食品の産地偽装が止まらない。筆者が記者になった90年代から度々、取り上げてきた問題だが、いまだにその種の記事を書くことが絶えず、根本的な解決を見ていない。食に関する年間の十大ニュースを見ても、ほぼ毎年ランクインするのが産地偽装。今年もまた熊本県でのアサリによるニュースが上位にランクした。
この問題、意外なところにも飛び火している。海外ではWAGYU(和牛)を代表格とした、魚介類や果物など「ジャパン・ブランド」が人気だが、これを悪用した「ニセ和牛」や「ニセ夕張メロン」、「ニセ神戸ビーフ」、「ニセ信州味噌」なども横行している。多くは他国の販売者が勝手に日本産と称して売った問題でしかなかったが、中には日本から正当に輸入したはずなのに日本産ではないというケースもあった。そこに日本国内での「産地偽装」ニュースが英語などに翻訳されて伝わったことで、「日本人による偽装も横行」という不名誉な印象が広まりつつある。
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これは、もともと「日本人は気高く、誠実で勤勉な人々」というイメージが強かったことへの反動もあるが、近年、日本の経済が先進国でも稀に見る低迷に至ったことも背景にはある。かつて日本が誇ったエレクトロニクス分野での「メイド・イン・ジャパン」も、韓国のLGやサムスン、中国のハイアールなどに負け、挽回策として価格帯を落とした日本製品は「もう高品質ではなくなった」という二重のイメージダウンがあった。企業スキャンダルでは過去、石屋製菓の人気菓子「白い恋人」が賞味期限の改ざん事件を起こしたとき、海外でもよく知られた日本旅行の土産とあって英語ニュースが拡散。マレーシアの友人から「日本でも、最近は中国みたいな産地や日付の偽装がよくあるんだよね?」と聞かれたことがあったほどだ。積み重なる日本の産地偽装問題も、ネットニュースで国外に容易に伝わるいま、悪影響が出始めている。巧妙化する偽装その日本の産地偽装、長年の横行から年々巧妙化してきたことで知られる。単に輸入品の札を「国内産」と書き換えただけではなく、全体の一部に海外産を混ぜ、プロでもなければ見破れないようにする手口が常習化。偽装を暴く農林水産省などの通称「食品Gメン」がコメ一粒づつ調べるような入念な調査で摘発した例もあるが、逆に言えば、そこまでやらないと見つからないということでもある。13年に取材した事件では、大阪の業者が異品種のコメを混ぜて「新潟県産コシヒカリ」と偽って販売、発覚したのは消費者の通報がきっかけだったが、過去に新潟県が調査したところ、市場に流通する「コシヒカリ」の3割以上がニセモノだったという結果もあった。コメ偽装の多くは中国産の劣悪な品種が混ぜられていたものだが、筆者の取材では「偽装ブローカー」なる、偽装を持ちかける第3者の連中がいることも分かった。Photo by iStock また他にも、中国在住の日本人がコメ販売者に、中国産の安いコメを混ぜて売る方法を細かく指導していたことも明らかになっている。さらに問題なのは、単に産地の違いだけでなく、日本に売った側の中国業者が後に中国当局にカドミウム検出で摘発されていたことだ。業者の売ったコメは、広州市当局により中国での基準値を大幅に超えるカドミウムが検出され、当地でも販売禁止となったものだが、日本のみならず中国国内や香港でも広く流通、香港ではテレビメディアが取材し、従業員は「汚染されているコメだと知っていたので、自分は絶対に食べない」と証言してもいた。日本ではその汚染米が厳格な検査をすり抜け、一部は学校給食にまで出されていた可能性さえあった。さらに汚染米を原料として、菓子やギョーザの皮などにも使用。これは「うるち米」の成分表示となっているため消費者は見分けようがない。カドミウムは毒性の強い重金属、直接の健康被害こそ報告はなくとも、見過ごせない話だ。インドネシアでは、中国の汚染米が、密輸入によって流通していたが、衝撃的だったのは、コメの成分がポリ塩化ビニールなどの化学物質だったことだ。