少子高齢化が進む我が国では高齢者の貧困が問題になっている。
厚生労働省が昨年の6月に発表したデータによれば、生活保護受給者の56%が65歳以上の高齢者世帯であり、中でも単身(ひとり暮らし)世帯の受給率はその他の高齢者世帯の倍になっているという。
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また最新の調査では、高齢者男性の15.0%、女性の22.1%が単身世帯となっており、核家族化や晩婚化に伴い、今後も増え続けるだろうと予測できる。
ひとり暮らしというのは同居する家族がいる場合に比べ生活費の負担が大きく、世帯収入も当然少ない。自分だけの年金だけでは暮らして行けず、貯金を切り崩したり、アルバイトをして補填してもまだ十分ではないというのが現状だ。単身高齢者が抱える問題は貧困だけではない。家族や地域住民とのコミュニケーション不足による社会的孤立である。見守る人がいないということは孤独死に繋がりかねない。貧困と孤独という2大リスクを抱える単身高齢者。そんな社会的弱者でありながら、一切悲壮感を感じさせずに人生を謳歌している知り合いがいる。定年退職後に参加した初めての握手会アイドルオタクでもある筆者のオタ仲間、大沢昭一(仮名)さん、74歳だ。現在派遣アルバイトとして働く大沢さんはオタ歴14年。結婚歴のない独身。還暦を迎えてからオタ活を始めたという珍しい人物である。「僕は子供の頃から『コミュ障(*コミュニケーション障害)』というやつで、女性と縁がなく、友人らしい人間もいない生活をずっと送って来たんだよ。現役時代は食品関係の工場に勤めてたんだけど、食うために働いてるような状況でね、何の楽しみもなかった。」 淡々と語る大沢さん。そんな彼に人生の転機が訪れたのは定年退職直後のことだった。「結婚も無理だし、この先の人生に夢も希望もないよなって考えたら急に何もかもがイヤになってね。死ぬつもりで旅に出たんだよ。アテもなくぶらっとね。で、たまたま立ち寄った公園でアイドルがイベントをやってたの。何か知らないけど盛り上がってたから、ふらふらと近づいて行ったら、スタッフの人に『こちらにどうぞ~』って声をかけられて、促されるままに並んだら、それが物販の列だった」順番が回って来た大沢さんは長テーブル越しにアイドルと対面。ツインテールの髪型に白いリボンを結んだ、20歳前後と思われる可愛らしい女性は大沢さんに「こんにちは」と愛らしい笑顔を見せると大沢さんの右手とぎゅっと握りしめた。自殺願望はすっかり影を潜めて…「もうすっかり舞い上がったよね。こんなこと言うのアレだけど、僕、女性経験って風俗しかないからさ、エッチはしたことあっても女性と握手したことがなかったんだよ(笑)。初握手の相手が素人で、それもアイドルさんでしょ?大げさじゃなく、雷にでも打たれたような衝撃が走ったよ。他に会話もした。内容はよく覚えてないけど『来てくれてありがとう』とか『また会いに来てくださいね』とかだったと思う。時間にしたら2、3分なんだろうけど、僕にとっては『永遠の運命』を感じた瞬間だった」「永遠の運命」?「2、3分の瞬間」?筆者にはよく理解できない表現だったが、彼にとって劇的な出来事だったというのは伝わって来た。「だってさ、聞いてよ。学生時代は女子から『気持ち悪い』って言われ、働くようになってからは女性の同僚に業務連絡で話しかけただけでもイヤそうな顔をされ、普通に家の近所を歩いてるだけで近所のおばちゃんから変質者扱いされていた僕にとっては、まさに夢のような経験だったんだよ。僕の周りにいた女性たちよりもはるかに可愛い子が僕をかまってくれたわけじゃない?こんな素晴らしい経験ができるんだもん、もうオタクになるっきゃないよね」 死ぬ気で旅に出たはずが、アイドルとの交流をきっかけにパンドラの箱を開けてしまった大沢さん。いつしか自殺願望は影を潜め、60歳にしてオタクデビューを果たした。「最初に会った子たちがいわゆる地下アイドルだったんで、ライブハウスに通い始めたんだ。アイドルさんの情報とか、ライブやイベントの予定はネットで検索したり、SNSで見つけたりした。当時は僕ガラケーしか持ってなくて、ネットとかほとんどやらなかったから、家の近所のネットカフェで店員にパソコンの使い方を教えてもらったの。地下アイドルって探せばいっぱいいるんだよね。よりどりみどりって感じ。なんかもう老後の楽しみを見つけた気がして、人生が一気に楽しくなっちゃった」地下アイドルから生きる希望をもらったという大沢さん。自分の「身の丈」にあった推し活ならいいのだが…。この男性の顛末は、後編『74歳アイドルオタク「握手会で沼に落ちてしまった…」年金を溶かし続けてもライブ通いをやめられないその理由 』に続く。
