11月20日に開幕したサッカーW杯カタール2022で、日本人サポーターによる会場のゴミ拾いが話題になった。日本人らしい気遣いや親切心を世界中が称賛しているが、こんな行為が常に称されるとは限らない。
【イラスト】実は相手をムッとさせているかもしれない“うっかり言葉” 親切心でやったことが逆に裏目に出てしまう状況になることも多々あるのだ。あなたは大丈夫? ありがた迷惑な顧客 SNS上では『その道のプロ』による「ありがた迷惑な顧客」に対する悲鳴が後を絶たない。「布団やベッドは使用したままのグチャグチャの状態がいちばんいいんです。浴衣もシーツもタオルも畳んでもらっても結局は全部ほどいてから洗濯に出します。特に布団が丁寧に畳まれて押し入れに入っているとガッカリしますね。汚れや破損の有無、忘れ物などをひとつひとつ確認をして、それから畳んで入れるので二度手間です」

宿泊施設でベッドメイクの仕事をしている静香さん(仮名・40代)がこう明かす。 長年の習慣なのか「敷きっぱなし」「脱ぎっぱなし」は落ち着かないというのが日本人のサガ。良かれと思ってきちんとすればするほど従業員の手を煩わせるのだ。「お部屋にお布団があると落ち着かない、という方は二つ折りにして部屋の隅に置いていただくだけで構いません。チェックアウトのお時間までゆっくりしていてください」(静香さん) 常にこの「ありがた迷惑な客」にうんざりしているのが飲食業界。都内の居酒屋で働く和歌子さん(30代・仮名)は「言い出したらキリがありません」と苦笑した。 特に飲食業界で働く8割の人々が「わかる!」と頷くのが「食べ終わった皿を客が重ねる行為」だ。「同じ種類で重ねるなど、こちらの希望するやり方でしてくれるならありがたいんですが……」(和歌子さん、以下同) ギトギトのドレッシングが残っていたり、マヨネーズでベタベタ、しょうゆやソースがたっぷりだったり……そんな状態の皿を重ねれば高台の底が汚れ、洗う際にかえって手間がかかることになる。「ゴミや食べ残しのある皿の上に、皿を重ねる人もいますが、これはより迷惑。結局一枚一枚にして確認してから洗うことになるので、食べ終わった状態のままテーブルに置いてください」気遣いのつもりが厄介な客に 空いた皿やグラスを厨房まで運んでくる客も厄介だと和歌子さんはため息をついた。「気遣ってくれているのでしょうが、洗い物が間に合わず、シンクに空きがないため下げられないこともあるんです。それにほかのお客さんに“この店は客まで使う”などの印象を与えかねないので、やめてほしいです」 皿やグラスを落として割られたり、運んでいる最中に転んでケガをされたりでもしたらたまったもんじゃない。 ただ、「いちばん嫌だ」と和歌子さんが訴えるのは運んだ飲食物を店員のお盆の上から勝手に取る客だ。実はこれはかなり危険な行為だとか。「急に皿やグラスを取られるとお盆のバランスが崩れるので、怖くて……。“私が置きますから大丈夫ですよ”とやんわりと断りますが、それでも取ろうとする人がいます」 こぼれたしょうゆや酒をおしぼりで拭いたり、最後に机まで全部拭いて帰る人もいるが、それも遠慮してほしいと念を押す。「最後にきちんと掃除をするので拭いていただく必要はありません。それに使い捨てのおしぼりならまだいいのですが、布のおしぼりだとシミがつくと業者に戻すときにクリーニング代が余計にかかります。おしぼりにゴミを包んでいる人もいますが、それも困る。いちいちおしぼりを全部開いてチェックしないといけない。こぼしたりして拭きたいものがあったら店員を呼んでください。ふきんをもって飛んでいきますから」 良かれと思ってやったことが店員の手間だけではなく、店の経費を圧迫することにもなりかねない。 こうした行為をしがちなのが、一見すると“気遣い”ができる人。飲みの席ではいいのかもしれないが、飲食店にとっては「要注意人物」なのだ。「いちいち注文を言いにくる人もいますが、大きなお店やお客さんが多いときはどのテーブルなのかわからないので、結局はその方のテーブルを確認する手間が生じます。