奨学金は満額と、生活費の足しにできるくらい借りていたから結構な額になってしまって。 私、自分が自分として、明日も生きていくという意識が本当にないんです。心と体が乖離しているような感覚がずっとあるんですね。 だから大学時代は「借金めっちゃあるな、でもちょっとわかんない」みたいな状態で。ただ、AV女優の仕事で全額返済できたので、それはよかったです。撮影=杉山拓也/文藝春秋「育った環境の影響で、性的なコンプレックスがあった」宗教3世の元AV女優が語る、機能不全家庭で感じていた“教育格差” へ続く(吉川 ばんび)
――ご自身の意思に関係なく、生まれた瞬間から信者として扱われてしまう可能性があるということですね。
戸田 ひどいですよね。母親は、私がテストでいい点を取ると、御本尊のようなものに向かってお礼を言うんです。でも成長するにつれて「私がいい点を取ったのはママが祈ったからじゃなくて、私ががんばったからなのに」とか「ママが同じように祈っていたお姉ちゃんは同じ点を取っていなかったよね」とか、子どもながらに矛盾に気が付くようになって。
土日になると、近所の信者の人が宗教の会合の勧誘にくるんですね。そのときに「テスト勉強をしたいので行きません」なんて言ったりするとすごく怒られるんですよ。その宗教の会合では、みんなが尊敬している「先生」が「勉学に励め」と言っているのに。
――それが中学生くらいの頃だったんですね。
戸田 そうです。納得できないので、母親ならわかってくれるだろうと「私はテスト勉強をしたいと思ったから断ったのにあんなに怒るなんて、変じゃない?」と言うと、母親は「いや、その人たちはいい人たちだよ。あなたのために言ってくれてるんだよ」と返してきたり。
そういう「あれ?」と思うことが少しずつ増えていって、不信感みたいなものが次第に出てきてしまったんです。
それが積み重なって、だんだんと母親や父親の主張に対抗できるようになっていって。自分の性格上、「言わずにいること」ができないので。「これ変だよね」と思ったことを1つ1つ言っていったら、親から次第に「ヤバイやつ」みたいな扱いになって。でも「ヤバイと思われたほうがいいんだろうな」と思うようにもなって、家の中で理解されることは諦めました。母親から「臭い!」と言われていたことが“生きづらさ”に――そういう子ども時代のなかで、当時、何か支えになっていたものはありましたか。戸田 私、ノートを常に持っているようにしていて。すべての「これは変じゃないか」と思ったことが誰にも伝わらない、逆にすごく怒られたりするようなことが続いたりすると、一旦他人に伝えようとするのをやめる方向にいくんですね。 でも、考えるのをやめることはできなくって。そうすれば、なかったことになってしまうから。 だからそれをノートに書くんです。単純に「この世の中はどうなっているのか」とか「自分が何を思ったのか」と探求することが自分にとっての喜びなので、自分に向けて書く。――ノートの中の自分と会話をして思考整理をしているような感覚でしょうか。戸田 意識的にイマジナリーフレンドみたいなものを自分の中に作っていて。そんな風にしていると助かる瞬間があるというか、自分の頭の中が行き止まりにならずに済んだんです。 自分に話しかけて、同意してもらったり、叱咤してもらったり、そういうことをとにかく繰り返していました。それが一番の支えだったと思います。――戸田さんはご自身が育たれた環境によって今も苦しんでいるものや、抱えている生きづらさ的なことがあったりするのでしょうか。戸田 多分めちゃくちゃあります。母親がすごく、においについて言う人で。――におい?戸田 外から帰ってくると「臭い!」みたいなことを言われるんです。多分それは母親がずっと家にいるから、家の中のにおいしか嗅いでいないとか、いろいろ理由はあったと思うんですが。 あとは父親の体臭をとても嫌っているので、それが私たちに遺伝しているために自分とは異質なにおいがしていたのか、わからないんですけど。母親は全然お風呂に入らない人なのに「自分は絶対に綺麗」という確信があって。でも私が学校から帰ったりすると「すごく臭いから早く服を全部脱いで」と言われたりするんです。AV女優としてデビューしたことで意識が変化――とにかく、体臭について言われることが異常に多かったと。戸田 はい。そのおかげで今も人に近づくと「臭い」と思われるんじゃないかと怖かったり、汗のにおいなどを過剰に気にしてしまったり。 そういう意識が、他者とのコミュニケーションに大いに影響したなと思います。思春期にどうしても恋愛というものに踏み出せなかったり、「好きだな」と思っても「でもこれ以上近づいたら臭いし、嫌われるよな」という感覚がとても強かったというか。――そういった意識が薄れた瞬間やきっかけはあるんでしょうか。戸田 AV女優としてデビューしたことは大きかったかもしれません。撮影のときって、めちゃくちゃシャワーを浴びるんですよ。1日に何人か男優さんが来て、チャプター毎に撮っていくたびに必ずシャワーを浴びるので「常に全員が清潔」「常にボディーソープの香り」みたいな感じで。 検査も徹底しているし「絶対に病気を持っていません、健康です、風邪も引いていません、全部洗いました、歯も全部磨いた直後です、はいスタート」という世界なので。――戸田さんはAV女優になるまで性行為の経験がなかったということですが、それもにおいに関する過剰な意識ゆえのものだったのでしょうか。