ひとり暮らしというのは同居する家族がいる場合に比べ生活費の負担が大きく、世帯収入も当然少ない。自分だけの年金だけでは暮らして行けず、貯金を切り崩したり、アルバイトをして補填してもまだ十分ではないというのが現状だ。
単身高齢者が抱える問題は貧困だけではない。家族や地域住民とのコミュニケーション不足による社会的孤立である。見守る人がいないということは孤独死に繋がりかねない。
貧困と孤独という2大リスクを抱える単身高齢者。そんな社会的弱者でありながら、一切悲壮感を感じさせずに人生を謳歌している知り合いがいる。
アイドルオタクでもある筆者のオタ仲間、大沢昭一(仮名)さん、74歳だ。
現在派遣アルバイトとして働く大沢さんはオタ歴14年。結婚歴のない独身。還暦を迎えてからオタ活を始めたという珍しい人物である。
「僕は子供の頃から『コミュ障(*コミュニケーション障害)』というやつで、女性と縁がなく、友人らしい人間もいない生活をずっと送って来たんだよ。現役時代は食品関係の工場に勤めてたんだけど、食うために働いてるような状況でね、何の楽しみもなかった。」
淡々と語る大沢さん。そんな彼に人生の転機が訪れたのは定年退職直後のことだった。「結婚も無理だし、この先の人生に夢も希望もないよなって考えたら急に何もかもがイヤになってね。死ぬつもりで旅に出たんだよ。アテもなくぶらっとね。で、たまたま立ち寄った公園でアイドルがイベントをやってたの。何か知らないけど盛り上がってたから、ふらふらと近づいて行ったら、スタッフの人に『こちらにどうぞ~』って声をかけられて、促されるままに並んだら、それが物販の列だった」順番が回って来た大沢さんは長テーブル越しにアイドルと対面。ツインテールの髪型に白いリボンを結んだ、20歳前後と思われる可愛らしい女性は大沢さんに「こんにちは」と愛らしい笑顔を見せると大沢さんの右手とぎゅっと握りしめた。自殺願望はすっかり影を潜めて…「もうすっかり舞い上がったよね。こんなこと言うのアレだけど、僕、女性経験って風俗しかないからさ、エッチはしたことあっても女性と握手したことがなかったんだよ(笑)。初握手の相手が素人で、それもアイドルさんでしょ?大げさじゃなく、雷にでも打たれたような衝撃が走ったよ。他に会話もした。内容はよく覚えてないけど『来てくれてありがとう』とか『また会いに来てくださいね』とかだったと思う。時間にしたら2、3分なんだろうけど、僕にとっては『永遠の運命』を感じた瞬間だった」「永遠の運命」?「2、3分の瞬間」?筆者にはよく理解できない表現だったが、彼にとって劇的な出来事だったというのは伝わって来た。「だってさ、聞いてよ。学生時代は女子から『気持ち悪い』って言われ、働くようになってからは女性の同僚に業務連絡で話しかけただけでもイヤそうな顔をされ、普通に家の近所を歩いてるだけで近所のおばちゃんから変質者扱いされていた僕にとっては、まさに夢のような経験だったんだよ。僕の周りにいた女性たちよりもはるかに可愛い子が僕をかまってくれたわけじゃない?こんな素晴らしい経験ができるんだもん、もうオタクになるっきゃないよね」 死ぬ気で旅に出たはずが、アイドルとの交流をきっかけにパンドラの箱を開けてしまった大沢さん。いつしか自殺願望は影を潜め、60歳にしてオタクデビューを果たした。「最初に会った子たちがいわゆる地下アイドルだったんで、ライブハウスに通い始めたんだ。アイドルさんの情報とか、ライブやイベントの予定はネットで検索したり、SNSで見つけたりした。当時は僕ガラケーしか持ってなくて、ネットとかほとんどやらなかったから、家の近所のネットカフェで店員にパソコンの使い方を教えてもらったの。地下アイドルって探せばいっぱいいるんだよね。よりどりみどりって感じ。なんかもう老後の楽しみを見つけた気がして、人生が一気に楽しくなっちゃった」地下アイドルから生きる希望をもらったという大沢さん。自分の「身の丈」にあった推し活ならいいのだが…。この男性の顛末は、後編『74歳アイドルオタク「握手会で沼に落ちてしまった…」年金を溶かし続けてもライブ通いをやめられないその理由 』に続く。