お店側への配慮のつもりかもしれませんが、こちらは飲食店のプロ。接客や片づけは任せてください」意外なありがた迷惑も ショッピングモールの婦人服売り場で働く由香さん(30代・仮名)はまた違った「ありがた迷惑な客」に遭遇すると話す。「試着した後、畳んで戻す人ですね。二度手間になるのでそのままの状態で置いておくか、気を使ってくださるならレジに持ってきてください」(由香さん、以下同) ほかにも同じ建物で働く人からはこんな声を聞くという。「清掃担当のスタッフがコボしているのはトイレットペーパーの三角折りでしょうか。これは“掃除が終了しました”という合図なのですが、使用後のマナーだと勘違いしている人がいる。汚れた手で必要以上にペーパーを触ると紙も汚れるし、ウイルスなどの感染源になってしまいます。三角折りはしないでください」 意外な職種の人もありがた迷惑な客のエピソードを明かす。まず占い師の久遠さん(仮名)。「タロットや占星術の内容を話してくる方ですね。自分の鑑定結果は総合的に判断してお伝えするので私はこれは地味に困っていたりします」 デイサービスで働いている良子さん(30代・仮名)が困っているのは利用者同士の物々交換。 普段のお礼に、とお菓子や雑貨などちょっとしたものをほかの利用者やスタッフに渡す人が少なくない。「もらったほうはお返しをしなきゃいけないとプレッシャーに感じる人もいますし、お返しをもらったらさらにお返し……と終わらない。中には自分から一方的に渡しておいて“お返しもしない失礼な人だ”と怒る人もいるんです」(良子さん、以下同) そのため、良子さんの働く施設では物のやりとりは全面禁止になったという。他にも「ヘルパーさんに申し訳ない」と介助を断ったり、床に落としたものを自分で拾おうとする高齢者もいるとか。「何かあってからのほうが怖いです。私たちがやるのでそのあたりはおとなしくしていただきたいと思っております」 ちょっとした気遣いがむしろ裏目に出ることがある。サービスを提供する側はその道のプロなのだから素直に受けることも顧客としては大切なことなのだ。『立つ鳥跡を濁さず』ではなく、『小さな親切大きなお世話』になっていないか、自分の行動を顧みることが、いちばんの気遣いになっているのではないだろうか。
親切心でやったことが逆に裏目に出てしまう状況になることも多々あるのだ。
SNS上では『その道のプロ』による「ありがた迷惑な顧客」に対する悲鳴が後を絶たない。
「布団やベッドは使用したままのグチャグチャの状態がいちばんいいんです。浴衣もシーツもタオルも畳んでもらっても結局は全部ほどいてから洗濯に出します。特に布団が丁寧に畳まれて押し入れに入っているとガッカリしますね。汚れや破損の有無、忘れ物などをひとつひとつ確認をして、それから畳んで入れるので二度手間です」
宿泊施設でベッドメイクの仕事をしている静香さん(仮名・40代)がこう明かす。
長年の習慣なのか「敷きっぱなし」「脱ぎっぱなし」は落ち着かないというのが日本人のサガ。良かれと思ってきちんとすればするほど従業員の手を煩わせるのだ。
「お部屋にお布団があると落ち着かない、という方は二つ折りにして部屋の隅に置いていただくだけで構いません。チェックアウトのお時間までゆっくりしていてください」(静香さん)
常にこの「ありがた迷惑な客」にうんざりしているのが飲食業界。都内の居酒屋で働く和歌子さん(30代・仮名)は「言い出したらキリがありません」と苦笑した。
特に飲食業界で働く8割の人々が「わかる!」と頷くのが「食べ終わった皿を客が重ねる行為」だ。
「同じ種類で重ねるなど、こちらの希望するやり方でしてくれるならありがたいんですが……」(和歌子さん、以下同)
ギトギトのドレッシングが残っていたり、マヨネーズでベタベタ、しょうゆやソースがたっぷりだったり……そんな状態の皿を重ねれば高台の底が汚れ、洗う際にかえって手間がかかることになる。
「ゴミや食べ残しのある皿の上に、皿を重ねる人もいますが、これはより迷惑。結局一枚一枚にして確認してから洗うことになるので、食べ終わった状態のままテーブルに置いてください」
