楽天モバイル(東京)の携帯電話の基地局整備を巡る詐欺事件で、警視庁は近く、同社元部長ら男3人を詐欺容疑で再逮捕する方針を固めた。
業務委託費の水増しによる同社の損害額は約100億円に上るとされ、警視庁はこのうち約50億円が元部長に還流し、ブランド品や高級車、不動産購入費などに充てられたとみて捜査している。
■全部裏金で…
<ダイジョブ。裏金でぜーんぶ処理するから>
2020年11月、妻から高級ブランド「ルイ・ヴィトン」への支払いについて相談された楽天モバイルの元物流管理部長、佐藤友紀被告(46)(詐欺罪で起訴)は、そう応じた。
21年3月には、妻にこう豪語している。
<我々はルイ・ヴィトンジャパンで5本の指に入る客みたいよ>
いずれもSNSのやりとりで、佐藤被告の指示で水増し請求したとされる物流会社「日本ロジステック」(東京)に対し、楽天モバイルが損害賠償請求権があることを裁判所に申し立てた際の提出資料に記載されていた。
夫妻は高級車も次々と購入しており、同11月にはこんなやりとりもあった。
<レクサスオーダーしました>(佐藤被告)
<凄(すご)いな。私。フェラーリもあるのに>(妻)
<ポルシェもあるで>(佐藤被告)
楽天モバイルは資料の中で「あきれるとしか表現のしようがない常軌を逸した散財ぶりである」と指摘している。
警視庁は佐藤被告がほかに不動産も詐取金で購入したとみている。東京、大阪など4都府県のマンション6部屋のほか、東京都品川区東五反田の土地約550平方メートルを自宅用地として取得していたという。
■立場を悪用
佐藤被告が逮捕されたのは3月3日。基地局関連の業務委託費を日本ロジ社に約9億円水増し請求させ、楽天モバイルから水増し分を含む約25億円をだまし取った詐欺容疑だった。
日本ロジ社元常務の三橋一成(53)、再委託先の運送会社「トレイル」(東京)社長の浜中治(49)両被告も逮捕され、その後、3人とも詐欺罪で起訴された。
水増し発注と還流の手口はこうだ。
日本ロジ社はアンテナやコンクリート柱といった資材の保管業務で、保管料の基準となる倉庫の面積を過大に申告。トレイルは資材を運ぶトラックの台数を水増ししていた。
不正に振り込ませた資金の一部は、佐藤被告の妻の会社などを経由して還流させていたという。
佐藤被告は契約の決裁権だけでなく、取引内容をチェックする「検収」の責任者も兼ねていた。警視庁は立場を悪用して不正を主導したとみている。
■監査働かず?
楽天モバイルは20年4月に携帯電話事業に本格参入した「後発組」だ。基地局整備に約1兆円を投じたとされ、通信規格「4G」の基地局数は、18年度の29か所から20年度は1万8413か所に急増した。
「採算は度外視していいから、急ピッチで進めてほしいと(楽天モバイル側から)言われた」。取材に応じたトレイル元役員はそう話す。企業統治に詳しい埼玉学園大の花崎正晴教授(66)は、「基地局整備を急ぐあまり、楽天モバイル社内の監査機能が十分に働いていなかったのではないか」と指摘する。
楽天モバイルは取材に「不正行為の発生を厳粛に受け止め、再発防止に努める」としている。