長崎県の国営諫早湾干拓事業を巡り、潮受け堤防排水門の開門を命じた確定判決を「無効」にするよう国が求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(長嶺安政裁判長)は1日付の決定で、開門を求めた漁業者側の上告を棄却した。
開門命令を無効と認めた福岡高裁判決が確定した。20年余りにわたって、開門の是非が争われた法廷闘争は「開門せず」で司法判断が統一され、事実上、決着した。
決定を受け、野村農相は2日夕に臨時記者会見を開き、「今後は平穏な環境の下で、有明海の未来を見据えた話し合いを行い、合意した有明海再生の方策を、協働して実施していくべきだ」とする談話を発表した。
今回の訴訟は、国が2014年、10年に確定していた開門命令を覆すために起こした。1審・佐賀地裁では国が敗訴したものの、2審・福岡高裁で国が逆転勝訴。ただ、19年の最高裁判決は2審の判断に法令違反があるとして判決を破棄する一方、開門命令を無効にすべき事情があるか改めて調べるよう、審理を差し戻した。
差し戻し後の同高裁は昨年3月の判決で、諫早湾周辺の主な魚種の漁獲量が増加傾向にあるとし、「閉門後から漁業被害は回復していない」とする漁業者側の主張を退けた。
さらに、大雨の増加に伴う防災上の支障や塩害による営農の支障などを挙げ、「堤防を閉めておく公共性は増している」として開門命令の無効化を認めた。
これを受け、漁業者らが上告したが、1日付の決定は5人の裁判官が全員一致で「上告理由がない」と判断。確定判決に基づく開門命令の執行力が失われ、国の勝訴が確定した。
事業を巡っては、1997年に堤防が閉め切られた後、漁業者らが漁業不振を訴えて開門を求めたのに対し、営農者らは開門の差し止めを要求。2002年に漁業者らが佐賀地裁に提訴して以降、訴訟が乱立した。
10年に開門を命じる判決が確定した一方、13年には開門差し止めを認める司法判断が示されるなどし、国が「開門」と「非開門」の相反する義務を負う「ねじれ状態」になっていた。
下級審では開門を求める別の訴訟が係争中だが、今回の決定はその判断にも影響を与えるとみられる。
◆国営諫早湾干拓事業=農地造成と高潮や洪水の対策を目的に、有明海の諫早湾内側に干拓地と調整池を整備する事業。1986年に始まり、97年の堤防閉め切りで鋼板が次々と海に落ちる様子は「ギロチン」と呼ばれた。2008年に完了し、総事業費は約2530億円。干拓地では営農者が野菜などを作っている。