突然ですが、「タマゴサンド」好きですか? いやいや、「嫌い」と断言する人の方が少ないかもしれない。
まあ、まずは想像してみてほしい。ふっかふかの食パンにたっぷりと挟まれた風味豊かな“タマゴ”の具を。手でそっとつまめば、しっとりと指に伝わる軟らかさ、舌に広がるマヨネーズ味のまろやかな旨み、幸せの黄色と白が織りなす美味の桃源郷……ああ、考えただけで口が半開きになる。
最近は卵の価格高騰や品薄もニュースになっているが、何といっても昭和の時代からパン屋、喫茶店、家庭でも親しまれてきた定番の味。
でありながら、ここ数年は全国でブームが続いているサンドイッチ界の絶対的王者である。実は、この日本の「タマゴサンド」が外国人から大絶賛されているのをご存じだろうか。
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きっかけのひとつは、2021年の「東京五輪」取材で来日した外国人ジャーナリストのSNS投稿が話題になったこと。その言葉が、こうだ。
「次なる美食体験」「次元が違う味」「人生でナンバーワンかもしれない」―。
アメリカのニューヨーク・タイムズ紙やカナダの公共放送CBCの記者らが滞在中に味わった「タマゴサンド」にドハマり。しかもこれ、全国どこでも当たり前にあるコンビニエンスストアの「タマゴサンド」に、なのである。
投稿を通じて各国に噂が広まった。その後、海外のトラベルライターが「これを食べるためだけに飛行機に7時間乗るだけの価値がある」とも紹介したほどだ。
彼らが驚いたのは、基本的にマヨネーズで和えた“タマゴ”だけの具というシンプルな素材の美味しさ。そして食パンのふわっとした軟らかさ。この組み合わせが「ジャパニーズスタイル」の「エッグサラダ・サンドイッチ」として注目された。確かに、欧米などでは“タマゴ”だけのサンドイッチはあまり見かけない。
ハムやベーコン、チーズ、野菜類も一緒に挟むことが多く、何というか、仕上がりも大ざっぱ(の気がする)。パンもトーストしていたり、バーガー用のバンズやフランスパンだったり、硬めでしっかりした歯ごたえのものを使ったりする。
筆者もアメリカを旅行した際に何度か食べたことがあるが、その時の経験からいわせてもらえば、全体的にパサッとした印象だったのは否めない。となると、日本の食パン独特のきめ細かくてふっくらした食感と、クリーミーで繊細かつ濃厚な“タマゴ”のハーモニーは外国人からすれば新鮮だったに違いない。
先の海外記者たちは「不自然なほどの、説明のつかない美味しさ」とも表現した。同じくトラベルライターもSNSの動画で「タマゴサンド」を頬張るや目をまんまるに見開き、「どうやったらこんなにパンが軟らかくなるんだ!」と感動体験を綴っている。
今やSNSの普及で個人が気軽に情報発信する時代、誰かの投稿をきっかけに、日本では当たり前と思っていた日常の食やスポットが外国人に“バズる”こともある。コンビニの「タマゴサンド」はそのいい例だろう。
考えてみれば、「日本式」といわれる“タマゴ”だけの具と品質のいいパンの組み合わせは、他の具材やクセの強いスパイスなどの調味料でごまかさず、素材そのものの味を生かす「和食」に通じるものがあるのではないか。そんな日本の食文化を感じられることも人気の背景にあるのかもしれない。
実はアメリカでは5年ほど前にも日本式の「タマゴサンド」が注目されたことがあった。18年にロサンゼルスでオープンした日本のコンビニ風サンドイッチの店「Konbi」が火付け役といわれている。一時期、ニューヨークなどでも日本式を提供する店が増えたのだという。
つまり、既にその美味しさは密かに知られていた訳だが、新型コロナの感染拡大が落ち着き、海外旅行がしやすくなった今こそ、「来日して食べたい日本食」にラーメンや寿司と並んで「タマゴサンド」を挙げる外国人観光客が増えてくるのでは、と思う。
もちろん日本でも、数年前から続いている「タマゴサンド」ブームの影響で半熟卵、出汁巻き、オムレツ、スクランブルエッグなど変幻自在な卵の特徴を生かしたスタイルが次々と登場している。
いわば“タマゴサンド百花繚乱時代”。
茹で卵を使ったサラダタイプの関東VS出汁巻きタイプが多い関西など、エリアによって若干の違いもある。だが、マヨネーズで和えたスタイルはやっぱり全国共通の王道だ。
【後編】『「昼過ぎには完売」の名店の“タマゴサンド”…店主が語る「世界中から愛される理由」』では、なぜシンプルなタマゴサンドが人気なのか、東京・東銀座にある「喫茶アメリカン」への取材から明らかにする。