箸の持ち方や宛名の書き方、名刺の渡し方……皆、子供の頃からマナーを身につけてきた。だがこのコロナ禍で、覚えるべき新たなマナーや、従ってはいけない“謎のマナー”が次々と生まれている。
例えば、年賀状や招待状。若い世代にとってはLINEが当たり前だが、大切な連絡をLINEで済ませるのは、どうしても“手抜き感”が否めないと感じる人もいるだろう。『「育ちがいい人」だけが知っていること』の著者で、マナースクール ライビウム代表の諏内えみさんが言う。
「手書きのものは重みがありますが、同時に相手にも返事を書かせる手間や負担をかけてしまうかもしれません。“目上の人には紙で、同級生にはLINEで”など、相手によって使い分けると、双方ともプレッシャーにならず、気持ちよくやりとりができます」
「今年からLINEでのごあいさつにしました」「LINEで失礼します」などと、ひと言添えることで、さらに印象がよくなるはずだ。
もう1つ、コロナ禍で浸透したものといえば、Zoomなどのオンライン会議システムだ。
だが「目上のかたを画面上部の“上座”に配置しましょう」「目上のかたが退出するまで、画面に向かっておじぎをしましょう」といった“珍マナー”が、まことしやかにいわれることも。『この1冊でOK!一生使えるマナーと作法』などの著書がある、日本マナー・プロトコール協会理事長の明石伸子さんが言う。
「オンライン会議には、席次なんてありません。そもそも、丁寧さを求めるなら直接対面した方がいいのですから、効率重視のオンライン会議では、画面上の席次も、退室の順番などもありません」(明石さん・以下同)
そのほかにも、「名刺交換をするときは、名刺に自分の息がかからないように、名刺を持った手は真正面ではなく、左右どちらかにずらす」「お茶を出すときは、お客さまの目の前で注ぐ」など、コロナ禍では次々と不思議なマナーが生まれている。明石さんは、新しい価値観やツールが出てくれば、それに対するマナーが定着するのに時間がかかると話す。
「かつてはメールも失礼だといわれていましたが、いまでは電話と同様に、社会に不可欠なツールです。
もちろん、常識的な使い方であれば、どちらも失礼には当たりません。私個人は、悪い報告はメールより電話の方が、誤解なく伝わりやすいのではないかと考えています」
かつては食事の席でテーブルにスマホ(携帯電話)を置いておくのは失礼に当たった。だが、いまでは飲食店でもテーブルの上に「スマホ置き」を設置しているところもある。いまや、地震やミサイルといった命にかかわる緊急速報もスマホに届くため、すぐに画面を見られるようにしておくのが一般的だ。
「とはいえ、食事の席はあくまでも料理と会話を楽しむための場。相手よりもスマホを気にするのはマナー違反なので、どうしても気になるようなら、すぐに対応できるようにポケットやバッグの取り出しやすい位置に入れておけばいいでしょう」
いまや、男性上司が女性の部下に「彼氏はいるの?」などと聞こうものなら、セクハラとしてだけでなく、プライバシーの侵害としても、厳しく糾弾されるだろう。仮に女性の上司であっても、いまはプライバシーに立ち入った質問はふさわしくない。同性でもセクハラは成立するほか、女性の恋人が男性ではない場合も考えられる。
明石さんは「日頃から相互理解と信頼関係があれば、セクハラとは思われない」としたうえで、注意を促す。
「ジェンダーに限らず、多様性が認められるようになり、時代が変わったということは、これまでは当たり前だったルールやマナーが通用しなくなっているということ。もちろんパワハラを心配するあまり、必要以上に若者におもねるべきではありません。世代間ギャップに共感はできなくても、認識し、理解しようとする姿勢が大切なのです」
時代が大きく変わり、コミュニケーションの手段やかかわる人々が多様化しているいま、マナーも多様化している。
「マナーの本質は相手を思いやることであり、相手だけでなく自分も心地よくなれるのが本当のマナーです。決まったしきたりを守ることばかり重視するのではなく、どうしたらお互いが居心地よく、ラクになるかを考え、その場に応じた振る舞いができるのが上級者です」(諏内さん)
目の前の相手と向き合って、無数にある選択肢の中から最適解を選び出す「人間力」こそが、真のマナーなのだ。
※女性セブン2022年12月15日号