また、インドネシアではレジ袋などビニール袋の原料となるプラスチック玉が安値で生産されており、これを一旦、中国側が大量に入手、イモと一緒に溶かして米状に作ってコメとして送り返すプラスチック製フェイク・ライスだった。さすがにそこまでのシロモノは日本に入ってはいないだろうが、怪しい中国産を仕入れると何が入っているか分かったもんじゃない、という怖さがある。ブランド品も怪しくなっている今年も多数の産地偽装があった。5月、大阪の園芸業者が中国産タマネギを、北海道産や和歌山県産と偽って販売。7月、東京・築地の水産加工会社が中国産メバチマグロを台湾産と偽って販売。これらはごく一部、10月に大ニュースとなったアサリの問題も、中国や韓国から輸入したアサリを干潟に撒いてから回収して熊本産とする犯行が長期にわたって行なわれていた。Photo by iStock 同様の手口は広島でもあったが、中国産として輸入したものも実際には北朝鮮産だったりと、かなりカオスな状況。いま北朝鮮への経済制裁から、国外で中国産とインボイスを書き換えて日本に売るというのは偽装ブローカーの間でも流行し、カニやウナギでも行なわれているという話だ。アサリに至っては、全国に流通する熊本産アサリの多くが北朝鮮もしくは中国産ではないかという疑いまで出ている。これに対して熊本県議会が再発防止として、取引記録の3年保存義務などを決めたが、劇的に取り締まれる内容にはなっていない。「そもそも熊本県は近年、漁獲量が急減しているので、厳しく取り締まりすぎると日本国内のアサリ出荷量が減って、価格が急上昇するので厳しい措置を取りにくい事実上もある」(熊本の漁業関係者)年末に入り、茨城県の水産会社など複数の業者が、北朝鮮から不正に輸入したシジミを茨城産や青森産と偽った疑いの事件も伝えられ、産地偽装はとどまるところ知らない。まだニュースになっていない最新の情報では、関東農政局などが年末に売られている通販おせち料理の食材を検査したところ、何かしらの問題が判明し、さらなる調査に入ったというものもあった。同局の関係者によると「ネットオークションで売られている「魚沼産コシヒカリ」などのブランド食品もニセモノが多いらしいが、数が多すぎて取り締まりきれていないというのが実態だ。
これは、もともと「日本人は気高く、誠実で勤勉な人々」というイメージが強かったことへの反動もあるが、近年、日本の経済が先進国でも稀に見る低迷に至ったことも背景にはある。かつて日本が誇ったエレクトロニクス分野での「メイド・イン・ジャパン」も、韓国のLGやサムスン、中国のハイアールなどに負け、挽回策として価格帯を落とした日本製品は「もう高品質ではなくなった」という二重のイメージダウンがあった。
企業スキャンダルでは過去、石屋製菓の人気菓子「白い恋人」が賞味期限の改ざん事件を起こしたとき、海外でもよく知られた日本旅行の土産とあって英語ニュースが拡散。マレーシアの友人から「日本でも、最近は中国みたいな産地や日付の偽装がよくあるんだよね?」と聞かれたことがあったほどだ。積み重なる日本の産地偽装問題も、ネットニュースで国外に容易に伝わるいま、悪影響が出始めている。
その日本の産地偽装、長年の横行から年々巧妙化してきたことで知られる。単に輸入品の札を「国内産」と書き換えただけではなく、全体の一部に海外産を混ぜ、プロでもなければ見破れないようにする手口が常習化。偽装を暴く農林水産省などの通称「食品Gメン」がコメ一粒づつ調べるような入念な調査で摘発した例もあるが、逆に言えば、そこまでやらないと見つからないということでもある。
13年に取材した事件では、大阪の業者が異品種のコメを混ぜて「新潟県産コシヒカリ」と偽って販売、発覚したのは消費者の通報がきっかけだったが、過去に新潟県が調査したところ、市場に流通する「コシヒカリ」の3割以上がニセモノだったという結果もあった。コメ偽装の多くは中国産の劣悪な品種が混ぜられていたものだが、筆者の取材では「偽装ブローカー」なる、偽装を持ちかける第3者の連中がいることも分かった。
