3月28日に亡くなった音楽家・坂本龍一さん(享年71)への哀悼の意はいまも世界各地で捧げられている。10年近くにわたる「がん」との闘病の末に届いた訃報に悲嘆が広がるなか、医療界の一部からは長年の「懸案」と「課題」についての議論が再燃しているという。
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【写真5枚】後藤久美子にデレデレ? 坂本龍一さんのはにかんだ笑顔が印象的な、当時の秘蔵写真をみる 坂本さんは2014年に中咽頭がんが判明したものの、その後「寛解」。一度はがんを克服したかに見えたが、20年に今度は直腸がんが見つかった。翌21年10月と12月には両肺に転移したがんの摘出手術を受けるなど、約1年間で6度にわたる手術を受けた。また、この間の治療は「放射線治療」と「抗がん剤の服用」を基本としていたという。

悲しむ声はいまも絶えず… がん検診の問題点や生活習慣との関係など、がんに関する複数の著書がある新潟大学名誉教授で医学博士の岡田正彦氏(水野記念病院理事)が話す。「坂本さんの訃報は医療関係者にとっても大きなショックだったと思われます。がんになる理由として現在、大別すると3つの要因が指摘されています。生まれつきの体質(遺伝子の変異)によるものと生活習慣。そして検査と治療に関わる行為が新たながんを誘発する“二次がん”の存在です」 がんと遺伝、生活習慣との関係については以前から指摘されてきた。がん治療が多くの患者の命を救ってきたのは紛れもない事実だが、一方で治療が内包するリスクについては、これまで真正面から論じられる機会は少なかったとされる。放射線に「フリーラジカル」 岡田氏が続ける。「坂本さんの詳しい症状や病歴を把握しているわけではないので、あくまで医学的な一般論としての話となりますが、中咽頭がんと直腸がんの間には直接の関連性が薄いとされているため、直腸にできたのは新たながんと考えたほうが自然です。がん細胞をつくる代表的なものとして、紫外線や放射線、一部の抗がん剤がつくり出す“フリーラジカル”と呼ばれる異常分子(活性酸素など)が挙げられます。紫外線が皮膚がんの原因になることはよく知られていますが、検査や治療に用いられる放射線、あるいは化学療法剤なども正常な細胞のDNAを傷つける作用があり、がんの発生原因となり得ます」 そのため治療には細心の注意が払われてきたが、近年は効果が高く副作用も少ない、免疫機能に働く「免疫チェックポイント阻害剤」や、がん細胞の特定分子のみを攻撃する「分子標的薬」を使った治療が主流になってきている。 しかし、すべてのがんに適用できるわけではないことから、放射線治療や従来の抗がん剤も広く使われているのが現実という。「がんとともに生きる」 腫瘍を摘出する外科手術も免疫力の低下を招くなどのリスクは避けられず、そのため治療後のケアが非常に重要だという。「治療とセットで行われる検査についても、無視できない問題があります。たとえば、“すべてのがんの約4.4%はエックス線検査が原因”である可能性を指摘する研究論文や、CT検査を複数回受けることで“がんになる確率が最大12%増加”することを示唆した論文も存在します」(岡田氏) たび重なるがん治療が“新たながんを生む”というリスクやジレンマの存在を医療関係者だけでなく、患者の側も知っておく必要があるという。 坂本さんの訃報に接し、一流の医師による懸命の治療が叶わなかった点について「どうして?」との声も聞かれるが、医療が進歩してなお、乗り越えるべき壁は存在したままだ。「がんとともに生きる」という坂本さんの言葉は“がん克服”を目指す医療界にも重い課題を突き付けている。デイリー新潮編集部
坂本さんは2014年に中咽頭がんが判明したものの、その後「寛解」。一度はがんを克服したかに見えたが、20年に今度は直腸がんが見つかった。翌21年10月と12月には両肺に転移したがんの摘出手術を受けるなど、約1年間で6度にわたる手術を受けた。また、この間の治療は「放射線治療」と「抗がん剤の服用」を基本としていたという。
がん検診の問題点や生活習慣との関係など、がんに関する複数の著書がある新潟大学名誉教授で医学博士の岡田正彦氏(水野記念病院理事)が話す。
「坂本さんの訃報は医療関係者にとっても大きなショックだったと思われます。がんになる理由として現在、大別すると3つの要因が指摘されています。生まれつきの体質(遺伝子の変異)によるものと生活習慣。そして検査と治療に関わる行為が新たながんを誘発する“二次がん”の存在です」
がんと遺伝、生活習慣との関係については以前から指摘されてきた。がん治療が多くの患者の命を救ってきたのは紛れもない事実だが、一方で治療が内包するリスクについては、これまで真正面から論じられる機会は少なかったとされる。
岡田氏が続ける。
「坂本さんの詳しい症状や病歴を把握しているわけではないので、あくまで医学的な一般論としての話となりますが、中咽頭がんと直腸がんの間には直接の関連性が薄いとされているため、直腸にできたのは新たながんと考えたほうが自然です。がん細胞をつくる代表的なものとして、紫外線や放射線、一部の抗がん剤がつくり出す“フリーラジカル”と呼ばれる異常分子(活性酸素など)が挙げられます。紫外線が皮膚がんの原因になることはよく知られていますが、検査や治療に用いられる放射線、あるいは化学療法剤なども正常な細胞のDNAを傷つける作用があり、がんの発生原因となり得ます」
そのため治療には細心の注意が払われてきたが、近年は効果が高く副作用も少ない、免疫機能に働く「免疫チェックポイント阻害剤」や、がん細胞の特定分子のみを攻撃する「分子標的薬」を使った治療が主流になってきている。
しかし、すべてのがんに適用できるわけではないことから、放射線治療や従来の抗がん剤も広く使われているのが現実という。
腫瘍を摘出する外科手術も免疫力の低下を招くなどのリスクは避けられず、そのため治療後のケアが非常に重要だという。
「治療とセットで行われる検査についても、無視できない問題があります。たとえば、“すべてのがんの約4.4%はエックス線検査が原因”である可能性を指摘する研究論文や、CT検査を複数回受けることで“がんになる確率が最大12%増加”することを示唆した論文も存在します」(岡田氏)
たび重なるがん治療が“新たながんを生む”というリスクやジレンマの存在を医療関係者だけでなく、患者の側も知っておく必要があるという。
坂本さんの訃報に接し、一流の医師による懸命の治療が叶わなかった点について「どうして?」との声も聞かれるが、医療が進歩してなお、乗り越えるべき壁は存在したままだ。「がんとともに生きる」という坂本さんの言葉は“がん克服”を目指す医療界にも重い課題を突き付けている。
デイリー新潮編集部