2023年1月11日に、ツイッターで突然「集団自決」という物騒な単語が「トレンド」入りした。イェール大助教授で経済学者の成田悠輔氏(38)が過去に発言した内容が原因だ。成田氏は4年ほど前から高齢化社会への対応策として、高齢者の「集団自決」「集団切腹」に繰り返し言及してきた。あるインタビューでは、こういった表現は「議論のためのメタファー(隠喩)」だと説明しているが、そうとは理解されにくい文脈の発言もある。
22年には、75歳以上の人に対して安楽死の選択肢を与える制度が導入された社会を描いた映画「PLAN 75」(プラン 75)が、第75回カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)の次点に当たる特別表彰を受け、話題になった。作品の世界観を体現するかのような発言が今になって「発掘」され、一気に批判が噴出している。
このタイミングで発言が拡散された理由ははっきりしないが、1月5日に配信されたABEMAのニュース番組「ABEMA Prime」(アベマ・プライム)で、成田氏と政治経済評論家の池戸万作氏による議論が話題になり、過去の成田氏の発言が注目された可能性もある。
主に拡散されているのは、21年12月のABEMA Primeでの発言だ。この日のテーマは、高齢化や少子化にともなう人口減少の問題で、リモート出演していた成田氏は
と述べた。スタジオは笑いに包まれ、出演していた慶應義塾大学特任准教授でプロデューサーの若新雄純氏から
と笑顔で指摘される中、成田氏は
などと話した。
ろれつが回らなかったり、全く会話が成立しなかったりする高齢者が社会の重要なポジションを占めていることを若年層が当然だと受け止めているとして、「すごく危機的な状況」だとも主張。
と話した。
22年1月にNewsPicks(ニューズピックス)で配信された動画でも、スタジオのスライドには
の文字。成田氏は、ここでもコミュニケーションが取れない高齢者が重要なポジションを占めている問題を指摘し、「『ちょっとやばい老人達』に対して圧をかけていく」ことが必要だと主張。
などと話した。
今後、国論を二分する可能性がある政策課題についても言及。軍事・防衛の次は
として、議論を進める必要があるとした。
比較的古い「集団自決」の主張としては。19年2月開催の「G1サミット2019」の社会保障改革に関するパネルディスカッションでの発言がある。公開されているアーカイブ動画によると、成田氏は高齢化をはじめとするさまざまな人生のリスクを軽減するための方法として、
と述べている。その背景として、江戸時代の武士の心得を記した「葉隠」の一節「武士道といふは死ぬ事と見付けたり」について、次のような解釈を披露した。
その上で、三島由紀夫が行ったような切腹が「いい筋」だとする持論を展開した。
さらに、切腹が「クールジャパン」戦略になりうる、とも主張した。
成田氏は、老人ホーム検索サイト「みんなの介護」に22年2月末に掲載されたインタビューでは、「切腹」や「自決」という単語は「議論のためのメタファー」だとしている。その具体像にはグラデーションがあり、大きく3つのレイヤー(階層)があり得る、と説明。過激な順から「三島由紀夫がやったような文字通りの切腹」「例えば尊厳死の解禁や一定以上の延命措置への保険適用を見直すことなど」「世代交代」を挙げたが、その優先順位には言及しなかった。
成田氏の発言には、いわゆる「老害」批判に同調する向きがある一方で、(1)命に序列をつける優生思想につながる(2)太平洋戦争、とりわけ沖縄戦で多くの犠牲者を出した「集団自決」の歴史を軽んじている、といった批判が多く寄せられている。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)