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また他にも、中国在住の日本人がコメ販売者に、中国産の安いコメを混ぜて売る方法を細かく指導していたことも明らかになっている。さらに問題なのは、単に産地の違いだけでなく、日本に売った側の中国業者が後に中国当局にカドミウム検出で摘発されていたことだ。業者の売ったコメは、広州市当局により中国での基準値を大幅に超えるカドミウムが検出され、当地でも販売禁止となったものだが、日本のみならず中国国内や香港でも広く流通、香港ではテレビメディアが取材し、従業員は「汚染されているコメだと知っていたので、自分は絶対に食べない」と証言してもいた。日本ではその汚染米が厳格な検査をすり抜け、一部は学校給食にまで出されていた可能性さえあった。さらに汚染米を原料として、菓子やギョーザの皮などにも使用。これは「うるち米」の成分表示となっているため消費者は見分けようがない。カドミウムは毒性の強い重金属、直接の健康被害こそ報告はなくとも、見過ごせない話だ。インドネシアでは、中国の汚染米が、密輸入によって流通していたが、衝撃的だったのは、コメの成分がポリ塩化ビニールなどの化学物質だったことだ。また、インドネシアではレジ袋などビニール袋の原料となるプラスチック玉が安値で生産されており、これを一旦、中国側が大量に入手、イモと一緒に溶かして米状に作ってコメとして送り返すプラスチック製フェイク・ライスだった。さすがにそこまでのシロモノは日本に入ってはいないだろうが、怪しい中国産を仕入れると何が入っているか分かったもんじゃない、という怖さがある。ブランド品も怪しくなっている今年も多数の産地偽装があった。5月、大阪の園芸業者が中国産タマネギを、北海道産や和歌山県産と偽って販売。7月、東京・築地の水産加工会社が中国産メバチマグロを台湾産と偽って販売。これらはごく一部、10月に大ニュースとなったアサリの問題も、中国や韓国から輸入したアサリを干潟に撒いてから回収して熊本産とする犯行が長期にわたって行なわれていた。Photo by iStock 同様の手口は広島でもあったが、中国産として輸入したものも実際には北朝鮮産だったりと、かなりカオスな状況。いま北朝鮮への経済制裁から、国外で中国産とインボイスを書き換えて日本に売るというのは偽装ブローカーの間でも流行し、カニやウナギでも行なわれているという話だ。アサリに至っては、全国に流通する熊本産アサリの多くが北朝鮮もしくは中国産ではないかという疑いまで出ている。これに対して熊本県議会が再発防止として、取引記録の3年保存義務などを決めたが、劇的に取り締まれる内容にはなっていない。「そもそも熊本県は近年、漁獲量が急減しているので、厳しく取り締まりすぎると日本国内のアサリ出荷量が減って、価格が急上昇するので厳しい措置を取りにくい事実上もある」(熊本の漁業関係者)年末に入り、茨城県の水産会社など複数の業者が、北朝鮮から不正に輸入したシジミを茨城産や青森産と偽った疑いの事件も伝えられ、産地偽装はとどまるところ知らない。まだニュースになっていない最新の情報では、関東農政局などが年末に売られている通販おせち料理の食材を検査したところ、何かしらの問題が判明し、さらなる調査に入ったというものもあった。同局の関係者によると「ネットオークションで売られている「魚沼産コシヒカリ」などのブランド食品もニセモノが多いらしいが、数が多すぎて取り締まりきれていないというのが実態だ。
また他にも、中国在住の日本人がコメ販売者に、中国産の安いコメを混ぜて売る方法を細かく指導していたことも明らかになっている。さらに問題なのは、単に産地の違いだけでなく、日本に売った側の中国業者が後に中国当局にカドミウム検出で摘発されていたことだ。
業者の売ったコメは、広州市当局により中国での基準値を大幅に超えるカドミウムが検出され、当地でも販売禁止となったものだが、日本のみならず中国国内や香港でも広く流通、香港ではテレビメディアが取材し、従業員は「汚染されているコメだと知っていたので、自分は絶対に食べない」と証言してもいた。