戸田 そういう現場じゃないと、性的な経験をするのが難しかったんだろうなとは思います。逆に言うと、そうやって仕事を繰り返していくなかでどんどん自分自身が無味無臭になっていく感覚がしたというか。「あ、特別におうわけじゃなかったんだ」「ちゃんと洗えば大丈夫だったんだ」という意識が芽生えていって。だから今は、そんなに気にせず済んでいるんだと思います。いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなるように――幼少期の経験による価値観から抜け出すのはなかなか難しいですね。戸田 そう思います。私は他者から同意を求められるとすぐに従ってしまうというか、「それは違うよ」がどうしても言えないところがあって。色々と発信したり活動したりしていると「意志が強い人間」だと思われることが多いんですけど、実はそうではなくって。――それは意外ですね。戸田 他者と1対1で話すときに自分の意見で話すことってほとんどないんです。とにかく向こうが求めている同意に、自分がどう思っていようと同意する、というコミュニケーションしかできないんだな、と思うことがよくあります。 相手にただ同意して「ああそうだよね、つらかったよね。あなたは悪くないよ」ということを繰り返していくと、いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなることが多くなってしまって。 するとこちらも余計に同意し続けるしかできなくなって、あるとき「自分の意見」が垣間見えてしまったときに「裏切られた、あなたはそんな人だと思わなかった」という風に関係性が破綻してしまうみたいなことが……。――ただただ同意や同調をしてくれる相手がほしい人からすれば、近づきやすいというか。戸田 そうですね、真夜中とかに連絡があっても絶対返してしまったり、次の日が早いのに相手の愚痴をずっと聞いてしまうとか。「ちょっと今日は寝るね」とか「ちょっとごめんね」がいまだに言えないというのは、自分にとってかなりの生きづらさになっているように思います。――宗教団体の方から、今でも戸田さんご自身に勧誘があったり接点があったりはするんでしょうか。戸田 選挙のたびに必ず母親から連絡がありました。今は親にも住所を言っていないので、突然家に来られるとかそういったことはなくなりましたね。――私の知人で宗教2世の方は、親がその方の住所を宗教側に教えてしまうので、ひとりで引っ越しても家まで宗教関係の方が訪問にきてしまってトラブルになっていました。戸田 あ、もしかしたらそれで何度も住所を聞いてくるのかな。家の間取りや家賃なんかを知られるのが嫌で教えていないんですけど……。家庭環境の“おかしさ”に気づいたきっかけ――生い立ちをお伺いしてきて、子どもの頃からかなり生きづらかった部分があったのではないかと思うのですが、誰かに相談しようとか、助けを求めようと思ったことはありませんでしたか?戸田 なかったです。それがおかしなことだと、ずいぶん大人になるまで気付かなかったので。 なんとなく「この家の人たちは私と合わないんだな」と思って、高校を卒業するときにわざと実家からギリギリ通えない大学に夜間で入学したんです。そうすると終電がなくなる関係上、1人暮らしをする口実になるという理由で。 それで実家を離れてみたら、だんだん友達ができていって、そうすると「あの環境は変だったんだ」とわかってくるというか。それが成人してからだったので、逆にそれまで気付けなかったというのが恐ろしいですね。――学費や生活費はどうやって工面していましたか。戸田 学費は全部奨学金でした。生活費は、夜勤のアルバイトをして賄っていました。奨学金は満額と、生活費の足しにできるくらい借りていたから結構な額になってしまって。 私、自分が自分として、明日も生きていくという意識が本当にないんです。心と体が乖離しているような感覚がずっとあるんですね。 だから大学時代は「借金めっちゃあるな、でもちょっとわかんない」みたいな状態で。ただ、AV女優の仕事で全額返済できたので、それはよかったです。撮影=杉山拓也/文藝春秋「育った環境の影響で、性的なコンプレックスがあった」宗教3世の元AV女優が語る、機能不全家庭で感じていた“教育格差” へ続く(吉川 ばんび)
それが積み重なって、だんだんと母親や父親の主張に対抗できるようになっていって。自分の性格上、「言わずにいること」ができないので。「これ変だよね」と思ったことを1つ1つ言っていったら、親から次第に「ヤバイやつ」みたいな扱いになって。でも「ヤバイと思われたほうがいいんだろうな」と思うようにもなって、家の中で理解されることは諦めました。
――そういう子ども時代のなかで、当時、何か支えになっていたものはありましたか。
戸田 私、ノートを常に持っているようにしていて。すべての「これは変じゃないか」と思ったことが誰にも伝わらない、逆にすごく怒られたりするようなことが続いたりすると、一旦他人に伝えようとするのをやめる方向にいくんですね。
でも、考えるのをやめることはできなくって。そうすれば、なかったことになってしまうから。
だからそれをノートに書くんです。単純に「この世の中はどうなっているのか」とか「自分が何を思ったのか」と探求することが自分にとっての喜びなので、自分に向けて書く。
