「どす黒いまでの孤独」(麻生太郎元首相)を味わう岸田文雄首相の相談役となる1人が「副総理」のはずだが、存在が見えない。首相が新型コロナウイルスに感染した夏には、京都新聞社の双方向型報道「読者に応える」に「なぜ副総理が出てこないのか」と疑問が寄せられていた。京都市出身で官邸を熟知する元内閣官房副長官の松井孝治・慶応大教授(62)と副総理について考えた。
【写真】「副総理」について説明する元内閣官房副長官の松井孝治氏 「副総理というのは、法律の条文などに書かれているものではなく通称なんです」と松井さんはまず説明した。確かに首相や大臣と違い、副総理は天皇から任命や認証をされることはない。首相が内閣を構成する際にどの閣僚をナンバー2に位置付けるか、内外に示すためのものといえる。

それでは、副総理にはどんな人がなっているのか。記者は10月まで3年間東京支社に勤務し官邸を担当したが、ぱっと思い浮かぶのは、第2次安倍晋三政権から菅義偉内閣まで約9年にわたり財務相と兼任した麻生太郎氏だ。 「麻生さんは政局や衆院解散時期の相談を含め総理のアドバイザーになっていた。安倍政権が長く続いたのは、官房長官だった菅さんという番頭がしっかりしていて、麻生さんという大番頭がいたから」とし、副総理は内閣を陰で支える存在であると指摘する。小泉純一郎内閣や麻生太郎内閣も副総理を置かなかった 一方、副総理を置かない内閣もある。小泉純一郎内閣や麻生太郎内閣、そして昨年発足した岸田内閣も実は、不在のままだ。その場合、内閣法9条が定める首相の臨時代理の順位は通例官房長官が第1位となる。 ただ閣僚の序列はまた別の話。岸田内閣では事実上のナンバー2が経済安全保障担当相の高市早苗氏とされている。自民党に目を移すと、岸田「総裁」に次ぐ党ナンバー2は茂木敏充幹事長となるが、副総理を降りた麻生氏も依然、党の「副総裁」の職にある。政府与党の多重的な権力構造は理解しづらい。 では旧民主党政権はどうだったか。旧通産省(現経済産業省)元官僚の松井さんは1994年から官邸に出向経験があり、参院議員時代の09年には鳩山由紀夫政権で内閣官房副長官を務めた。松井さんによると、民主党政権下での副総理の位置付けは自民党の時から大きく変質した。首相や官房長官の部屋が並ぶ官邸5階の「会議室」を副総理の執務室にしたり、大臣職とは別の専従スタッフを置いたりし、官邸内の指揮系統に混乱が生じたという。 民主党政権は政治主導、官邸主導を高めようと副総理に実権を持たせようとしたが、逆に権力行使の整理が難しくなったといえそうだ。松井さんは「大番頭が旦那の代わりを普段からやっては駄目。結局は『権力の館』である官邸の統治というものを分かっていなかった」と自戒を込める。 さて、岸田首相はなぜ副総理を置かないのだろう。松井さんはずばり「適任者がいない」と断じた。「議員歴と閣僚ポストからすれば外相の林芳正さんが候補だが、首相よりも年少だし、宏池会(岸田派)のナンバー2だから(派閥バランスの関係で)難しい。衆院議長を経験した伊吹文明さんや大島理森さんのような人が現役でいたら…」 11月下旬には岸田派の寺田稔総務相が更迭され、後任には民主党政権で外相を務めた麻生派の松本剛明氏が任命された。松井さんはこの人事に麻生氏の影を見る。「この時点での後任に二の足を踏む候補者が多い中、救いの手を差し伸べたのでは。ただ本来は、野球でピンチになった時にピッチャーの元に主力選手が行ってひと息つかせるのと同じで、閣内にそうした存在がいれば首相の精神衛生上も違う。『副』の存在感を改めて感じさせられる一件だ」と話す。(まいどなニュース/京都新聞・国貞 仁志)
「副総理というのは、法律の条文などに書かれているものではなく通称なんです」と松井さんはまず説明した。確かに首相や大臣と違い、副総理は天皇から任命や認証をされることはない。首相が内閣を構成する際にどの閣僚をナンバー2に位置付けるか、内外に示すためのものといえる。
それでは、副総理にはどんな人がなっているのか。記者は10月まで3年間東京支社に勤務し官邸を担当したが、ぱっと思い浮かぶのは、第2次安倍晋三政権から菅義偉内閣まで約9年にわたり財務相と兼任した麻生太郎氏だ。
「麻生さんは政局や衆院解散時期の相談を含め総理のアドバイザーになっていた。安倍政権が長く続いたのは、官房長官だった菅さんという番頭がしっかりしていて、麻生さんという大番頭がいたから」とし、副総理は内閣を陰で支える存在であると指摘する。
一方、副総理を置かない内閣もある。小泉純一郎内閣や麻生太郎内閣、そして昨年発足した岸田内閣も実は、不在のままだ。その場合、内閣法9条が定める首相の臨時代理の順位は通例官房長官が第1位となる。
ただ閣僚の序列はまた別の話。岸田内閣では事実上のナンバー2が経済安全保障担当相の高市早苗氏とされている。自民党に目を移すと、岸田「総裁」に次ぐ党ナンバー2は茂木敏充幹事長となるが、副総理を降りた麻生氏も依然、党の「副総裁」の職にある。政府与党の多重的な権力構造は理解しづらい。
では旧民主党政権はどうだったか。旧通産省(現経済産業省)元官僚の松井さんは1994年から官邸に出向経験があり、参院議員時代の09年には鳩山由紀夫政権で内閣官房副長官を務めた。松井さんによると、民主党政権下での副総理の位置付けは自民党の時から大きく変質した。首相や官房長官の部屋が並ぶ官邸5階の「会議室」を副総理の執務室にしたり、大臣職とは別の専従スタッフを置いたりし、官邸内の指揮系統に混乱が生じたという。
民主党政権は政治主導、官邸主導を高めようと副総理に実権を持たせようとしたが、逆に権力行使の整理が難しくなったといえそうだ。松井さんは「大番頭が旦那の代わりを普段からやっては駄目。結局は『権力の館』である官邸の統治というものを分かっていなかった」と自戒を込める。
さて、岸田首相はなぜ副総理を置かないのだろう。松井さんはずばり「適任者がいない」と断じた。「議員歴と閣僚ポストからすれば外相の林芳正さんが候補だが、首相よりも年少だし、宏池会(岸田派)のナンバー2だから(派閥バランスの関係で)難しい。衆院議長を経験した伊吹文明さんや大島理森さんのような人が現役でいたら…」
11月下旬には岸田派の寺田稔総務相が更迭され、後任には民主党政権で外相を務めた麻生派の松本剛明氏が任命された。松井さんはこの人事に麻生氏の影を見る。「この時点での後任に二の足を踏む候補者が多い中、救いの手を差し伸べたのでは。ただ本来は、野球でピンチになった時にピッチャーの元に主力選手が行ってひと息つかせるのと同じで、閣内にそうした存在がいれば首相の精神衛生上も違う。『副』の存在感を改めて感じさせられる一件だ」と話す。
(まいどなニュース/京都新聞・国貞 仁志)