淡々と語る大沢さん。そんな彼に人生の転機が訪れたのは定年退職直後のことだった。
「結婚も無理だし、この先の人生に夢も希望もないよなって考えたら急に何もかもがイヤになってね。死ぬつもりで旅に出たんだよ。アテもなくぶらっとね。で、たまたま立ち寄った公園でアイドルがイベントをやってたの。何か知らないけど盛り上がってたから、ふらふらと近づいて行ったら、スタッフの人に『こちらにどうぞ~』って声をかけられて、促されるままに並んだら、それが物販の列だった」
順番が回って来た大沢さんは長テーブル越しにアイドルと対面。ツインテールの髪型に白いリボンを結んだ、20歳前後と思われる可愛らしい女性は大沢さんに「こんにちは」と愛らしい笑顔を見せると大沢さんの右手とぎゅっと握りしめた。
「もうすっかり舞い上がったよね。こんなこと言うのアレだけど、僕、女性経験って風俗しかないからさ、エッチはしたことあっても女性と握手したことがなかったんだよ(笑)。初握手の相手が素人で、それもアイドルさんでしょ?大げさじゃなく、雷にでも打たれたような衝撃が走ったよ。他に会話もした。内容はよく覚えてないけど『来てくれてありがとう』とか『また会いに来てくださいね』とかだったと思う。時間にしたら2、3分なんだろうけど、僕にとっては『永遠の運命』を感じた瞬間だった」
「永遠の運命」?「2、3分の瞬間」?
筆者にはよく理解できない表現だったが、彼にとって劇的な出来事だったというのは伝わって来た。
「だってさ、聞いてよ。学生時代は女子から『気持ち悪い』って言われ、働くようになってからは女性の同僚に業務連絡で話しかけただけでもイヤそうな顔をされ、普通に家の近所を歩いてるだけで近所のおばちゃんから変質者扱いされていた僕にとっては、まさに夢のような経験だったんだよ。僕の周りにいた女性たちよりもはるかに可愛い子が僕をかまってくれたわけじゃない?こんな素晴らしい経験ができるんだもん、もうオタクになるっきゃないよね」
死ぬ気で旅に出たはずが、アイドルとの交流をきっかけにパンドラの箱を開けてしまった大沢さん。いつしか自殺願望は影を潜め、60歳にしてオタクデビューを果たした。「最初に会った子たちがいわゆる地下アイドルだったんで、ライブハウスに通い始めたんだ。アイドルさんの情報とか、ライブやイベントの予定はネットで検索したり、SNSで見つけたりした。当時は僕ガラケーしか持ってなくて、ネットとかほとんどやらなかったから、家の近所のネットカフェで店員にパソコンの使い方を教えてもらったの。地下アイドルって探せばいっぱいいるんだよね。よりどりみどりって感じ。なんかもう老後の楽しみを見つけた気がして、人生が一気に楽しくなっちゃった」地下アイドルから生きる希望をもらったという大沢さん。自分の「身の丈」にあった推し活ならいいのだが…。この男性の顛末は、後編『74歳アイドルオタク「握手会で沼に落ちてしまった…」年金を溶かし続けてもライブ通いをやめられないその理由 』に続く。
死ぬ気で旅に出たはずが、アイドルとの交流をきっかけにパンドラの箱を開けてしまった大沢さん。いつしか自殺願望は影を潜め、60歳にしてオタクデビューを果たした。
「最初に会った子たちがいわゆる地下アイドルだったんで、ライブハウスに通い始めたんだ。アイドルさんの情報とか、ライブやイベントの予定はネットで検索したり、SNSで見つけたりした。当時は僕ガラケーしか持ってなくて、ネットとかほとんどやらなかったから、家の近所のネットカフェで店員にパソコンの使い方を教えてもらったの。
地下アイドルって探せばいっぱいいるんだよね。よりどりみどりって感じ。なんかもう老後の楽しみを見つけた気がして、人生が一気に楽しくなっちゃった」
地下アイドルから生きる希望をもらったという大沢さん。自分の「身の丈」にあった推し活ならいいのだが…。
この男性の顛末は、後編『74歳アイドルオタク「握手会で沼に落ちてしまった…」年金を溶かし続けてもライブ通いをやめられないその理由 』に続く。