――ノートの中の自分と会話をして思考整理をしているような感覚でしょうか。戸田 意識的にイマジナリーフレンドみたいなものを自分の中に作っていて。そんな風にしていると助かる瞬間があるというか、自分の頭の中が行き止まりにならずに済んだんです。 自分に話しかけて、同意してもらったり、叱咤してもらったり、そういうことをとにかく繰り返していました。それが一番の支えだったと思います。――戸田さんはご自身が育たれた環境によって今も苦しんでいるものや、抱えている生きづらさ的なことがあったりするのでしょうか。戸田 多分めちゃくちゃあります。母親がすごく、においについて言う人で。――におい?戸田 外から帰ってくると「臭い!」みたいなことを言われるんです。多分それは母親がずっと家にいるから、家の中のにおいしか嗅いでいないとか、いろいろ理由はあったと思うんですが。 あとは父親の体臭をとても嫌っているので、それが私たちに遺伝しているために自分とは異質なにおいがしていたのか、わからないんですけど。母親は全然お風呂に入らない人なのに「自分は絶対に綺麗」という確信があって。でも私が学校から帰ったりすると「すごく臭いから早く服を全部脱いで」と言われたりするんです。AV女優としてデビューしたことで意識が変化――とにかく、体臭について言われることが異常に多かったと。戸田 はい。そのおかげで今も人に近づくと「臭い」と思われるんじゃないかと怖かったり、汗のにおいなどを過剰に気にしてしまったり。 そういう意識が、他者とのコミュニケーションに大いに影響したなと思います。思春期にどうしても恋愛というものに踏み出せなかったり、「好きだな」と思っても「でもこれ以上近づいたら臭いし、嫌われるよな」という感覚がとても強かったというか。――そういった意識が薄れた瞬間やきっかけはあるんでしょうか。戸田 AV女優としてデビューしたことは大きかったかもしれません。撮影のときって、めちゃくちゃシャワーを浴びるんですよ。1日に何人か男優さんが来て、チャプター毎に撮っていくたびに必ずシャワーを浴びるので「常に全員が清潔」「常にボディーソープの香り」みたいな感じで。 検査も徹底しているし「絶対に病気を持っていません、健康です、風邪も引いていません、全部洗いました、歯も全部磨いた直後です、はいスタート」という世界なので。――戸田さんはAV女優になるまで性行為の経験がなかったということですが、それもにおいに関する過剰な意識ゆえのものだったのでしょうか。戸田 そういう現場じゃないと、性的な経験をするのが難しかったんだろうなとは思います。逆に言うと、そうやって仕事を繰り返していくなかでどんどん自分自身が無味無臭になっていく感覚がしたというか。「あ、特別におうわけじゃなかったんだ」「ちゃんと洗えば大丈夫だったんだ」という意識が芽生えていって。だから今は、そんなに気にせず済んでいるんだと思います。いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなるように――幼少期の経験による価値観から抜け出すのはなかなか難しいですね。戸田 そう思います。私は他者から同意を求められるとすぐに従ってしまうというか、「それは違うよ」がどうしても言えないところがあって。色々と発信したり活動したりしていると「意志が強い人間」だと思われることが多いんですけど、実はそうではなくって。――それは意外ですね。戸田 他者と1対1で話すときに自分の意見で話すことってほとんどないんです。とにかく向こうが求めている同意に、自分がどう思っていようと同意する、というコミュニケーションしかできないんだな、と思うことがよくあります。 相手にただ同意して「ああそうだよね、つらかったよね。あなたは悪くないよ」ということを繰り返していくと、いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなることが多くなってしまって。 するとこちらも余計に同意し続けるしかできなくなって、あるとき「自分の意見」が垣間見えてしまったときに「裏切られた、あなたはそんな人だと思わなかった」という風に関係性が破綻してしまうみたいなことが……。――ただただ同意や同調をしてくれる相手がほしい人からすれば、近づきやすいというか。戸田 そうですね、真夜中とかに連絡があっても絶対返してしまったり、次の日が早いのに相手の愚痴をずっと聞いてしまうとか。「ちょっと今日は寝るね」とか「ちょっとごめんね」がいまだに言えないというのは、自分にとってかなりの生きづらさになっているように思います。――宗教団体の方から、今でも戸田さんご自身に勧誘があったり接点があったりはするんでしょうか。戸田 選挙のたびに必ず母親から連絡がありました。今は親にも住所を言っていないので、突然家に来られるとかそういったことはなくなりましたね。――私の知人で宗教2世の方は、親がその方の住所を宗教側に教えてしまうので、ひとりで引っ越しても家まで宗教関係の方が訪問にきてしまってトラブルになっていました。戸田 あ、もしかしたらそれで何度も住所を聞いてくるのかな。家の間取りや家賃なんかを知られるのが嫌で教えていないんですけど……。家庭環境の“おかしさ”に気づいたきっかけ――生い立ちをお伺いしてきて、子どもの頃からかなり生きづらかった部分があったのではないかと思うのですが、誰かに相談しようとか、助けを求めようと思ったことはありませんでしたか?