コロナ禍における非接触ニーズに応える販売スタイルとしてフードの無人販売店が注目を集め、その店数は急増している。冷凍餃子の無人販売チェーンである「餃子の雪松」は、これまでに沖縄県を除く46都道府県に430店を展開。その急成長ぶりに目を着け、雨後の筍のように類似チェーンが全国各地で続出したのは周知の通りだ。
冷凍餃子の無人販売マーケットはすでに成熟期に突入しており、ここ1年間は餃子以外の無人販売チェーンの台頭が著しい。
「24h無人ホルモン直売所」と「おウチdeお肉」は冷凍精肉・ホルモンを取り扱う無人販売チェーンで、店数はそれぞれ135店、128店。九州の居酒屋チェーン「博多一番どり居食屋あらい」は冷凍焼鳥の無人販売店を32店出店しており、その他にも馬肉、パン、スイーツ、ご当地グルメなどさまざまな冷凍食品の無人販売店が誕生している。
無人販売店の特色は「ローリスクローリターン」のビジネスモデルだ。初期投資がリーズナブルで、人件費がほとんどかからないのでランニングコストも低い。利益幅は小さいものの、赤字にもなりにくいことが不安定な経済環境下で好感されているのだが、一方で気になるのが「万引き被害」だろう。
防犯カメラにおさめられた万引きの生々しい映像をテレビニュースなどで目にすることも増えたが、果たしてどれほど被害が出ているのか実態は謎に包まれている。この疑問を前述した4チェーンにぶつけてみたところ、その答えはチェーンによって大きく分かれた。
「目立った万引きの被害はない」と答えたのが「餃子の雪松」と「博多一番どり居食屋あらい 無人販売所」。一方、「24h無人ホルモン直売所」は「出店する立地やエリアによって被害状況は変わる」という返答で、「おウチdeお肉」は「万引き被害は避けられない。それにどう対峙するかが大事」だと回答した。
万引き被害を「出店する立地やエリアによる」と返答した24h無人ホルモン直売所を展開する合同会社イートライン代表の伊藤一樹氏は次のように説明する。
「東京や大阪など大都市圏にある店は万引きの被害が多く、都道府県別で見ると県庁所在地に近づくほど万引きの件数が増えます。人口密度が高まると万引き被害も増えるということですが、これまでの経験から、人口密度が1キロ平方メートルあたり4000人を超えると万引きが発生しやすくなるため、十分な対策を講じる必要があると考えています」
一方、立地については「郊外ロードサイドと市街地の駅前・繁華街で違ってくる」という。
「郊外ロードサイド立地の店は万引きの被害はほとんどありません。来店の交通手段が車になり、防犯カメラにナンバーが記録されることを警戒するからでしょう。万引き被害が多いのは、交通手段が主に徒歩、自転車の店。24h無人ホルモン直売所はフランチャイズ展開もしていますが、大都市圏の市街地は家賃が高く、万引きの被害が増える条件が揃っているため、加盟者にはお勧めしていません」
餃子の雪松、博多一番どり居食屋あらいの無人販売所はいずれも郊外ロードサイドが主要立地。その点では伊藤氏が挙げる「万引き被害が起こりにくい条件」に合致しているといえる。
それに対し、株式会社おウチdeお肉代表取締役の林眞右氏は「立地は関係ない。ロードサイドの店でも万引きは発生する」と断言。「当チェーンでは万引きに対して断固とした対応を採ることでその被害を最小限に抑えるようにしています」と続けた。
断固たる対応とは、万引き被害の情報公開だ。
「コンビニやスーパーなどと違い、無人販売店は万引きの現場を監視カメラがしっかり撮影していますから、万引きの被害が発生したら、その店の店頭で写真や映像を示しています。万引き犯は罪の意識が希薄。情報公開によってやっていることの重大性に気づかせることで繰り返しの犯行を防止しています」(林氏)
ニュースなどで放映される万引き現場の映像も、同社にとっては「万引き対策」の一環なのだという。
「実験的にではありますが、YouTubeでも万引き現場の映像配信をはじめた」と林氏。
「万引き現場の映像公開に賛否両論があるのは十分に承知していますが、万引き撲滅のためには必要な対策だと考えています」
対応策は異なるものの、24h無人ホルモン直売所の伊藤氏も「万引きは対応次第で連続被害は避けられる」とコメントしている。
「万引き被害は同じ店で連続して起こりやすいんです。防犯カメラをチェックするとたいてい同一犯。犯行もパターン化しやすいので、警察の協力を得ることで3度目、4度目の犯行を防止することができるのです。これまで、万引き犯の3人中2人は逮捕されており、犯人が逮捕されると万引きもピタリと止まります。だから、被害額そのものはさほど大きくならないのです」(伊藤氏)
万引きなどの盗難被害を補償する保険にも加入しているため、「大都市圏の市街地に出店した店でも、万引き被害によって閉店した店はまだない」と伊藤氏は説明するが、一方で「万引きの発生件数が増えれば保険料が上がる恐れもある」とも言う。
前述したように、利益幅は小さくてもランニングコストが低いことによって成り立つのが無人販売所のビジネスモデルの特色のひとつ。保険料が上がると利益を圧迫しかねないのだ。無人販売所はまだ発展途上のビジネス。今後はさらに競争が激化することが予想され、その中で売上げ対策とともに利益をしっかり残すために万引き対策にもより知恵を絞っていく必要がありそうだ。
取材・文:栗田利之1975年生まれ。大学卒業後、編集プロダクション、レシピ本の出版社勤務を経て、2005年にフリーランスの記者になる。蠎禿捗馘紅行の飲食店経営誌「月刊食堂」の記者として15年以上にわたり、大手、中堅の外食企業や話題の繁盛店などを取材してきた。地味だけど堅実なチェーンモデルとして注目しているのは埼玉県下を中心に店舗網を拡げている「ぎょうざの満洲」