全面的な取調べの可視化を求める日弁連のフォーラムが9月5日、弁護士会館で開かれ、会場とオンライン合わせて約250人が参加した。
2019年に施行された改正刑訴法では、録音・録画が裁判員裁判対象事件などに限られている。3年後に見直すとの規定にもとづき、法務省では今年から協議が始まっている。
2011~2014年の法制審委員で冤罪被害者の村木厚子さんらが登壇し、「あるべき姿は全件録音・録画」などと訴えた。村木さんと共に一般有識者として委員を務めた連合前会長の神津里季生さん、映画監督の周防正行さんら4人も会場に駆けつけた。
フォーラムでは、大阪府で2012年にコンビニ強盗の容疑で逮捕され、300日超拘束されたミュージシャンの土井佑輔さんが講演した。コンビニの自動ドアについた指紋が事件と別の日のものだったという証拠が見つかり、2014年に無罪判決が言い渡された。
「刑事は顔を近づけて大声で『おまえがやったんやろ!』『クズが!』『警察なめたらあかん』などと言い続けました。でも、僕はやってない。弁護士さんに言われた『黙秘』が神様からの声のようでした」
今年になって真犯人が見つかり、大阪府警から初めて謝罪があった。
「近くの泉大津署でやってくれと言っても、府警に来てほしいと。行ってみたら形式的な謝罪で、事件のことをろくに知らない偉い人が頭を下げていた。知らないのに謝るってなに? 自分を追い込んだ刑事も、この謝罪を知らないっていうんですよ」
真犯人が見つかる前だったこともあり、警察を訴えた国賠訴訟では最高裁まで闘って敗訴している。辰巳創史弁護士は「土井さんの例は決して稀じゃない。自白偏重で『いっちょあがり』。裁判所も安心して有罪出せるようになっている」と説明した。
土井さんは録音・録画が重大事件に限られている現状を問題視し、むしろ窃盗など軽い犯罪のほうが冤罪の可能性が高いとし「守られるべき人を守る制度にしてほしい」と訴えた。
元厚労省局長の村木さんも郵便不正事件での経験を語った。
「突然取調べに入るのは、ルールを教えられる前にリングに上がって試合を始めるようなもの。『話したらわかってくれる』というのはなく、真相を解明してくれないんだとショックでした。ストーリーがあって部品を集める、裁判のための材料をつくっていくような感じでした」
大阪地検の主任検事が証拠を改ざんし、証拠隠滅の罪で実刑判決。上司の特捜部長・特捜部副部長も証拠隠滅と犯人隠避の罪で有罪判決を受けている。
「うそで誘導したことも録音・録画があれば分かったはず。検察は、いい供述証拠が取れれば共有し、整合性を取るようにする。体育会系組織で方針転換できないようです」
村木さんら一般委員だった5人は今年7月に「取調べの録音・録画の完全実施」などを求める法務大臣宛の要請書を提出した。この日、会場に来た周防監督はこう発言した。
「法制審で一番驚いたのは、司法の世界は反省をもとに集まったと思ってたら、誰も反省していなかったこと。妥協案をまとめたが、録音・録画はわずか全事件の3%とあまりにも不十分で終わってしまった」
「当時より世間の関心は薄れています。障害がある人など供述弱者の問題も残っています 。(改正法施行後に録画した取調べの実態など)具体的なデータをもとに見直し議論を進めてほしい」