戸田 なかったです。それがおかしなことだと、ずいぶん大人になるまで気付かなかったので。 なんとなく「この家の人たちは私と合わないんだな」と思って、高校を卒業するときにわざと実家からギリギリ通えない大学に夜間で入学したんです。そうすると終電がなくなる関係上、1人暮らしをする口実になるという理由で。 それで実家を離れてみたら、だんだん友達ができていって、そうすると「あの環境は変だったんだ」とわかってくるというか。それが成人してからだったので、逆にそれまで気付けなかったというのが恐ろしいですね。――学費や生活費はどうやって工面していましたか。戸田 学費は全部奨学金でした。生活費は、夜勤のアルバイトをして賄っていました。奨学金は満額と、生活費の足しにできるくらい借りていたから結構な額になってしまって。 私、自分が自分として、明日も生きていくという意識が本当にないんです。心と体が乖離しているような感覚がずっとあるんですね。 だから大学時代は「借金めっちゃあるな、でもちょっとわかんない」みたいな状態で。ただ、AV女優の仕事で全額返済できたので、それはよかったです。撮影=杉山拓也/文藝春秋「育った環境の影響で、性的なコンプレックスがあった」宗教3世の元AV女優が語る、機能不全家庭で感じていた“教育格差” へ続く(吉川 ばんび)
――ノートの中の自分と会話をして思考整理をしているような感覚でしょうか。
戸田 意識的にイマジナリーフレンドみたいなものを自分の中に作っていて。そんな風にしていると助かる瞬間があるというか、自分の頭の中が行き止まりにならずに済んだんです。
自分に話しかけて、同意してもらったり、叱咤してもらったり、そういうことをとにかく繰り返していました。それが一番の支えだったと思います。
――戸田さんはご自身が育たれた環境によって今も苦しんでいるものや、抱えている生きづらさ的なことがあったりするのでしょうか。
戸田 多分めちゃくちゃあります。母親がすごく、においについて言う人で。
――におい?
戸田 外から帰ってくると「臭い!」みたいなことを言われるんです。多分それは母親がずっと家にいるから、家の中のにおいしか嗅いでいないとか、いろいろ理由はあったと思うんですが。
あとは父親の体臭をとても嫌っているので、それが私たちに遺伝しているために自分とは異質なにおいがしていたのか、わからないんですけど。母親は全然お風呂に入らない人なのに「自分は絶対に綺麗」という確信があって。でも私が学校から帰ったりすると「すごく臭いから早く服を全部脱いで」と言われたりするんです。
AV女優としてデビューしたことで意識が変化――とにかく、体臭について言われることが異常に多かったと。戸田 はい。そのおかげで今も人に近づくと「臭い」と思われるんじゃないかと怖かったり、汗のにおいなどを過剰に気にしてしまったり。 そういう意識が、他者とのコミュニケーションに大いに影響したなと思います。思春期にどうしても恋愛というものに踏み出せなかったり、「好きだな」と思っても「でもこれ以上近づいたら臭いし、嫌われるよな」という感覚がとても強かったというか。――そういった意識が薄れた瞬間やきっかけはあるんでしょうか。戸田 AV女優としてデビューしたことは大きかったかもしれません。撮影のときって、めちゃくちゃシャワーを浴びるんですよ。1日に何人か男優さんが来て、チャプター毎に撮っていくたびに必ずシャワーを浴びるので「常に全員が清潔」「常にボディーソープの香り」みたいな感じで。 検査も徹底しているし「絶対に病気を持っていません、健康です、風邪も引いていません、全部洗いました、歯も全部磨いた直後です、はいスタート」という世界なので。――戸田さんはAV女優になるまで性行為の経験がなかったということですが、それもにおいに関する過剰な意識ゆえのものだったのでしょうか。戸田 そういう現場じゃないと、性的な経験をするのが難しかったんだろうなとは思います。逆に言うと、そうやって仕事を繰り返していくなかでどんどん自分自身が無味無臭になっていく感覚がしたというか。「あ、特別におうわけじゃなかったんだ」「ちゃんと洗えば大丈夫だったんだ」という意識が芽生えていって。だから今は、そんなに気にせず済んでいるんだと思います。いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなるように――幼少期の経験による価値観から抜け出すのはなかなか難しいですね。戸田 そう思います。私は他者から同意を求められるとすぐに従ってしまうというか、「それは違うよ」がどうしても言えないところがあって。色々と発信したり活動したりしていると「意志が強い人間」だと思われることが多いんですけど、実はそうではなくって。――それは意外ですね。戸田 他者と1対1で話すときに自分の意見で話すことってほとんどないんです。とにかく向こうが求めている同意に、自分がどう思っていようと同意する、というコミュニケーションしかできないんだな、と思うことがよくあります。 相手にただ同意して「ああそうだよね、つらかったよね。あなたは悪くないよ」ということを繰り返していくと、いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなることが多くなってしまって。 