「ED(勃起障害)」とは、「完全に勃起しなくなる」こと…そう考えているとしたら、その認識は間違っている。「たまに勃起しないことがある」等も、「ED」の治療対象となり得る。そして、「ED」を放置すると、命に関わる可能性があることは、あまり知られていない。
ある年齢以上の男性なら、誰しも気になる「性機能の低下」。実は、日本人男性の1130万人以上が中度および重度の「ED」であると推測されている。40代の5人に1人、50代の2.5人に1人、30~70代でみると4人に1人が「ED」を抱えているとも言われている。
しかしEDの症状を感じても、「疲れていたから」「最近ストレスが多いから」等と、出来るだけ気にしないようにすることはないだろうか。
EDとは、「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、または維持できない状態が、持続または再発すること」(ED診療ガイドラインより)。中高年の「ED」の原因は、陰茎の動脈硬化で血流が悪くなることが多くなっている。
勃起は、性的刺激を脳が感じることにより、陰茎内への「血流の増大」が起き、海綿体に血液が貯留することで起こる。しかし、陰茎の動脈は他の臓器よりも非常に細く、その内径は、わずか1~2mmしかない。
そのため、血管内にゴミが詰まりやすく、身体の中でも最も早く「動脈硬化」が起こりやすい。陰茎部の動脈硬化で血管が細くなり、血流が「停滞」して増大せず、その結果として、「ED」を発症することになる。
一方、心臓の冠状動脈は内径が3~4mmある。しかし、陰茎動脈から始まった動脈硬化が、身体の各所で進行していけば、いずれ心臓の血管も障害されることが予想される。
動脈硬化は、陰茎部で起きると「ED」、心臓だと「心筋梗塞」、頭部だと「脳梗塞」につながる。「ED」の先には、命に関わる病気のリスクが高まっていくのだ。実際、心筋梗塞などの冠動脈疾患の患者の4~7割が、「ED」を抱えていることがわかった。
つまり、「ED」という形で、陰茎部の動脈硬化が顕在化することは、他の部位でも、動脈硬化が始まっているサインと言える。「ED」は、陰茎部だけでなく、身体に起こっている異常を知らせてくれているのだ。心臓等の血管がどういう状態か、自分ではわからない。しかし「ED」を発症することで、重要な“気づき”を与えてもらえる。命に関わる疾患の前兆、初期症状であり、重要な“マーカー”となる。
心筋梗塞などを発症する2~3年前に、「ED」が自覚されることが多いこともわかっている。つまり、「ED」発症時に適切な治療等を行っていれば、2~3年後の心筋梗塞等は予防できた可能性がある。よって、「ED」を放置するのは、かなり危険な選択となる。
それにも拘わらず実際は、相談や診察が恥ずかしいからと治療を延期したり、受診さえしないケースも多いよう。しかし、2008年に発表された国際調査では、ED患者の70%が「EDが命に関わるような疾患と関連があることを知っていれば、もっと早く受診した」と解答している。
「ED」の治療には「PDE5阻害剤」(バイアグラ、レビトラ、シアリス)という薬剤を使うことが多く、血流を改善し、勃起とその維持を助ける。服用することで、血管の拡張機能が向上したり、血管の修復細胞が増えるという報告もある。しかも、その効果は陰茎動脈だけにとどまらず、他の臓器の動脈硬化の予防につながる可能性も示唆されている。「ED」を治療することで、さらなる動脈硬化による疾患を改善・予防出来る可能性がある。だから、「ED」は放置してはいけないのだ。
※ED治療薬を服用にあたっては、医師の診察・指導に従ってください。硝酸剤やニトログリセリン等の医薬品を服用している場合は、ED治療薬は服用できません。
(かなまち慈優クリニック 副院長・医学博士 佐川 森彦)