※本稿は、『プレジデントFamily2023春号』の一部を再編集したものです。
近年、中学受験の裾野が広がっています。受験人口が増えれば、必然的に入試選考も厳しくなり、結果として問題が難化する傾向があります。
また、たとえばある中学が新たな問題を出題すると、塾はその対策をするため、テキストで習う範囲も増えてきています。最近は、受験生の親御さんが中学受験経験者という家庭も増えていますが、かつて親世代が学んだ30年前と比べると、求められる知識量は多くなっていると思います。
図表1の問題は、1996年に開成の算数で出題されたものです。
長方形を折り曲げてできた図形で、相似な直角三角形を見つけることがポイントですが、当時は、「こういう相似の探し方があるのか」と驚嘆したユニークな問題でした。
一方、図表2は洗足学園の今年の問題です。ご覧いただくと、同じように直角三角形の相似を見つける類題だとわかるかと思います。洗足は難関校ですが、これは一行問題が四つ並ぶなかの一つで、「解けないと合格は難しい」問題。模試なら正答率60%以上になると思います。
このように、かつてトップ校で出された「難しい」問題が、今では受験生なら解けなくてはいけない標準的な問題となっているのです。
ただ、この5、6年ほどは、問題のレベルが難化するというよりは、「考える力」をみる方向に出題の仕方が変わってきました。
図表3は、2022年の開成の問題ですが、2×7マスの暗号を作るという題材で、独自の条件が設定されています。問題自体は、場合の数でそこまで難しくないのですが、問われていることを読み解く力が求められます。
このように、場面設定や条件がユニークだったり、会話文形式の問題文に穴埋めをするなど出題方法をアレンジしたりしているものが増えてきたのが現状です。開成などのトップ校だけでなく中学入試全体的な傾向で、今の大学入試改革の流れとも共通します。
算数以外でも、たとえば理科では、19年に麻布で「おいしいコーヒーを入れるための焙煎(ばいせん)方法」について出題されました。これは熱の伝わり方の問題なのですが、理科的なモノの見方で日常のことに目を向けているかどうか、興味・関心が問われています。
とはいえ、親世代と比べて子供の負担がグンと増したということではありません。むしろ、効率的に学べるようになった面もあります。
大きく変化したのが学習スタイルです。20年前くらいまでは、夜12時まで部屋にこもって勉強することも珍しくなかったですが、今は脳科学などの知見を取り入れて、効率的に学ぶやり方が主流です。
たとえば、寝ている間に記憶が整理されるため、睡眠時間はしっかり取るよう指導しています。また、子供のタイプにもよりますが、静かな勉強部屋より、ちょっと人の気配があるほうが集中できるため、リビング学習のお子さんが多い。
デジタルを活用した学びも一般化しました。動画授業なら、生徒に合わせて、わからないところを見直したり、通常の1.5倍の速さで受講したりすることもできます。
四谷大塚では、AIを使って生徒の苦手単元と志望校の出題傾向を分析し、効率的に優先順位をつけて類題演習をするシステムも導入しています。私の教え子にも、受験直前期にこのシステムで1カ月、徹底的に演習をこなして、チャレンジ校の桜蔭に合格した生徒がいます。
今の子はITで学ぶことに慣れています。今年の入試直後にも、灘の入試問題の解説動画を自分で探して見ている子がいました。ネット検索で何でも教えてくれる時代だからこそ、家庭で子供を見るときも、答えが合っているかだけではなく、自分でどう考えたのかプロセスを大切に見てやってほしいと思います。
家庭学習で一番気を付けていただきたいのは、完璧を求めすぎないことです。子供の集中できる時間はそれほど長くないので、親の期待する学習の様子でなくても、子供にとっては結構がんばっていることが多いのです。教室で「がんばっている人?」と聞くとほとんどの子が手を挙げた一方、「お父さんお母さんはそれを認めてくれてる?」と聞いたら、ほぼ全員がわかってくれないと言っていました。
特に4年生のうちは、塾の学習に慣れる時期です。塾での勉強時間と家庭学習の時間が1対1くらいでいいと思います。家庭学習の時間は、いわば塾でインプットしたことをアウトプットする時間です。
習ったことをしっかりと定着させるためには、家庭でのアウトプットの学習が大切なのです。共働きなどで忙しい方も多いと思いますが、たとえば、お子さんのノートに「がんばったね」と書いてやったりスタンプを押してやったりするだけでも、とても嬉しいものです。見てくれているんだと勉強に前向きになれます。
今は新4年生から塾の中学受験コースに入ることが標準です。友人が遊んでいるときに机に向かうこともあるでしょう。そんな長い勉強を支えるのは、普段の声かけなど、ご家族のサポートだと思います。
(プレジデントFamily編集部)