するとこちらも余計に同意し続けるしかできなくなって、あるとき「自分の意見」が垣間見えてしまったときに「裏切られた、あなたはそんな人だと思わなかった」という風に関係性が破綻してしまうみたいなことが……。――ただただ同意や同調をしてくれる相手がほしい人からすれば、近づきやすいというか。戸田 そうですね、真夜中とかに連絡があっても絶対返してしまったり、次の日が早いのに相手の愚痴をずっと聞いてしまうとか。「ちょっと今日は寝るね」とか「ちょっとごめんね」がいまだに言えないというのは、自分にとってかなりの生きづらさになっているように思います。――宗教団体の方から、今でも戸田さんご自身に勧誘があったり接点があったりはするんでしょうか。戸田 選挙のたびに必ず母親から連絡がありました。今は親にも住所を言っていないので、突然家に来られるとかそういったことはなくなりましたね。――私の知人で宗教2世の方は、親がその方の住所を宗教側に教えてしまうので、ひとりで引っ越しても家まで宗教関係の方が訪問にきてしまってトラブルになっていました。戸田 あ、もしかしたらそれで何度も住所を聞いてくるのかな。家の間取りや家賃なんかを知られるのが嫌で教えていないんですけど……。家庭環境の“おかしさ”に気づいたきっかけ――生い立ちをお伺いしてきて、子どもの頃からかなり生きづらかった部分があったのではないかと思うのですが、誰かに相談しようとか、助けを求めようと思ったことはありませんでしたか?戸田 なかったです。それがおかしなことだと、ずいぶん大人になるまで気付かなかったので。 なんとなく「この家の人たちは私と合わないんだな」と思って、高校を卒業するときにわざと実家からギリギリ通えない大学に夜間で入学したんです。そうすると終電がなくなる関係上、1人暮らしをする口実になるという理由で。 それで実家を離れてみたら、だんだん友達ができていって、そうすると「あの環境は変だったんだ」とわかってくるというか。それが成人してからだったので、逆にそれまで気付けなかったというのが恐ろしいですね。――学費や生活費はどうやって工面していましたか。戸田 学費は全部奨学金でした。生活費は、夜勤のアルバイトをして賄っていました。奨学金は満額と、生活費の足しにできるくらい借りていたから結構な額になってしまって。 私、自分が自分として、明日も生きていくという意識が本当にないんです。心と体が乖離しているような感覚がずっとあるんですね。 だから大学時代は「借金めっちゃあるな、でもちょっとわかんない」みたいな状態で。ただ、AV女優の仕事で全額返済できたので、それはよかったです。撮影=杉山拓也/文藝春秋「育った環境の影響で、性的なコンプレックスがあった」宗教3世の元AV女優が語る、機能不全家庭で感じていた“教育格差” へ続く(吉川 ばんび)
――とにかく、体臭について言われることが異常に多かったと。
戸田 はい。そのおかげで今も人に近づくと「臭い」と思われるんじゃないかと怖かったり、汗のにおいなどを過剰に気にしてしまったり。
そういう意識が、他者とのコミュニケーションに大いに影響したなと思います。思春期にどうしても恋愛というものに踏み出せなかったり、「好きだな」と思っても「でもこれ以上近づいたら臭いし、嫌われるよな」という感覚がとても強かったというか。
――そういった意識が薄れた瞬間やきっかけはあるんでしょうか。
戸田 AV女優としてデビューしたことは大きかったかもしれません。撮影のときって、めちゃくちゃシャワーを浴びるんですよ。1日に何人か男優さんが来て、チャプター毎に撮っていくたびに必ずシャワーを浴びるので「常に全員が清潔」「常にボディーソープの香り」みたいな感じで。
検査も徹底しているし「絶対に病気を持っていません、健康です、風邪も引いていません、全部洗いました、歯も全部磨いた直後です、はいスタート」という世界なので。――戸田さんはAV女優になるまで性行為の経験がなかったということですが、それもにおいに関する過剰な意識ゆえのものだったのでしょうか。戸田 そういう現場じゃないと、性的な経験をするのが難しかったんだろうなとは思います。逆に言うと、そうやって仕事を繰り返していくなかでどんどん自分自身が無味無臭になっていく感覚がしたというか。「あ、特別におうわけじゃなかったんだ」「ちゃんと洗えば大丈夫だったんだ」という意識が芽生えていって。だから今は、そんなに気にせず済んでいるんだと思います。いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなるように――幼少期の経験による価値観から抜け出すのはなかなか難しいですね。戸田 そう思います。私は他者から同意を求められるとすぐに従ってしまうというか、「それは違うよ」がどうしても言えないところがあって。色々と発信したり活動したりしていると「意志が強い人間」だと思われることが多いんですけど、実はそうではなくって。――それは意外ですね。戸田 他者と1対1で話すときに自分の意見で話すことってほとんどないんです。とにかく向こうが求めている同意に、自分がどう思っていようと同意する、というコミュニケーションしかできないんだな、と思うことがよくあります。 相手にただ同意して「ああそうだよね、つらかったよね。あなたは悪くないよ」ということを繰り返していくと、いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなることが多くなってしまって。 