現役市長が漫才界の頂上大会・M―1グランプリの1回戦を突破した。大阪・柏原市の冨宅(ふけ)正浩市長(46)が「市長・市民」というコンビ名でエントリー。8月12日に大阪市内で行われた初戦、芸人兼個人事業主の旧友・山本哲史さん(46)とともにネタを披露し、見事にパスした。自治体の首長が公務ではなくプライベートという形で参戦してまで伝えたかったメッセージとは何か。(取材・構成=秋山 剛志)
■大阪府東部の柏原市「かしわらし」と読みます
まさかの挑戦で見事に第一関門を突破した。「市長・市民」の市長こと冨宅市長は「選挙よりも断然こっちの方が緊張した」と照れ笑いを浮かべた。“出馬”のきっかけは超シンプル。「柏原市のPRになれば」というものだ。ネタは「柏原市の知名度が低い」ことへの嘆きが中心だったが、これが意外にも(!?)観客の笑いを誘い、会場を沸かせた。
ネタ作りは相方の山本さんが担当した。ネタの中で「M―1出て盛り上げていこうや~と誘ったら『いいよいいよ』って軽いノリで実現したわけなんですけども~。柏原市長の仕事、ヒマなん?」とイジられると、良いテンポで「ヒマちゃうわ」とツッコむ。ほかにも「奈良の橿原(かしはら)市と間違われる」。「大阪市内から20分と、そこそこ遠い」など市民目線の悲しみを織り交ぜながら、しっかりと柏原市をPRした内容だ。
メールで届いた台本を必死で暗記し会場入りした。「ぶっつけ本番だった」とネタ合わせは出番前、会場の隅で壁に向かって短時間行っただけ。不安を抱えながら本番に挑んだ。1回戦で与えられたネタ時間は2分間。無我夢中で笑いを取った。
■コンビ名は「市長・市民」自費&割り勘
8月初旬に始まり、10月初旬まで全国各地で行われる1回戦。121組が挑戦した当日、31組が通過したが、そのうちアマチュアは「市長・市民」を含めたったの4組。狭き門をクリアしてみせた。「1回戦のスケジュールを見て、公務のない休みの日がここだけだった。すべてプライベート」と市長。会場への移動は自費で、参加費2000円も“若手芸人”らしく、山本さんと1000円ずつ割り勘したという。
当初は昨夏に挑戦する予定だったが、当時は新型コロナウイルス感染拡大の第5波が日本中を襲い、緊急事態宣言が発出されていた。「さすがに出られなかった」と断念した。満を持して1年越しの夢をかなえた市長に、山本さんも「さすが市長をするだけのこともあって、しゃべりは上手」と舌を巻いた。
2回戦は10月10日に行われる。「日程のうち、公務がないのは祝日のその日だけ」と参戦を決めた。「優勝を目指します…と言いたいけど、当然そんなに甘くない。ちょっとでも柏原市をPRできれば」と市長。1組3分間となる2回戦のステージでも会場を沸かせ、柏原市の知名度を全国区にするつもりだ。
◆冨宅 正浩(ふけ・まさひろ)1975年10月24日、大阪・柏原市生まれ。46歳。八尾市役所職員を経て2013年、柏原市議会議員に当選。17年、柏原市長に就任。趣味は映画観賞と温泉。座右の銘は「初心忘るべからず」。
◆柏原市(かしわらし)大阪府の中部で奈良県と隣接する自治体。市全体の3分の2が山間部で、大阪市から約20キロのベッドタウン。ブドウ栽培と染色業が盛ん。1958年に市制施行。中心駅はJR大和路線・柏原駅と近鉄大阪線・河内国分駅。人口約6万7000人。奈良・橿原(かしはら)市や兵庫・丹波市柏原(かいばら)町と間違われたり「かしわばら」と誤読されるのが悩み。