日本ではその汚染米が厳格な検査をすり抜け、一部は学校給食にまで出されていた可能性さえあった。さらに汚染米を原料として、菓子やギョーザの皮などにも使用。これは「うるち米」の成分表示となっているため消費者は見分けようがない。カドミウムは毒性の強い重金属、直接の健康被害こそ報告はなくとも、見過ごせない話だ。
インドネシアでは、中国の汚染米が、密輸入によって流通していたが、衝撃的だったのは、コメの成分がポリ塩化ビニールなどの化学物質だったことだ。また、インドネシアではレジ袋などビニール袋の原料となるプラスチック玉が安値で生産されており、これを一旦、中国側が大量に入手、イモと一緒に溶かして米状に作ってコメとして送り返すプラスチック製フェイク・ライスだった。さすがにそこまでのシロモノは日本に入ってはいないだろうが、怪しい中国産を仕入れると何が入っているか分かったもんじゃない、という怖さがある。
今年も多数の産地偽装があった。5月、大阪の園芸業者が中国産タマネギを、北海道産や和歌山県産と偽って販売。7月、東京・築地の水産加工会社が中国産メバチマグロを台湾産と偽って販売。これらはごく一部、10月に大ニュースとなったアサリの問題も、中国や韓国から輸入したアサリを干潟に撒いてから回収して熊本産とする犯行が長期にわたって行なわれていた。
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同様の手口は広島でもあったが、中国産として輸入したものも実際には北朝鮮産だったりと、かなりカオスな状況。いま北朝鮮への経済制裁から、国外で中国産とインボイスを書き換えて日本に売るというのは偽装ブローカーの間でも流行し、カニやウナギでも行なわれているという話だ。アサリに至っては、全国に流通する熊本産アサリの多くが北朝鮮もしくは中国産ではないかという疑いまで出ている。これに対して熊本県議会が再発防止として、取引記録の3年保存義務などを決めたが、劇的に取り締まれる内容にはなっていない。「そもそも熊本県は近年、漁獲量が急減しているので、厳しく取り締まりすぎると日本国内のアサリ出荷量が減って、価格が急上昇するので厳しい措置を取りにくい事実上もある」(熊本の漁業関係者)年末に入り、茨城県の水産会社など複数の業者が、北朝鮮から不正に輸入したシジミを茨城産や青森産と偽った疑いの事件も伝えられ、産地偽装はとどまるところ知らない。まだニュースになっていない最新の情報では、関東農政局などが年末に売られている通販おせち料理の食材を検査したところ、何かしらの問題が判明し、さらなる調査に入ったというものもあった。同局の関係者によると「ネットオークションで売られている「魚沼産コシヒカリ」などのブランド食品もニセモノが多いらしいが、数が多すぎて取り締まりきれていないというのが実態だ。
同様の手口は広島でもあったが、中国産として輸入したものも実際には北朝鮮産だったりと、かなりカオスな状況。いま北朝鮮への経済制裁から、国外で中国産とインボイスを書き換えて日本に売るというのは偽装ブローカーの間でも流行し、カニやウナギでも行なわれているという話だ。アサリに至っては、全国に流通する熊本産アサリの多くが北朝鮮もしくは中国産ではないかという疑いまで出ている。
これに対して熊本県議会が再発防止として、取引記録の3年保存義務などを決めたが、劇的に取り締まれる内容にはなっていない。
「そもそも熊本県は近年、漁獲量が急減しているので、厳しく取り締まりすぎると日本国内のアサリ出荷量が減って、価格が急上昇するので厳しい措置を取りにくい事実上もある」(熊本の漁業関係者)
年末に入り、茨城県の水産会社など複数の業者が、北朝鮮から不正に輸入したシジミを茨城産や青森産と偽った疑いの事件も伝えられ、産地偽装はとどまるところ知らない。まだニュースになっていない最新の情報では、関東農政局などが年末に売られている通販おせち料理の食材を検査したところ、何かしらの問題が判明し、さらなる調査に入ったというものもあった。同局の関係者によると「ネットオークションで売られている「魚沼産コシヒカリ」などのブランド食品もニセモノが多いらしいが、数が多すぎて取り締まりきれていないというのが実態だ。