するとこちらも余計に同意し続けるしかできなくなって、あるとき「自分の意見」が垣間見えてしまったときに「裏切られた、あなたはそんな人だと思わなかった」という風に関係性が破綻してしまうみたいなことが……。――ただただ同意や同調をしてくれる相手がほしい人からすれば、近づきやすいというか。戸田 そうですね、真夜中とかに連絡があっても絶対返してしまったり、次の日が早いのに相手の愚痴をずっと聞いてしまうとか。「ちょっと今日は寝るね」とか「ちょっとごめんね」がいまだに言えないというのは、自分にとってかなりの生きづらさになっているように思います。――宗教団体の方から、今でも戸田さんご自身に勧誘があったり接点があったりはするんでしょうか。戸田 選挙のたびに必ず母親から連絡がありました。今は親にも住所を言っていないので、突然家に来られるとかそういったことはなくなりましたね。――私の知人で宗教2世の方は、親がその方の住所を宗教側に教えてしまうので、ひとりで引っ越しても家まで宗教関係の方が訪問にきてしまってトラブルになっていました。戸田 あ、もしかしたらそれで何度も住所を聞いてくるのかな。家の間取りや家賃なんかを知られるのが嫌で教えていないんですけど……。家庭環境の“おかしさ”に気づいたきっかけ――生い立ちをお伺いしてきて、子どもの頃からかなり生きづらかった部分があったのではないかと思うのですが、誰かに相談しようとか、助けを求めようと思ったことはありませんでしたか?戸田 なかったです。それがおかしなことだと、ずいぶん大人になるまで気付かなかったので。 なんとなく「この家の人たちは私と合わないんだな」と思って、高校を卒業するときにわざと実家からギリギリ通えない大学に夜間で入学したんです。そうすると終電がなくなる関係上、1人暮らしをする口実になるという理由で。 それで実家を離れてみたら、だんだん友達ができていって、そうすると「あの環境は変だったんだ」とわかってくるというか。それが成人してからだったので、逆にそれまで気付けなかったというのが恐ろしいですね。――学費や生活費はどうやって工面していましたか。戸田 学費は全部奨学金でした。生活費は、夜勤のアルバイトをして賄っていました。奨学金は満額と、生活費の足しにできるくらい借りていたから結構な額になってしまって。 私、自分が自分として、明日も生きていくという意識が本当にないんです。心と体が乖離しているような感覚がずっとあるんですね。 だから大学時代は「借金めっちゃあるな、でもちょっとわかんない」みたいな状態で。ただ、AV女優の仕事で全額返済できたので、それはよかったです。撮影=杉山拓也/文藝春秋「育った環境の影響で、性的なコンプレックスがあった」宗教3世の元AV女優が語る、機能不全家庭で感じていた“教育格差” へ続く(吉川 ばんび)
検査も徹底しているし「絶対に病気を持っていません、健康です、風邪も引いていません、全部洗いました、歯も全部磨いた直後です、はいスタート」という世界なので。
――戸田さんはAV女優になるまで性行為の経験がなかったということですが、それもにおいに関する過剰な意識ゆえのものだったのでしょうか。
戸田 そういう現場じゃないと、性的な経験をするのが難しかったんだろうなとは思います。逆に言うと、そうやって仕事を繰り返していくなかでどんどん自分自身が無味無臭になっていく感覚がしたというか。
「あ、特別におうわけじゃなかったんだ」「ちゃんと洗えば大丈夫だったんだ」という意識が芽生えていって。だから今は、そんなに気にせず済んでいるんだと思います。
いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなるように――幼少期の経験による価値観から抜け出すのはなかなか難しいですね。戸田 そう思います。私は他者から同意を求められるとすぐに従ってしまうというか、「それは違うよ」がどうしても言えないところがあって。色々と発信したり活動したりしていると「意志が強い人間」だと思われることが多いんですけど、実はそうではなくって。――それは意外ですね。戸田 他者と1対1で話すときに自分の意見で話すことってほとんどないんです。とにかく向こうが求めている同意に、自分がどう思っていようと同意する、というコミュニケーションしかできないんだな、と思うことがよくあります。 相手にただ同意して「ああそうだよね、つらかったよね。あなたは悪くないよ」ということを繰り返していくと、いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなることが多くなってしまって。 するとこちらも余計に同意し続けるしかできなくなって、あるとき「自分の意見」が垣間見えてしまったときに「裏切られた、あなたはそんな人だと思わなかった」という風に関係性が破綻してしまうみたいなことが……。――ただただ同意や同調をしてくれる相手がほしい人からすれば、近づきやすいというか。戸田 そうですね、真夜中とかに連絡があっても絶対返してしまったり、次の日が早いのに相手の愚痴をずっと聞いてしまうとか。「ちょっと今日は寝るね」とか「ちょっとごめんね」がいまだに言えないというのは、自分にとってかなりの生きづらさになっているように思います。――宗教団体の方から、今でも戸田さんご自身に勧誘があったり接点があったりはするんでしょうか。