空いた皿やグラスを厨房まで運んでくる客も厄介だと和歌子さんはため息をついた。
「気遣ってくれているのでしょうが、洗い物が間に合わず、シンクに空きがないため下げられないこともあるんです。それにほかのお客さんに“この店は客まで使う”などの印象を与えかねないので、やめてほしいです」
皿やグラスを落として割られたり、運んでいる最中に転んでケガをされたりでもしたらたまったもんじゃない。
ただ、「いちばん嫌だ」と和歌子さんが訴えるのは運んだ飲食物を店員のお盆の上から勝手に取る客だ。実はこれはかなり危険な行為だとか。
「急に皿やグラスを取られるとお盆のバランスが崩れるので、怖くて……。“私が置きますから大丈夫ですよ”とやんわりと断りますが、それでも取ろうとする人がいます」
こぼれたしょうゆや酒をおしぼりで拭いたり、最後に机まで全部拭いて帰る人もいるが、それも遠慮してほしいと念を押す。
「最後にきちんと掃除をするので拭いていただく必要はありません。それに使い捨てのおしぼりならまだいいのですが、布のおしぼりだとシミがつくと業者に戻すときにクリーニング代が余計にかかります。おしぼりにゴミを包んでいる人もいますが、それも困る。いちいちおしぼりを全部開いてチェックしないといけない。こぼしたりして拭きたいものがあったら店員を呼んでください。ふきんをもって飛んでいきますから」
良かれと思ってやったことが店員の手間だけではなく、店の経費を圧迫することにもなりかねない。
こうした行為をしがちなのが、一見すると“気遣い”ができる人。飲みの席ではいいのかもしれないが、飲食店にとっては「要注意人物」なのだ。
「いちいち注文を言いにくる人もいますが、大きなお店やお客さんが多いときはどのテーブルなのかわからないので、結局はその方のテーブルを確認する手間が生じます。お店側への配慮のつもりかもしれませんが、こちらは飲食店のプロ。接客や片づけは任せてください」
ショッピングモールの婦人服売り場で働く由香さん(30代・仮名)はまた違った「ありがた迷惑な客」に遭遇すると話す。
「試着した後、畳んで戻す人ですね。二度手間になるのでそのままの状態で置いておくか、気を使ってくださるならレジに持ってきてください」(由香さん、以下同)
ほかにも同じ建物で働く人からはこんな声を聞くという。
「清掃担当のスタッフがコボしているのはトイレットペーパーの三角折りでしょうか。これは“掃除が終了しました”という合図なのですが、使用後のマナーだと勘違いしている人がいる。汚れた手で必要以上にペーパーを触ると紙も汚れるし、ウイルスなどの感染源になってしまいます。三角折りはしないでください」
意外な職種の人もありがた迷惑な客のエピソードを明かす。まず占い師の久遠さん(仮名)。
「タロットや占星術の内容を話してくる方ですね。自分の鑑定結果は総合的に判断してお伝えするので私はこれは地味に困っていたりします」
デイサービスで働いている良子さん(30代・仮名)が困っているのは利用者同士の物々交換。
普段のお礼に、とお菓子や雑貨などちょっとしたものをほかの利用者やスタッフに渡す人が少なくない。
「もらったほうはお返しをしなきゃいけないとプレッシャーに感じる人もいますし、お返しをもらったらさらにお返し……と終わらない。中には自分から一方的に渡しておいて“お返しもしない失礼な人だ”と怒る人もいるんです」(良子さん、以下同)
そのため、良子さんの働く施設では物のやりとりは全面禁止になったという。他にも「ヘルパーさんに申し訳ない」と介助を断ったり、床に落としたものを自分で拾おうとする高齢者もいるとか。
「何かあってからのほうが怖いです。私たちがやるのでそのあたりはおとなしくしていただきたいと思っております」
ちょっとした気遣いがむしろ裏目に出ることがある。サービスを提供する側はその道のプロなのだから素直に受けることも顧客としては大切なことなのだ。
『立つ鳥跡を濁さず』ではなく、『小さな親切大きなお世話』になっていないか、自分の行動を顧みることが、いちばんの気遣いになっているのではないだろうか。