戸田 選挙のたびに必ず母親から連絡がありました。今は親にも住所を言っていないので、突然家に来られるとかそういったことはなくなりましたね。――私の知人で宗教2世の方は、親がその方の住所を宗教側に教えてしまうので、ひとりで引っ越しても家まで宗教関係の方が訪問にきてしまってトラブルになっていました。戸田 あ、もしかしたらそれで何度も住所を聞いてくるのかな。家の間取りや家賃なんかを知られるのが嫌で教えていないんですけど……。家庭環境の“おかしさ”に気づいたきっかけ――生い立ちをお伺いしてきて、子どもの頃からかなり生きづらかった部分があったのではないかと思うのですが、誰かに相談しようとか、助けを求めようと思ったことはありませんでしたか?戸田 なかったです。それがおかしなことだと、ずいぶん大人になるまで気付かなかったので。 なんとなく「この家の人たちは私と合わないんだな」と思って、高校を卒業するときにわざと実家からギリギリ通えない大学に夜間で入学したんです。そうすると終電がなくなる関係上、1人暮らしをする口実になるという理由で。 それで実家を離れてみたら、だんだん友達ができていって、そうすると「あの環境は変だったんだ」とわかってくるというか。それが成人してからだったので、逆にそれまで気付けなかったというのが恐ろしいですね。――学費や生活費はどうやって工面していましたか。戸田 学費は全部奨学金でした。生活費は、夜勤のアルバイトをして賄っていました。奨学金は満額と、生活費の足しにできるくらい借りていたから結構な額になってしまって。 私、自分が自分として、明日も生きていくという意識が本当にないんです。心と体が乖離しているような感覚がずっとあるんですね。 だから大学時代は「借金めっちゃあるな、でもちょっとわかんない」みたいな状態で。ただ、AV女優の仕事で全額返済できたので、それはよかったです。撮影=杉山拓也/文藝春秋「育った環境の影響で、性的なコンプレックスがあった」宗教3世の元AV女優が語る、機能不全家庭で感じていた“教育格差” へ続く(吉川 ばんび)
――幼少期の経験による価値観から抜け出すのはなかなか難しいですね。
戸田 そう思います。私は他者から同意を求められるとすぐに従ってしまうというか、「それは違うよ」がどうしても言えないところがあって。色々と発信したり活動したりしていると「意志が強い人間」だと思われることが多いんですけど、実はそうではなくって。
――それは意外ですね。
戸田 他者と1対1で話すときに自分の意見で話すことってほとんどないんです。とにかく向こうが求めている同意に、自分がどう思っていようと同意する、というコミュニケーションしかできないんだな、と思うことがよくあります。
相手にただ同意して「ああそうだよね、つらかったよね。あなたは悪くないよ」ということを繰り返していくと、いつの間にか母親と似たタイプの人と付き合いが深くなることが多くなってしまって。
するとこちらも余計に同意し続けるしかできなくなって、あるとき「自分の意見」が垣間見えてしまったときに「裏切られた、あなたはそんな人だと思わなかった」という風に関係性が破綻してしまうみたいなことが……。
――ただただ同意や同調をしてくれる相手がほしい人からすれば、近づきやすいというか。戸田 そうですね、真夜中とかに連絡があっても絶対返してしまったり、次の日が早いのに相手の愚痴をずっと聞いてしまうとか。「ちょっと今日は寝るね」とか「ちょっとごめんね」がいまだに言えないというのは、自分にとってかなりの生きづらさになっているように思います。――宗教団体の方から、今でも戸田さんご自身に勧誘があったり接点があったりはするんでしょうか。戸田 選挙のたびに必ず母親から連絡がありました。今は親にも住所を言っていないので、突然家に来られるとかそういったことはなくなりましたね。――私の知人で宗教2世の方は、親がその方の住所を宗教側に教えてしまうので、ひとりで引っ越しても家まで宗教関係の方が訪問にきてしまってトラブルになっていました。戸田 あ、もしかしたらそれで何度も住所を聞いてくるのかな。家の間取りや家賃なんかを知られるのが嫌で教えていないんですけど……。家庭環境の“おかしさ”に気づいたきっかけ――生い立ちをお伺いしてきて、子どもの頃からかなり生きづらかった部分があったのではないかと思うのですが、誰かに相談しようとか、助けを求めようと思ったことはありませんでしたか?戸田 なかったです。それがおかしなことだと、ずいぶん大人になるまで気付かなかったので。 なんとなく「この家の人たちは私と合わないんだな」と思って、高校を卒業するときにわざと実家からギリギリ通えない大学に夜間で入学したんです。そうすると終電がなくなる関係上、1人暮らしをする口実になるという理由で。 それで実家を離れてみたら、だんだん友達ができていって、そうすると「あの環境は変だったんだ」とわかってくるというか。それが成人してからだったので、逆にそれまで気付けなかったというのが恐ろしいですね。――学費や生活費はどうやって工面していましたか。戸田 学費は全部奨学金でした。生活費は、夜勤のアルバイトをして賄っていました。奨学金は満額と、生活費の足しにできるくらい借りていたから結構な額になってしまって。 私、自分が自分として、明日も生きていくという意識が本当にないんです。心と体が乖離しているような感覚がずっとあるんですね。 だから大学時代は「借金めっちゃあるな、でもちょっとわかんない」みたいな状態で。ただ、AV女優の仕事で全額返済できたので、それはよかったです。撮影=杉山拓也/文藝春秋「育った環境の影響で、性的なコンプレックスがあった」宗教3世の元AV女優が語る、機能不全家庭で感じていた“教育格差” へ続く(吉川 ばんび)
――ただただ同意や同調をしてくれる相手がほしい人からすれば、近づきやすいというか。
戸田 そうですね、真夜中とかに連絡があっても絶対返してしまったり、次の日が早いのに相手の愚痴をずっと聞いてしまうとか。「ちょっと今日は寝るね」とか「ちょっとごめんね」がいまだに言えないというのは、自分にとってかなりの生きづらさになっているように思います。
――宗教団体の方から、今でも戸田さんご自身に勧誘があったり接点があったりはするんでしょうか。
戸田 選挙のたびに必ず母親から連絡がありました。今は親にも住所を言っていないので、突然家に来られるとかそういったことはなくなりましたね。
――私の知人で宗教2世の方は、親がその方の住所を宗教側に教えてしまうので、ひとりで引っ越しても家まで宗教関係の方が訪問にきてしまってトラブルになっていました。
戸田 あ、もしかしたらそれで何度も住所を聞いてくるのかな。家の間取りや家賃なんかを知られるのが嫌で教えていないんですけど……。
家庭環境の“おかしさ”に気づいたきっかけ――生い立ちをお伺いしてきて、子どもの頃からかなり生きづらかった部分があったのではないかと思うのですが、誰かに相談しようとか、助けを求めようと思ったことはありませんでしたか?戸田 なかったです。それがおかしなことだと、ずいぶん大人になるまで気付かなかったので。 なんとなく「この家の人たちは私と合わないんだな」と思って、高校を卒業するときにわざと実家からギリギリ通えない大学に夜間で入学したんです。そうすると終電がなくなる関係上、1人暮らしをする口実になるという理由で。 それで実家を離れてみたら、だんだん友達ができていって、そうすると「あの環境は変だったんだ」とわかってくるというか。それが成人してからだったので、逆にそれまで気付けなかったというのが恐ろしいですね。――学費や生活費はどうやって工面していましたか。戸田 学費は全部奨学金でした。生活費は、夜勤のアルバイトをして賄っていました。奨学金は満額と、生活費の足しにできるくらい借りていたから結構な額になってしまって。 私、自分が自分として、明日も生きていくという意識が本当にないんです。心と体が乖離しているような感覚がずっとあるんですね。 だから大学時代は「借金めっちゃあるな、でもちょっとわかんない」みたいな状態で。ただ、AV女優の仕事で全額返済できたので、それはよかったです。撮影=杉山拓也/文藝春秋「育った環境の影響で、性的なコンプレックスがあった」宗教3世の元AV女優が語る、機能不全家庭で感じていた“教育格差” へ続く(吉川 ばんび)
――生い立ちをお伺いしてきて、子どもの頃からかなり生きづらかった部分があったのではないかと思うのですが、誰かに相談しようとか、助けを求めようと思ったことはありませんでしたか?
戸田 なかったです。それがおかしなことだと、ずいぶん大人になるまで気付かなかったので。
なんとなく「この家の人たちは私と合わないんだな」と思って、高校を卒業するときにわざと実家からギリギリ通えない大学に夜間で入学したんです。そうすると終電がなくなる関係上、1人暮らしをする口実になるという理由で。
それで実家を離れてみたら、だんだん友達ができていって、そうすると「あの環境は変だったんだ」とわかってくるというか。それが成人してからだったので、逆にそれまで気付けなかったというのが恐ろしいですね。
――学費や生活費はどうやって工面していましたか。戸田 学費は全部奨学金でした。生活費は、夜勤のアルバイトをして賄っていました。奨学金は満額と、生活費の足しにできるくらい借りていたから結構な額になってしまって。 私、自分が自分として、明日も生きていくという意識が本当にないんです。心と体が乖離しているような感覚がずっとあるんですね。 だから大学時代は「借金めっちゃあるな、でもちょっとわかんない」みたいな状態で。ただ、AV女優の仕事で全額返済できたので、それはよかったです。撮影=杉山拓也/文藝春秋「育った環境の影響で、性的なコンプレックスがあった」宗教3世の元AV女優が語る、機能不全家庭で感じていた“教育格差” へ続く(吉川 ばんび)
――学費や生活費はどうやって工面していましたか。
戸田 学費は全部奨学金でした。生活費は、夜勤のアルバイトをして賄っていました。奨学金は満額と、生活費の足しにできるくらい借りていたから結構な額になってしまって。
私、自分が自分として、明日も生きていくという意識が本当にないんです。心と体が乖離しているような感覚がずっとあるんですね。
だから大学時代は「借金めっちゃあるな、でもちょっとわかんない」みたいな状態で。ただ、AV女優の仕事で全額返済できたので、それはよかったです。
撮影=杉山拓也/文藝春秋「育った環境の影響で、性的なコンプレックスがあった」宗教3世の元AV女優が語る、機能不全家庭で感じていた“教育格差” へ続く(吉川 ばんび)
「育った環境の影響で、性的なコンプレックスがあった」宗教3世の元AV女優が語る、機能不全家庭で感じていた“教育格差” へ続く
(吉川 ばんび)